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7月
いわゆる、裏路地エンカウント?
しおりを挟むどこに行くんだと何度問いかけても「まぁまぁまぁ♡」しか言わないミユに連れられてやって来たのは、商店街……の路地裏。メイン通りから少し横道に入った、建物の陰になっている薄暗いところ。普段歩いていても気にも留めなかった場所に押し込まれて、たたらを踏む。
「っ、何でこんなところ……あれ、ミユ?」
ぱっと後ろを振り向くと、そこにいるはずのミユの姿が消えている。
え、なにこれ、神隠し? ってミユ自身が神なわけだけど、一体どういうこと???
ぞわぞわっとする気味の悪さを覚えて身震いしつつ、どこかに消えたミユを探すべく辺りを見渡した。そこに期待した桜色の髪は見当たらなかったけれど、路地を進んだ先――反対側の入り口付近に、身を潜めるようにして屈みこんでいる見知った後ろ姿を見付けた。
(あれは……――)
細いパイプの陰に身を寄せてはいるが、多分外から見ても丸見えだろう。その隠れ方に意味があるのかと首を傾げながら、名前を呼んでみる。
「小白木先輩?」
「っ!」
びくんっと大袈裟なほど身を跳ねさせてこちらを振り返った顔は、思っていた通りの人物だった。
「やっぱり先輩だ。こんなところで会うなんて奇遇ですね。なにか探し物でも?」
「しっ! うるさいっ、隠れているのが分からないのか!」
「す、すみません……でも、先輩の声の方が大きいです……」
「いいから黙ってろ! 静かにしないと――」
「昴様ぁ~っ♡ こちらにいらしたのですね!」
「はぁーー……ほら、見つかった……」
え、待って。これって俺のせい???
馬鹿デカため息を落とす小白木先輩に恨みがましい目で睨まれたけど、何だか納得がいかないぞ。
しかし特大ハートのエフェクトが見えてきそうなテンションのまま、こちらに駆け寄ってくる女の子はたしかに癖が強そうではあるので、そんな彼女から逃げていた……という先輩の気持ちは分からなくもないけれど。女の子から好意を寄せられている(だろう)状況は、俺の切望する世界線でもあるので、どちらかというと羨ましさの方が勝つ。
ずるい、俺だって女の子に追い回されて「やれやれ」みたいな顔してみたい。
そんなことを考えているうちに、声の主であるザ・お嬢様な容貌の女の子が先輩に迫っていた。
「もう♡ 急に姿が見えなくなって、驚きましたのよ」
「綾小路……も、もう少し離れて……」
「あら、いやですわ。『綾小路』だなんて他人行儀……わたくしのことは『ほのか』とお呼びになって?」
「……」
ほぉ~~~~綾小路ほのかちゃんか~~~~。
なんていうか、話し方から名前まで、典型的なお嬢様キャラって感じだな。さすがに縦巻きロールヘアではないけど……ミユのやつ、少しキャラメイクが適当すぎやしないか???
彼女が一歩、また一歩と距離を詰めるたび、小白木先輩はそのさらにプラス二歩くらいの距離をとる。永遠に縮まらない距離のままぐるぐると牽制し合う二人の様子を見守っていると、小白木先輩の冷たい視線が俺に突き刺さった。
ちょ、ちょっと。なにその、お前何とかしろよ(怒)みたいな視線!?
無理でしょ? そもそも俺ほのかちゃんのこと全然知らないし、彼女の方も俺なんか眼中にない感じだし?? 君子危うきに近寄らず。触らぬ神に祟りなし、と昔の人は大事なことをしっかり後世に残してくれているものだ。
「うふっぐふふっ♡ こんな薄暗い小道にわたくしを誘いこんで、一体何をされてしまうのかしら……って、あら?」
お嬢様らしからぬ笑い声を漏らした彼女は、先輩の視線を追うように顔を動かして初めて、視線の先にいた俺の存在にようやく気付いたらしい。
「…………そちらの方は……どなた、ですの?」
「っ、」
地の底を這うような声色。
敵意剥き出しの眼差しにぎくりと身体が強張った。
え、え!? 初対面の女の子に、ここまで全力で睨まれることある……!?
独特なタイプではあるものの、何もしていないのに嫌われた(推定)現実で、俺のガラスのハートが砕けそうになる。
「昴様。まさかとは思いますが、このような場所で他の女と逢引を?」
「「あ、逢引ぃ!?」」
逢引。
男女が隠れて逢うこと、人目を忍んでデートすること。逢瀬。「逢い引き」とも書く。(実用日本語表現辞典調べ)
先輩からある意味、熱視線を注がれていた俺を、恋のライバルだと勘違いしてしまったのだろう。
「いっ、いえ。僕は……んむっ」
「そうだ」
はっ!?!?
訂正しようと声を上げた俺の口を塞ぎ、何故かすんなりと肯定してみせた小白木先輩。
え、マジでなんで??? どういうこと???
「この際だから正直に言う。彼女は俺の恋人だ」
「ええええーーーっ!?!?!?」
(ええええーーーっ!?!?!?)
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面白すぎて数日かけて一気に読んでしまいました!
それぞれのキャラが個性強すぎで誰も彼も素敵です!
もー乙成くんがド天然アホの子でエロくて可愛いww
これから、合宿でいよいよ青島くんが乙成くんに思いを果たせるのかなーとか、小白木先輩もやっぱり乙成くんに落ちちゃうのかなーとか、、、楽しみです
お忙しい事とは思いますが首を長ーくして更新お待ちしております♥
感想いただきありがとうございます!!!
見返すと更新止まってからほぼ丸一年…?!にも関わらず読んでくださったこと、感想いただけたこと、本当に嬉しく思います🥹
乙成くんには全力で難聴系主人公をさせていまして笑、これは作者の趣味もあるのですがアホエロ受け…いいですよね…🫶
各攻略対象キャラとの今後の展開も決まってはいるので近いうちにお見せできるようにしたいと思います!!
お時間いただいてますが、お待ちくださると嬉しいです☺️
素晴らしいこの作品をなんで今日まで見つけれなかったか悔やむほど!
サイコーです💕かわぃぃぃ💕
更新楽しみにしてます!!😭
感想いただきありがとうございます…!!
すっかり更新止まっている中、とても嬉しいです🥹この後の展開も決まっているのになかなか書けていないのが今ですが、読んでくださる方のために更新できればと思います!!お時間いただいてますがお待ちいただければ幸いです🥰
大好きな作品です!読み返そうと思ってひさしぶりに開いたら更新されてて本当に嬉しいです…!ありがとうございます!!
大好きと言っていただけてとても嬉しいですー!😭❤️
更新止まっているのに読み返してくださるなんて…女神様…???続きの展開はちゃんと考えてあるので、近々更新できるようにしますね!楽しんでくださりありがとうございます🥰