19 / 55
少し気になるみたいです!
しおりを挟む「皆川さん。プライベートをどのように過ごされていても口を出すつもりはありませんが、ご自分の事務所の大事な声優を安売りするようなことは控えていただきたいですね」
いつの間にか歩夢のすぐ隣に立っていた小田原は、ぴしりと男に苦言を呈すると、歩夢の持っていた色紙を取り上げて男に返す。一度はそのまま素直に受け取ったものの、はっと気付いたように言い訳をし始めた。
「いっ、いや! 俺は……良かれと思って……」
「あいにくですが、内野さんは皆川さんの私生活を削ったご助力がなくても、十分にファンサービスされていますので。結構です」
「う……」
取り付く島もない様子に、皆川と呼ばれた男は口ごもることしかできない。
「あまりに公私混同が過ぎると、私も黙っていませんよ……?
「わ、わかりましたよ~~っ。もう、そんな怒らなくてもいいじゃないですかっ」
「まったく、見逃すのは今回だけですからね」
剣呑な雰囲気を出し始めた小田原に恐れをなしたのか、そそくさとその場を退散した男に、小田原は呆れたようにため息を吐いた。
(……もしかして、助けてくれた……?)
自分を守るように前に立つ男の背中に、呆けたまま固まっていた歩夢はそんな考えが浮かんでくる。嫌な奴だと思っていたし、実際嫌な奴であることに変わりはないのだけど、もしそうだとしたら? 助け船を出してくれたことに一言お礼でも言うべきかと、歩夢は小田原に声をかける。
「……あの――」
「小田原さーん! ありがとうございます~私たちもずっとモヤモヤしてたんですけど、止められなくって~~」
意を決して出した呼びかけに被せるように、事務所の女性スタッフが小田原の元へ集まってきた。
「皆川さん悪い人じゃないんですけど、女癖があまりよくないというか、ちょっとちゃらんぽらんなところがあって。歩夢くん優しくてなんでも断らないでやってくれちゃうから、すぐ甘えちゃうんですよぉ」
「なるほど」
女性陣の言葉を聞くや否や、小田原は鋭い視線を歩夢に向けた。
「な、なんですか……?」
「今回のことは、内野さんにも原因はありますからね。嫌なことは嫌だとはっきりと言いなさい」
「……すみません……」
やっぱり優しくない! と思いながらも、言われた内容は間違っていないので、反論することなく受け入れる。するとその歩夢の反応を見て、周りの女性陣は困ったように眉を下げた。
「歩夢くん、やっぱり嫌だったんだよね……? ごめんね。今まで助けてあげられなくて」
「い、いえっ、そんなことないです……!」
「あんな顔してたのに、なにがそんなことないですか。ほら、もう行きますよ」
「あっ、ちょ、小田原さん!?」
そこでもまたいい子を演じようとする歩夢にも呆れたような小田原は、それ以上会話することのないように歩夢の腕を引っ張り事務所の出口へと向かう。
「い、行ってきます!」
「いってらっしゃ~~い」
若干強引にも見えるその様子に口出すこともなく、女性陣は笑顔で二人を見送った。
「歩夢くん、そんな分かりやすい顔してた?」
「全然。わかんなかった」
二人の姿が扉の向こうに消えた後、彼女たちがそんな話をしていたことは、当の本人たちは知る由もない。
◇◇◇
テレビCMのナレーション録りが終わって、小田原と歩夢の二人は連れ立ってスタジオを後にした。
「ほら、歩夢。帰るぞ」
「……うん……」
ぼんやりと心ここにあらずな歩夢を見かねて、小田原が肩を叩く。ここ数日、以前に比べて彼の元気がないこと、そしてその理由が思うように進んでいない『BLCD』にむけた練習の為だということに小田原は気付いていた。
自分の伝手を使って、歩夢に適切なアドバイスを出来る相手と引き合わせることは容易かったが、おそらく初めてぶつかったのであろう仕事の壁に対して、自ら乗り越えることができるよう、あえて厳しい言葉を口にする。
「お前なぁ、もっとしゃんとしろ。今朝だって、もっとうまく立ち回ることも出来るだろ?」
「今朝……?」
はっと何かを思い出したように顔を上げた歩夢は、小田原と目が合うなり頬を染めて顔を逸らす。その不可思議な反応に首を傾げつつも、ここで歩夢が助けを求めることが出来るようであれば、今回ばかりは揶揄わずにサポートしてやるかと、そう思っていた。
「お、小田原さん……あのさ。次の『恋なら』の収録っていつだっけ」
「次は三日後だろ。永瀬のスケジュールがぱんぱんなんだと」
あれが人気だなんて世も末だなと悪態をつきながら小田原がそう告げると、歩夢はより一層表情を曇らせた。
「三日後……。そう、だよね」
「なんだよ、随分思い悩んでんな。もしかして、また俺に練習付き合って欲しいのか?」
歩夢があまりに深刻そうな表情をしているものだから、小田原はあえて冗談めかしてそう言った。先日の事を引き合いに出して、「本当に見た目の割に全く慣れてないよなぁ」なんて、軽口を叩く。そうすることでむきになった歩夢が、いつもの調子を取り戻すのではないかと思ったのだ。
くくく、と喉の奥で笑いながら、揶揄い半分で反応のない歩夢に視線を向ける。そうした先に顔を真っ赤にしながらも、なにか思いつめたように瞳を潤ませる歩夢を見て、さすがの小田原も笑いを引っ込めた。
0
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
村人召喚? お前は呼んでないと追い出されたので気ままに生きる
丹辺るん
ファンタジー
本作はレジーナブックスにて書籍化されています。
―ー勇者召喚なるものに巻き込まれて、私はサーナリア王国にやって来た。ところが私の職業は、職業とも呼べない「村人」。すぐに追い出されてしまった。
ーーでもこの世界の「村人」ってこんなに強いの? それに私すぐに…ーー
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい
犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。
突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー)
私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし…
断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して…
関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!?
「私には関係ありませんから!!!」
「私ではありません」
階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。
否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息…
そしてなんとなく気になる年上警備員…
(注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。
読みにくいのでご注意下さい。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】友人のオオカミ獣人は俺の事が好きらしい
れると
BL
ずっと腐れ縁の友人だと思っていた。高卒で進学せず就職した俺に、大学進学して有名な企業にし就職したアイツは、ちょこまかと連絡をくれて、たまに遊びに行くような仲の良いヤツ。それくらいの認識だったんだけどな。・・・あれ?え?そういう事ってどういうこと??
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる