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練習の成果です!

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「ははは、相変わらず賑やかだなぁ。それじゃあ気を取り直して、内野さんの収録始めようか」
「は、はい。よろしくお願いします!」

 ブースに入りマイクの前に立った歩夢は、深呼吸をして気持ちを整える。歩夢としては、この場に永瀬がいなくなるのは少しだけ安心する。何もなかったとはいえ、あの時、彼が怖いと思ったのは確かなのだから。

(そういえば、小田原さんのことは怖いなんて思ったことなかったな)

 口は悪くても、その手はびっくりするくらい優しい。それもこれも、自分が彼にとって大事な商品だからなのかもしれないけど。
 そんなことを考えながら収録を進めていたからなのか、今日の収録では普段ならほとんど起こさないミスを連発してしまった。

「こんなに収録が長引くの初めてじゃない? 今日は珍しかったねぇ」
「すみませんでした……」
「いやいや! 長引いたって言っても、予定時間内だし。いつもスムーズすぎるのが以上なんだよ」

 カラカラと明るく笑う監督に、歩夢は少しだけホッとする。

「永瀬さんも普段あんな調子だけどさ、収録が始まるとスイッチが入ったみたいに完璧に演技してくれるし。二人のレベルの高さにはこちらも助かってるよ~」
「そんな、ありがとうございます」

 照れ笑いを浮かべる歩夢を微笑ましそうに眺めながら、「そういえば」と今思い出した顔をした監督が、突然とんでもないことを言い出した。

「明日は初めての濡れ場の収録があるでしょ? 実は原作者の中御門先生が見学にいらっしゃることになってね」
「えっ……!?」
「なんでも明日の収録箇所は思い入れのあるシーンらしくて、それはそれは楽しみにされていたよ! だから明日は気合入れて頼むね!」
「ええっ! は、はい……」

 もちろんそんな話を聞かずとも、元より気合を入れて準備に励んでいたのだけれど。

(そ、それって、絶対に失敗できないやつじゃん~!)

 より一層プレッシャーのかかった歩夢は、不安な気持ちを抱えながら苦笑いを浮かべることしかできなかった。


◇◇◇


「んじゃ、見せてもらおうか」

 監督から思わぬプレッシャーをかけられた後、向かった先は約束通りに小田原の家。そして、これから始まるのは男のプライドをかけた真剣勝負である。……とはいえ、一体どうしたら勝負に勝ったことになるのだろうか。小田原は「俺が勃つくらいエロい声」と言っていたけれど。

 何をどう進めていけばいいのか分からず、ソファに座ってネクタイを弛めている小田原に、少しの期待を込めて確認してみる。

「見せるって……どうしたら……」
「さぁ? 一人で出来るんだろ。それくらい自分で考えな」
「……っ」

(~~~っ、この、意地悪陰険伊達メガネ……っ!)

 やはり敵に頼ろうとしてはいけない。歩夢は弱気になった自分を奮い立たせるように、目の前の男をキッと睨みつけた後、静かに意識を集中させた。

 目を瞑り、イメージを膨らませていく。

 自分がいるのは収録スタジオだ。
 これから始まるのは、ミオとレイジのはじめてのセックスシーン。

 俺は、ミオ。はじめはお金で自分を支配するレイジのことが嫌いだったけど、少しずつその優しさに触れることで、惹かれ始めているところ。そんな相手と俺はこれからセックスするんだ……ーー

「……あっ、ん♡」

 目の前のレイジを想像して、ミオになりきった歩夢は甘く蕩けた声を紡ぐ。はじめは控えめに。だけど我慢できない秘めやかな声が、少しずつ漏れ始めてしまう。

「ふ、ぁ、 ぁぁ……っ♡ 待って……」

 そんなことを言っても、止まらないレイジの手に翻弄されるミオ。自分の意思とは関係なく、身体はどんどん昂っていき……。

「んッ♡ や、駄目……っ! イク……、イっちゃうぅ♡♡」

 遂には一人達してしまう、その時の台詞を表現して、歩夢は目を開ける。

「……ど、どうだっ!」

 腕を組んで座っていた小田原も、歩夢と同じように目を瞑っていた。いつもみたいな意地悪な顔をして聞いているかと思ったら、思っていた以上に真剣に耳を傾けていたと知り、なんとなく嬉しくなる。

(初めの頃とは随分変わったはずっ。かなり……え、えっちな声出したし……!)




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