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意地を張っているんです!*
しおりを挟む広いリビングに、耳を澄まさないと気付かないほどの音量で、くち、ちゅく……と微かな音が聞こえる。
「……んっ、ふ……ぅ……♡」
「おーい、歩夢~。入ったかぁ?」
「……っ、ま、だ……っ」
初めて使うローションをこれでもかと手のひらに広げ、歩夢は息を詰めながら自分の後孔を弄っていた。
強気に出来ると宣言した姿はどこにいったのか。未知の体験に身体を強張らせた青年は、何度も深呼吸を繰り返すが、未だに指の一本すら挿入が叶っていない。
「そんな調子じゃ、日が暮れちまうぞ。もしかして人差し指すら入ってないじゃねぇか」
「う、うっ、さい……! これから、入れるの……っ」
背中を向けている相手には見えていないはず。それなのに、的確に今の現状を言い当てる小田原に歩夢は内心焦っていた。
(こうなったら勢いだ! 少しでも入ったら、後はなんとかなるはず……っ)
「ンンッ! はぁっ、は……っ」
歩夢は再びローションで指をたっぷりと濡らすと、意を決して人差し指の先端を後孔に突き刺した。ようやく少しだけ先に進んだものの、力の入った身体では第一関節までを入れるだけで精一杯で、それ以上は進むことも抜くことすら出来なくなってしまう。
(どどどどうしよう?! ここからどうしたらいいんだ……?!)
なんとかそこまで進展しても、歩夢の身体は少しも快感など感じておらず、小田原とのキスで張り詰めていたはずのペニスは、今やくたりと下を向いていた。
「おら、手止まってんぞ」
「あっ……馬鹿、こっち見ないでよ……っ!」
ぎちぎちに食い締める後孔を無理やり押し拡げることも出来ず、ピタリと動きを止めていた歩夢。そんな状態を見かねてなのか、背を向けていたはずの小田原がすぐそこまで来ていた。
「んなこと言ってる場合かよ。……大丈夫か?」
今回ばかりは小田原の声に揶揄いの色は見えず、純粋に心配してくれているのだと分かった。大きな手が歩夢の頭をくしゃりと撫でる。その思いの外優しい手の感触に、歩夢の大きな瞳からはぽろぽろと涙が溢れ始めた。
「……っ、も、無理……かもぉ……っ」
ひんひんとしゃくり上げながら、縋るように伸ばされた腕に誘われるまま、小田原が震える細い肢体を抱きとめた。なんの色気もなく、ただ慰めるためだけに、ポンポンと背中を叩く。
「~~っていうか! 俺なんでこんなことしてるの? い、意味わかんないっ」
「それはお前がすぐ挑発に乗るからだろ」
「だってぇ~~っ!」
歩夢の気質を正しく理解している癖に、挑発してくる小田原もどうかと思う。全くもって大人気ない。少しくらいは優しくしてくれてもいいじゃないか。自分に対して意地が悪すぎると思う。
「お尻なんて苦しいだけで、全っっ然、気持ち良くなんかないし……! 小田原さんは意地悪だし、性格ねじ曲がってて、さいてーだし……っ」
ここぞとばかりに思っていたことをぶち撒ける歩夢の、正面きっての盛大な悪口に小田原は苦笑するしかなかった。
「ううう……っ。おだわらさんの馬鹿ぁ! もう、さっさと助けてよぉ……っ」
「ったく、仕方ねぇなぁ……。こうやってやんだよ」
「え、あっ! やだ、それはやめて……っ!」
前にも後ろにも動くことのできなくなっていた手を掴まれて、差し込んだ指をくりくりと動かされる。後孔が無理やり広げられる感覚に、ぞわぞわとした悪寒が止まらない。
「んな中途半端な状態じゃ、苦しいだけに決まってんだろ。大丈夫だから、ちゃんと呼吸しろ」
「ふ、ぅ……っ、やだって、言ってるのに~……っ」
ぐずぐずと文句を言いながらもしがみ付いてくる身体を支えながら、小田原はいつの間にか手に取ったローションを、差し込まれた指に添わせて足していく。歩夢がゆっくりと呼吸を繰り返すリズムに合わせて、小田原に導かれた細い指がどんどん飲み込まれていった。
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