31 / 55
変わっていく二人の関係?です!
しおりを挟む「じゃあ、俺の前でやって見せてくれよ」
「……えっ?!」
思わず振り返った歩夢は目を丸くしていたが、小田原はニヤニヤとした表情を隠そうともしない。
「なにも分かんないって最初に泣きついてきたのはお前だろ。やっぱり無理でしたぁ~なんて、後から言われて何度も振り回されるのはごめんだからな。本当に一人で出来るのか、見せてもらおうじゃん」
(たしかに……たしかに、そうなんだけど……!)
そうだったとしても、もう少し言いようがあるのではないのか?!
高慢な態度を貫き通す小田原に、歩夢の苛々は募るばかりだった。そしてそのおかげで、普段は抑制している元来の勝気な性格が、むくむくと顔を出してきてしまう。
「今から、と言いたいところだけど……すぐ出番がくるか」
ちらりと壁にかかっている時計をみて、自分たちに残り時間が少ないことを確認すると、小田原は提案ではなく決定事項として歩夢に伝えた。
「今日も仕事が終わったらウチに来い。聞いてる俺が勃つくらいエロい声、聞かせてもらおうじゃん」
「っ、のぞむところだ!」
本当に出来るのか? という一抹の不安を抱えながらも、小田原の余裕綽々な態度を崩してやりたい一心で、歩夢はこの勝負に受けて立つことを決めたのだった。
◇◇◇
「歩夢ちゃーん♡ さっきぶり♡」
歩夢がスタジオに入ると、先に収録を終えたらしい永瀬が相変わらずの調子で話しかけてくる。先ほどのことなどまるで忘れてしまったかのようなその態度に、これからどういう接し方をすればいいのか、少しだけ悩んでいた自分が馬鹿らしく思えてくる。
しかし、永瀬が変な絡みをしてきたせいで、仕事終わりに小田原と一勝負する事になってしまったのだから、その恨みは忘れていない。
(永瀬さんのせいで……)
そんな気持ちを隠しながらにっこりと微笑めば、その笑顔に何か含みを感じたような永瀬が、自分の身体を抱きしめながら大げさに声をあげる。
「えー? なにその笑顔~! 歩夢ちゃん、こわーい!」
「なんのことですか? 全然怖くなんてないですよ~」
はたから見れば、仲睦まじくじゃれ合っているようにしか見えない二人の姿に、監督が嬉しそうに話しかけてきた。
「なんか二人とも仲良くなったねぇ。これなら明日の録音も上手くいきそうだ」
今回のキャスティングを決定する際、品行方正で有名な歩夢と、世の中的には隠されてはいるがちゃらんぽらんな永瀬の共演を一番危惧していたのは制作サイドだった。それが、例えばどちらかがただの端役であれば大きな問題ではないが、今回は主演同士である。万が一収録途中で二人の仲が険悪にでもなってしまえば、企画自体が頓挫することも絶対にないとは言い切れない。
その時はどうするか……ということまで、綿密にシミュレーションをしていた監督からすれば、なにやら冗談を言い合いながら仲良くしている二人の姿を見ることが出来るのは、なによりも嬉しい事だった。
「もっちろん♡ 俺たちこれから、公私共にらぶらぶになる予定なので~」
「あ! 永瀬さん、やめてください~っ」
にこにこと満面の笑みを浮かべて自分たちを見る監督の姿に気を良くしたのか、永瀬が歩夢の肩を抱きながら唇を寄せていく。びくりと身体を反らせて逃げる歩夢は本気で嫌がっているのだが、他にもスタッフがいるこの場であまり強い態度はとることが出来ず、やんわりと断る事しかできない。
「永瀬さん……――」
「こらぁ! いい加減にしてくださいっ。すみません、内野さん……うちの永瀬がふざけたことを……」
「あっ、いえ……」
見かねた小田原が苦言を呈そうとした時、その言葉に被せるように大きな声を上げたのは、永瀬のマネージャーだった。
「ほらっ! あなたの分の収録は終わったんですから、帰りますよ……!」
「いた、いたたたたっ! ちょ、森ちゃんっ、引っ張りすぎ! 抜けるっ、抜ける~!」
そんなやり取りをしながら、永瀬はマネージャーの森に髪の毛を掴まれたまま、引きずられるように退室していく。初めて見た時は少しぼんやりした、穏やかなマネージャーだという印象だったが、なるほどこういう一面もあるのか。優しそうだと思っていたが、中々に過激な面もあるようだ。あれぐらいの胆力がないと永瀬の相手は務まらないのかもしれないなぁ、なんて他人事のように歩夢は考えていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
149
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる