声優(おしごと)の時間です! 〜意地悪マネージャーと秘密のレッスン?!〜

つむぎみか

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なにやら心配しているようです!

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「実はね、このBLCDの企画が上がっているという話を聞いた時に、絶対に主演の受け役は歩夢しかないと思ったの。長年のファンを自認する私が言うんだから、間違い無いわ」

 歩夢の疑問に答えるかのように、ふっふっふっ…と不気味な笑いで肩を揺らしながら社長が種明かしをする。

「だから私の方で出版社に直接、歩夢の売り込みをしちゃいました♡」
「えっ、社長自ら⁈」
「そうよ? 自分が心底愛している作品に、我が子のように可愛がっている歩夢が主演することになったら、それほど最高な話ってないじゃない! 何より一人のファンとして、これほどまでに完璧なキャスティングはないと思っているの。だからこそ自信を持ってプレゼンさせてもらったわ」

 とてもありがたい話ではあるのだが、ギラギラと輝く社長の目が怖くて歩夢の顔がわずかに引き攣る。小田原は呆れた表情を隠しもしていなかった。

「やだ、二人ともそんな顔しないでよ。公私混同って思ってるかも知れないけど、実際、歩夢のデモを聞いた中御門先生はその瞬間に起用を決めて下さったそうよ♡」
「そ、そこまで……」
「とにかく! この話は歩夢にとっても、またとないチャンスなの!」

 ガシッと歩夢の手を握り、身を乗り出した社長は鼻息荒く力説をする。

「業界の中にはBLCDを軽んじる人もいるかもしれない。けれど今や大御所の声優だって、何人も通ってきた道なのよ」

 歩夢も、自らやりたい! と思ったことはなかったが、この世界にいる以上そういった趣味嗜好や、一定の需要があるということは理解しているつもりだった。なによりこれまでに共演した有名声優と呼ばれる人たちも、雑談の中でBLCDを経験したことがあるという話を聞いたこともある。いまやBLCDは、若手声優の登竜門的な立ち位置になっているのだ。

「BLはとても奥が深い。そして客層が幅広いの。一度付いたコアなファンはなかなか離れることも無いわ。これは今まで歩夢の存在を知らなかった新しいファン層を獲得する、素晴らしい機会なのよ!」

 社長がここまで自分のことを考えてくれていたなんて。歩夢は感動で胸がいっぱいになっていた。正直最初は自分の趣味で変な仕事取ってきやがって……なんて思っていたけれど、今は純粋にその好意を嬉しいと感じている。

「どうかしら、歩夢。この話受けてくれる?」
「……はい! 是非、よろしくお願いしますっ」

 意気揚々と答える歩夢に、小田原は一切口を挟むことなく小さく息をついた。

 歩夢の了承得て、トントン拍子で話が進んだその件は、ちょうど翌日に別のキャストがスタッフとの顔合わせを予定しているとの事だったので、歩夢も便乗させて貰うことになった。
 顔合わせ場所になるスタジオと集合時間だけ確認すると、歩夢と小田原の二人は社長室を後にする。

「内野さん。本当に、大丈夫ですか?」
「……何がでしょう」

 部屋を出た瞬間、いわゆる仕事モードの小田原からそうやって声をかけられた歩夢は、同じく優等生の仮面を被ったまま笑顔で返答する。

「内野さん、BLCDなんて聴いたことないですよね。ちゃんとどんなものか分かっていますか?」
「聴いたことは……ないですけど。さっきの話にもあったように、男性同士の恋愛を描いた作品ですよね。BLは経験なくても、これまでに学園物の恋愛アニメはいくつか出演したことがありますし、その相手が女子学生ではなく男子学生になっただけじゃないんですか?」

 小田原が何をそんなに心配しているのかが分からず、思っていることをそのまま返せば、眉間に深いシワを寄せながら、小田原は大きくため息を吐いた。

「……はぁ、やはりそんなことだろうと思ってました」
「? どういうことです?」
「ちょっと待っていてください」

 やれやれとでも言いたげな態度にむっとしたものの、自分の知識が足りていない自覚のあった歩夢は素直に質問を投げかける。すると、小田原はその場に歩夢を残し、スタッフの働くデスクの方へと歩み寄ると、二言三言スタッフに話しかけて何か受け取ってきた。

「どうぞ」
「これは……?」

 手渡されたのは一枚のCDケースだった。
 パッケージにはポップな字体で書かれた『俺の恋人は鬼畜なダーリン』というタイトルと、スーツを着た見目麗しい二人の男性の立ち絵が描かれている。

「百聞は一見にしかず……ではないですが、私が説明するよりも実際にお聴きになるのが早いかと。うちの事務所にあった別作品のBLCDサンプルです。これを聴いたら、私がなにが言いたいのか分かると思います」
「あ、ありがとうございます」

 口を開けば嫌味ばかり言ってくる小田原にしては、なんと気の利くことだろう。歩夢は素直にお礼の言葉を口にすると、家に帰ったら早速これで勉強をしようと、受け取ったCDを大事そうに鞄の中にしまった。



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