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自分だけじゃ、嫌なんです!*

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「……ぁ、あ……ン……っ♡」

 甲高い声を出して身体を強ばらせた歩夢に、ようやく小田原の動きが止まる。

「……イったか?」
「っ、! だ、だから……止まってって、言ったのに……!」

 射精の事実を確かめるように下半身に伸ばされた腕を叩きながら、歩夢は顔を真っ赤にして小田原を睨みつけた。その目にはみるみるうちに涙が膜を張り、大粒の雫が溢れ出す。

「うっ、う~~~っ!」

 しゃくり上げながらぼろぼろと泣き出した歩夢を前にして、さすがの小田原も動揺したのか、慌てて涙の止まらない小さな頭をかき回した。

「あーもう、泣くなって。気持ちよかったならいいじゃねぇか」
「……ひっ、ぅ……で、でも……小田原さ、ん……イってない……」
「それは、まぁ、経験値の差だろ」

 止まらない涙を擦りながら頬を膨らます姿に、本気で傷ついているわけではないと知り、少しだけ肩の力を抜く。そしてそのまま、ごしごしと力任せに涙を拭う歩夢の手首を掴み、その所作を止めさせた。

「擦んな。腫れるぞ」
「……ぅぅっ、……小田原さんだけ、なんか、ズルい……!」
「はぁ? ズルいってお前なぁ……」
「だって! 俺ばっかり必死で、夢中になって……っ、小田原さんもおんなじ風になって欲しいのにっ」

 先程までの淫靡な空気はどこに消えたのか。ただの子どもの癇癪に近いそれは、歩夢にしては珍しい我が儘だった。

 自分の限界近くまで膨らんでいる陰茎を見て、どこが自分だけなのだと思いつつ、駄々をこねるように文句を言い連ねる歩夢を無視して無理やり続けるわけにもいかず、小田原は幼子を慰めるように優しく髪の毛を梳く。

「……だぁから、俺も興奮してるって言ってるだろ?」
「嘘! 全然余裕そうだしっ!」
「そりゃあ、歳上のくせに最初から余裕なかったら格好悪いだろうがよ。俺だって見栄張ってんの! ったく、んなこと言わせんなよ……」

 遂にはそんな恥ずかしい事情まで白状させられて、はぁぁ……と大きくため息を吐いて自分の髪の毛を搔き乱す小田原に、歩夢は涙を止めて目を丸くする。

「お前が思ってるほど、余裕なんかねぇよ? 俺のちんこと擦れて、我慢出来なくてパンツの中で漏らしてるお前、めちゃくちゃエロいし可愛いし。むしろガチガチになりすぎて痛ぇくらいだわ」
「っ、そ、そこまで言えとは言ってないからね……っ!?」

 ふざけているのか本当なのか、あえて淫猥な言葉を使って表現する男を歩夢が睨むと、小田原はなんだか楽しそうに笑い始める。

「ちょっと! 笑うなよっ」
「くくく……だって、お前……」
「なに?! 俺だってちゃんと待ってくれたら、な、中になんて、漏らさなかったし……! 小田原さんが意地悪だから悪いんじゃんっ」

 一人だけ、そして服も脱がずに達してしまったことが、相当恥ずかしかったのだろう。いつもの調子を取り戻した歩夢が文句を垂れれば、一層楽しそうに声を上げて笑っていた。

「ふはっ! お前はそんな風に、キャンキャン言ってる方が可愛いよ」
「…………っ!」

 普段見せるような皮肉気な笑みではなく、それは心からの笑顔のようで。
 少しだけ幼く見えるその表情に、歩夢の胸はどうしてか高鳴っていた。

(な、なにこれ。俺なんでドキドキしてるんだ……っ)

「ま、冗談抜きで俺もそろそろ限界なんだわ。スッキリしたところでわりぃけど、もう少し付き合えよ」
「あっ、う、うん……」

 新しく生まれた感情に蓋をするように、歩夢は小さく深呼吸をする。再び己に伸し掛かってくる男の熱い視線を全身に感じながら、これは練習なんだからと自分自身に言い聞かせる。

「流石にズボンは脱がせた方がいいか……」
「え、あっ! ま、待って……!」

 するすると小田原の手が歩夢の下肢を寛げていく。どうせならもう少し早く脱がせてくれればよかったのに、すでに歩夢のズボンは吐き出した精液で濡れていた。いくらぐちゃくちゃになった服だったとはいえ、下半身を覆っていたものが下着一枚になるだけで、無性に心許なくなる。グレーのボクサーパンツは、中心に濃い染みが出来ていて、余計に羞恥心をあおられた。

 改めて自分の惨状を目の当たりにした歩夢は、急に恥ずかしくなって、太ももをこすり合わせるようにして局部を隠す。歩夢がそんな風にもじもじとしているうちに、小田原はさっさと自分で下半身を寛げはじめ、先ほどの言葉が真実であると物語っている、力強くそそり立ったペニスを惜しげもなく曝け出していた。

(っ、ほ、本当に、おっ……きぃ……)

 衣服越しの感触で分かってはいたが、実際に目の当たりにした衝撃は更に大きかった。自分より一回りは長大に見える固く反り返ったペニスは、初めて見る他人の、大人の の男のものだった。



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