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真面目な話をしてたんです!
しおりを挟む小学生の頃、片親だった歩夢は学校が終わると、放課後はいつも児童館にいた。施設の人たちは優しくて、そこはとても居心地のいい場所だったけれど、ずっと居たいと思うほど楽しい場所かと聞かれれば、正直答えはNOだった。
『歩夢くんバイバーーイ!』
『またね』
(あーあ、一人で何しようかな。絵本はもう何回も読んだし。ゲームも飽きちゃった)
たまの両親の不在で施設を利用している子ども達とは違い、ほぼ毎日のように通っている歩夢にとって、そこに真新しいものなど一つもなかった。
『みんな~! ひだまり劇団の皆さんが来てくれましたよ~!』
『……っ!』
『やったぁー!』
『わぁ~いっ』
代わり映えのしない穏やかな日常の中で、たまに近所の劇団員がボランティアで人形劇をしに来てくれることがあった。
『あれ、こんにちは。今日も観に来てくれたんだね』
『うん! こんにちはっ』
『よかった。今日はこの間、君がリクエストしてくれた劇をやる予定だったんだ。観てもらいたかったから嬉しいよ』
『わぁ……っ』
コミカルに動く可愛い人形たちに、歩夢をはじめとした児童館の子ども達はすぐ夢中になった。表情がない人形のはずなのに、劇団員の人が声を吹き込めば笑ったり泣いたり怒ったりしているように見える。声色だけで様々な感情を表現し、多彩なキャラクターを演じわけるその姿に、小さい歩夢は感動して憧れたのだ。
「その時だけは、時間とか、寂しさとか、嫌なことも全部忘れて楽しむことが出来たから」
今でもその時のことを思い出すと、自然と笑顔が溢れる。歩夢にとって、大事な大事な思い出。
「……だから自分でもそんな風に、どこかの誰かを楽しませることが出来たらいいなって思って。いろんなキャラクターのいろんな感情を表現して、見ている人になにか影響を与えられたらなぁって」
「なるほどねぇ。役者にはなろうとはしなかったの? 歩夢ちゃんくらい可愛いかったら、そっちの道でもすぐ人気でそうだけど」
自分よりも整った容姿をしている永瀬にそんなことを言われて、歩夢は思わず苦笑した。
「んー、実はそれを考えたこともあるんです。でも、役者さんはどうしても見た目の印象が強く残っちゃいません? 声優だったら姿は変幻自在。やろうと思えば性別だって種族だって、変えられるんですよ」
自分が好きな男性キャラクターを演じているのが、女性の声優さんだと知った時の衝撃はすごかった。今の時代は声優も様々なメディアに露出をするようになっていて、キャラクターと声優本人のギャップに驚かされることも少なくない。
「その自由な世界に憧れたんです。まぁそれも実力次第で、自分がまだまだだっていうことは、身をもって分かってるんですけどね」
まだまだ与えられる役が一辺倒の歩夢には遠い未来の話だが、いつかはたくさんのキャラクターを演じ分けることのできる声優になりたいと思っていた。そんなことを少し照れくさそうに話す歩夢に、永瀬は今までにないくらい優しい笑顔を向けていた。
「そっか。ちゃんと考えてて、偉いじゃん」
「もう、子ども扱いしてませんか?」
ぽんぽんと頭を撫でられ、歩夢は思わず頬を膨らませる。永瀬は、今の自分にとって一番近くにいる見える目標なのだ。ライバルとまではいかなくても、出来る事なら同等の力を持つ存在として認めてもらいたかった。
「ちゃんとオトナなど思ってるよ~。流石に俺も子どもにはセクハラはしないって」
「ひゃんっ!?」
「お、感度は上がったかな?」
そんなことを言いながら、永瀬の手が歩夢の身体を滑っていく。軽い調子ではあるものの、的確に歩夢のイイトコロを掠めていくおふざけに、意図せず声が甘くなってしまう。
気付けば腕を掴まれて立ち上がることも出来ない歩夢は、必死に身を捩りながら逃げようとするが上手くいかない。
「ちょ、っと……っ、永瀬さん、ふざけるのは……っあ♡」
「収録の時もさぁ~、最近やばいんだよね。歩夢ちゃんの声聞いてると、ガチで勃ちそうになってくる」
「っん……!」
するりと優しくデニムの前を撫でられて、背筋が震えた。こういう時にどういう対処をしたら正解なのかが歩夢には分からない。とにかく永瀬の手から逃れようと藻掻きながら、どうしよう、どうしよう……!と頭をぐるぐるさせていると、控室のドアが鳴った。
――コンコンコン
「失礼します」
静かに開かれた扉の向こうから現れたのは、歩夢の優秀なマネージャーだった。
「お、小田原さん……」
「あー……ほんっと、イイトコロで来てくれるよねぇ……」
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