32 / 55
練習の成果です!
しおりを挟む「ははは、相変わらず賑やかだなぁ。それじゃあ気を取り直して、内野さんの収録始めようか」
「は、はい。よろしくお願いします!」
ブースに入りマイクの前に立った歩夢は、深呼吸をして気持ちを整える。歩夢としては、この場に永瀬がいなくなるのは少しだけ安心する。何もなかったとはいえ、あの時、彼が怖いと思ったのは確かなのだから。
(そういえば、小田原さんのことは怖いなんて思ったことなかったな)
口は悪くても、その手はびっくりするくらい優しい。それもこれも、自分が彼にとって大事な商品だからなのかもしれないけど。
そんなことを考えながら収録を進めていたからなのか、今日の収録では普段ならほとんど起こさないミスを連発してしまった。
「こんなに収録が長引くの初めてじゃない? 今日は珍しかったねぇ」
「すみませんでした……」
「いやいや! 長引いたって言っても、予定時間内だし。いつもスムーズすぎるのが以上なんだよ」
カラカラと明るく笑う監督に、歩夢は少しだけホッとする。
「永瀬さんも普段あんな調子だけどさ、収録が始まるとスイッチが入ったみたいに完璧に演技してくれるし。二人のレベルの高さにはこちらも助かってるよ~」
「そんな、ありがとうございます」
照れ笑いを浮かべる歩夢を微笑ましそうに眺めながら、「そういえば」と今思い出した顔をした監督が、突然とんでもないことを言い出した。
「明日は初めての濡れ場の収録があるでしょ? 実は原作者の中御門先生が見学にいらっしゃることになってね」
「えっ……!?」
「なんでも明日の収録箇所は思い入れのあるシーンらしくて、それはそれは楽しみにされていたよ! だから明日は気合入れて頼むね!」
「ええっ! は、はい……」
もちろんそんな話を聞かずとも、元より気合を入れて準備に励んでいたのだけれど。
(そ、それって、絶対に失敗できないやつじゃん~!)
より一層プレッシャーのかかった歩夢は、不安な気持ちを抱えながら苦笑いを浮かべることしかできなかった。
◇◇◇
「んじゃ、見せてもらおうか」
監督から思わぬプレッシャーをかけられた後、向かった先は約束通りに小田原の家。そして、これから始まるのは男のプライドをかけた真剣勝負である。……とはいえ、一体どうしたら勝負に勝ったことになるのだろうか。小田原は「俺が勃つくらいエロい声」と言っていたけれど。
何をどう進めていけばいいのか分からず、ソファに座ってネクタイを弛めている小田原に、少しの期待を込めて確認してみる。
「見せるって……どうしたら……」
「さぁ? 一人で出来るんだろ。それくらい自分で考えな」
「……っ」
(~~~っ、この、意地悪陰険伊達メガネ……っ!)
やはり敵に頼ろうとしてはいけない。歩夢は弱気になった自分を奮い立たせるように、目の前の男をキッと睨みつけた後、静かに意識を集中させた。
目を瞑り、イメージを膨らませていく。
自分がいるのは収録スタジオだ。
これから始まるのは、ミオとレイジのはじめてのセックスシーン。
俺は、ミオ。はじめはお金で自分を支配するレイジのことが嫌いだったけど、少しずつその優しさに触れることで、惹かれ始めているところ。そんな相手と俺はこれからセックスするんだ……ーー
「……あっ、ん♡」
目の前のレイジを想像して、ミオになりきった歩夢は甘く蕩けた声を紡ぐ。はじめは控えめに。だけど我慢できない秘めやかな声が、少しずつ漏れ始めてしまう。
「ふ、ぁ、 ぁぁ……っ♡ 待って……」
そんなことを言っても、止まらないレイジの手に翻弄されるミオ。自分の意思とは関係なく、身体はどんどん昂っていき……。
「んッ♡ や、駄目……っ! イク……、イっちゃうぅ♡♡」
遂には一人達してしまう、その時の台詞を表現して、歩夢は目を開ける。
「……ど、どうだっ!」
腕を組んで座っていた小田原も、歩夢と同じように目を瞑っていた。いつもみたいな意地悪な顔をして聞いているかと思ったら、思っていた以上に真剣に耳を傾けていたと知り、なんとなく嬉しくなる。
(初めの頃とは随分変わったはずっ。かなり……え、えっちな声出したし……!)
0
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる