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喧嘩をしたみたいです!*
しおりを挟む押し付けられたペニスが、ぐぷ……とわずかに歩夢の後孔へと含まされる……――
「うっ、ううう……っ、ゔ~~~~っ!」
「……お、おい、歩夢?」
「うえぇぇっ……、も、やだよぉ……おっ、おだわらさん、怖いぃ……っ」
キスもしない。顔も見えない。
ただひたすらに小田原の怒っているような気配だけが伝わってきて、歩夢は快感に染まり切ることが出来ない。気持ちいいはずなのに、心と身体がどんどん冷えていく。
気づけば歩夢のペニスはくたりと力を無くしており、しゃくり上げながら涙をこぼす姿は憐憫の情を覚えずにはいられない。
「ちっ、くそ……っ」
さすがにまずいと思ったのか、小田原は早々に後孔を押し拡げていたペニスを抜いた。押さえ付けられていたものがなくなると、カクンと膝から力が抜けて、歩夢はそのままへたり込んでしまう。
「……悪い。やりすぎた」
ひっく、ひっく、と肩を揺らし顔を伏せている歩夢に、小田原がぽつりと呟いた。
「…………出てって……」
「歩夢……」
「っ、いいから、出てってよ……!」
小田原の方を一切見ずに、歩夢はそう言い放つ。
顔なんて見たくなかった。
とにかく早く一人になりたくて、嗚咽を堪えて小田原が居なくなるのを待っていた。
「……悪かった。監督には……少し遅れるかもって伝えておく」
「…………」
元より用意していたのだろうか。歩夢のそばにタオルを置きながらそう呟いた小田原に、返事もしないで無視していると、しばらくしてから静かに扉が閉まる音がした。
部屋の中から小田原の気配がなくなった途端、急に肌寒さを感じて身が震える。
一体何がどうなって、こんなことになってしまったのか。
「……っ、なんなんだよ……! 意味分かんない……っ」
涙をぬぐいながら、置かれたタオルを壁に投げつける。が、べたべたに濡れた身体や床を拭くために、自分で投げたそれをもう一度拾う羽目になった歩夢は、そのことすら小田原のせいだと腹を立てた。
(小田原さん意地悪すぎるよっ。なんか分からないけど、すごい怒ってたし……)
なんであんなこと、するんだろう?
そんなに自分のことが気に食わないのか?
いいや。確かに今日はおかしかったけれど、いつもの練習ではもっと優しい。耳元で囁かれる言葉も、身体を撫でる大きな手のひらも、蕩けそうなくらい甘くて、壊れモノを扱うみたいに優しくて……。
「……っ」
その時のことを思い出しだだけで、背筋にゾクゾクした痺れが走る。
では、どうして今日はあんなに意地悪だったのだろうか。いつもの練習と違ったことはなんなのか、記憶を辿ってみる。
「……俺が永瀬さんと話してたから、とか……?」
永瀬のすけべな悪戯から助けてもらったのは二回目だ。ただそのことに怒っていたという可能性もあるが、控室から出たばかりの時はいつも通りだった気がする。そのあと口論みたいな感じになって……その時は少し様子がおかしかったような。そう思ったら練習の最中も、やたらと永瀬さんの話をしていた気がしてきた。しかしそれが何故なのかは、歩夢にはわからない。
「もしかして、ヤキモチ……なんてことは……」
ふと頭に浮かんだことを口に出し、歩夢は自分で言った内容に思わず照れてしまった。
(まさかとは思うけど、小田原さんって俺のことが、す、す、好き……、だったりして……っ!?)
そう考えれば、いろんなことがなんとなく辻褄があってくるような気がする。
こんな練習にいつまでも付き合ってくれているのも。
意地悪だけど、困った時にはいつも助けてくれるのも。
永瀬との関係を疑ってきたりするのも。
全部、自分のことが好きだから……だとしたら? そんなことを考えていたら、歩夢の心臓はおかしいくらいドキドキと音を立て始める。先ほどまでの、意味不明な悲しみに襲われるのとは少し違う、なんとも言えない変な気分だ。
もっと他になにか理由があったのかもしれない。歩夢がした何かが気に食わなかったのかもしれない。そうだったとしても、理由も分からずモヤモヤしていることが歩夢は気持ちが悪くて仕方がなかった。
(小田原さんに会って、聞いてみたい。練習は、いい、けど……ああいう無理やりなのは嫌だって、ちゃんと話をしよう……)
――……そう思っていたのに。
身なりを整えて向かったスタジオには小田原の姿はなく。不思議に思いながらも収録を終えて楽屋に戻ると「今日は電車で帰ってください」というメモだけが歩夢の荷物の近くに残されていた。
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