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一度もないんです!
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「で? どういうつもりだよ。ふざけてんのか?」
「ふっ、ふざけてなんかない……!」
個室に入るなり、小田原から投げつけられた酷い言い草に、歩夢は声を張り上げて否定した。
「じゃあ本気でやってアレだったと。余計にやべーわ」
「うぅっ……。俺なりにちゃんとと原作読んで、いろいろ考えてやってみた結果なんだよっ」
「はぁ、なるほどなぁ? まったく。お前は普段のセックスでどんな声聞いてんだよ……」
ぐっと眉を寄せて、これ見よがしにため息を吐く小田原。歩夢は悔しさのあまり涙がこぼれそうになるが、下唇を噛みしめて懸命に耐えた。
全面的に自分が不利だと自覚している歩夢は、しかしそれでも俯いたままに、微かな声で反論を試みる。
「……ないし……」
「あぁ?」
「っ、セックス! したことないから、声なんて聞いたことない!」
憤りと羞恥で顔を真っ赤にしながらそう叫んだ歩夢に、小田原は何度目になるのか分からない、呆気にとられた顔を晒した。
「は? 一度も?」
「そうだよっ」
「そんな顔してるのに? 本当に一回もないのか?」
「~~~っ、そうだよ! 悪い?!」
「いや、悪くは、ないけど……。お前の容姿で周りの女が放って置くのかと、俺は今、衝撃を受けている」
小田原がそう言いながらあからさまな視線で、歩夢を頭の上から爪先まで、じっくりと眺める。自らを値踏みするようなその仕草に、歩夢はプイッとそっぽを向くと、不貞腐れながら呟いた。
「……告白されたことは、何度もあるけど」
ぽつぽつと歩夢の口から語られた内容を要約すると、なんでも高校生になってすぐの頃、家庭教師に来てた女子大生に襲われかけた事があるらしい。
その時はなんとか事なきを得たようだが、それからというもの女性に対して好きという気持ちが生まれるよりも、怖いという感情の方が強くなってしまった。以降、お付き合いをしたい・性的な行為をしたいと思ったことがないのだという。
「それは……なかなか濃い経験してんな……」
人によっては武勇伝にでもなりそうな内容ではあるが、歩夢にとっては心に傷を負うような恐ろしい経験だったのだろう。いっそ哀れに感じる思いで、小田原は鋭すぎる視線を和らげた。
「一応確認しておくが、女は無理でも男との経験ないのか? 誘われたことは?」
「……そ、それっぽい人から声をかけられたことはあるけど、そんなの考えたこともなかったから、きちんとお断りしたよ。あとは……永瀬さんみたいな冗談を言われることは、しょっちゅうある」
「なるほどなぁ。過去のトラウマと日頃の環境から、若干潔癖が入ってる感じか……。そんなんじゃどうせ、AVも見たことないとか言うんだろ」
「……」
否定もしない様子から、今口にしたことが事実であると理解する。
「とんだ箱入りだな」
むっと唇を尖らせた歩夢は、もう何も隠すことはないと思ったのか、正直に先ほどのアフレコについての講評を小田原に求めた。
「さっきの、そんなにダメだった? 一週間ずっと考えてあれだったんだ。それが駄目なら、もうどうしたらいいのか分かんない……」
珍しく弱音を吐く歩夢から、縋るような目で見つめられ、少し考える様子を見せた小田原。しかし次の瞬間には、良いことを思い付いたとばかりに口角を上げて、ニンマリと人の悪い笑みを浮かべていた。
「しゃーない。分かんないって言うなら、実際に経験するしかねぇよな」
「……え?」
その表情から嫌な予感しかしないのは、一体何故だろうか。一歩ずつ小田原が前に進むたび、同じだけ歩夢は後ろへと下がっていく。
「俺が本当に気持ちいい時の喘ぎ声ってやつを、お前に出させてやるよ」
「え、えぇっ! 小田原さんが?!」
「他に誰がいんだよ。スケジュール崩して無理やり時間作ってんだぞ。さっさと戻らないと今後の仕事に支障が出る」
「だからって、そんな、小田原さんがしなくても……!」
長い脚で徐々に距離を詰めてくる小田原に、歩夢は手を突き出しながら懸命に間を保とうとする。どん、と歩夢の背中が壁にぶつかり、これ以上後ろに逃げることが出来なくなった段階で、小田原は拒絶する様に自分に向けて伸ばされた歩夢の手を一掴みにした。
「あぁ? じゃあ誰にさせるって? 憧れの永瀬さんか?」
「そんなことさせるわけ……っ、ぁう……!」
鈍い音を立てて、掴まれた手が頭上へと固定される。
逃げたい一心で逸らされた歩夢の小さな顔を、小田原はグイッと顎を引き寄せて自分の方に向けた。
「いいからお前は口開いとけ」
「んンっ……!」
顎を掴んだ親指に力を入れれば、痛みに呻いた歩夢が薄く唇を開く。その狭間に覆い被さるようにすると、瞬く間に分厚い舌で歩夢の咥内を蹂躙した。
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