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なんだかモヤモヤするんです!
しおりを挟む「はぁ~~……」
翌日。控室で一人、歩夢は机に突っ伏していた。
(ど、どうしよう。俺……練習とはいえ小田原さんとあんなエッチなことを……っ!)
あの後意識を失うように眠ってしまった歩夢は、今朝小田原に起こされるまで一度も目が覚めなかった。寝惚け眼がようやく覚醒した時には、既に小田原は着替えも済ませており、簡単な朝食まで準備してくれている完璧ぶり。それに対しての歩夢はというと、着替えた覚えのないスエットを身に纏い、妙にすっきりした身体で小田原のベッドで横になっていた。
『そろそろ起きないと間に合わなくなるぞ』
そんな一言で歩夢を起こしにきた小田原は、至って普通だった。一度家まで送ってくれた後、服を着替えた歩夢を事務所まで送り、そのまま『恋なら』の収録現場まで同行している。今は歩夢を控室に残して、今後のスケジュールを調整するために監督のところへ行っていた。まるで昨日の練習などなかったものかのような態度を取る小田原に、歩夢はどういう反応を返していいのか分からない。
(っていうか、今更だけど練習って何?! 俺からお願いしたことだけどさっ! 恋人でもないのにああいう事するのって、普通のことなの?!)
「もうっ! 大人って、よく分かんない……っ」
あからさまに揶揄するような態度をとられても困るが、歩夢にとってはかなり衝撃的な体験だったのだ。例えば、「大丈夫か?」とか、少しは気遣うような態度をとってもいいのではないだろうか。
そう思って歩夢がぶすくれていると、控室の扉が開き永瀬がやって来た。
「歩夢ちゃん、やっほー♡ 今日もよろしくね~」
「あ、永瀬さん……っ! は、はい。よろしくお願いします」
先輩の登場に歩夢はだらけ切った姿勢を正し、礼をしながら挨拶を返す。にこり、といつも通り微笑みを向ければ、なぜか永瀬がじろじろと歩夢の顔から全身を嘗め回すように見まわした。
「ん? ん~~~?」
「あ、あの……、永瀬さん……?」
不躾なくらいの視線を感じ、もしかして何か変なところがあるのだろうかと急に不安になってくる。歩夢は戸惑いながらも永瀬に声をかけた。
「永瀬さん? あの、どうかしましたか」
「なぁんかさ、色気出てきた? 初めて会った時とずいぶん雰囲気変わったね」
その言葉にどきりと心臓が跳ねる。
色気だなんて言われると原因は一つしか考えられない。朝、鏡を見た時は特に変わったところはなかったはずなのに、自分には分からない何ががあるのかと、歩夢は視線を泳がせた。
「前は真面目な清純派~って感じの綺麗で清楚な印象しかなかったけど、なんか急にえっちくさくなったっていうか」
「えっ?! えっ、ち……って……」
「あれ~~? 何その反応~~♡ もしかして……本当にオトコ知っちゃったとか?」
「っ……!」
歩夢のあからさまな動揺を受けて、永瀬の表情が喜色に染まる。もし歩夢がいつもの調子であれば、こんな軽口に顔色を変えることはなかっただろう。無難に笑顔で乗り切ることが出来たはずだ。しかし、今日の歩夢は自分でも分からない感情に振り回されて、混乱の最中にいた。結果として永瀬のストレートな指摘に、かぁぁッと頬を薔薇色に染めて、何も言えなくなってしまう。
「うわー、まじ?! ちょっとカマかけたつもりだったんだけど、本当にヤっちゃった?」
「やっ、ヤってないです!」
果たしてあの練習が永瀬の言う「ヤった」に入るのかは分からないが、それだけは即座に否定する。
(第一、俺も小田原さんも男で、練習以上の関係になるはずないし……っ)
自分で考えた内容に、少しだけ胸が苦しくなった気がするけど、それはきっと気のせいで。歩夢はわずかな引っ掛かりを見ないふりして、小さく頭をふった。
「もしかして、あのむかつくくらいスカしたイケメンマネが相手?」
「えぇっ?! えっと……そ、それは……っ」
「なんだよ~久しぶりに可愛い子と共演だぁって喜んでたのに。くそぉ、俺が処女貰いたかったなぁぁ~~」
「しょ、処女って……俺は男ですよ? 貰うもなにも、出来ないじゃないですか」
性的な行為にほとんど興味がなく、また下世話な話題を一緒に楽しめるほど心を許した友人もいない歩夢は、性的な知識がかなり乏しい。一般的な知識は持ち合わせているものの、同性同士のやり方など知る由もなかった。
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