乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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7月

side 仁紫-2

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 乙成優太、通称乙姫。2-B在籍。

 高校一年の頃は他者との交流を極力避けており、その見た目が整いすぎていることも相まって近寄りがたい人物である……と評されていたはずが、学年が変わったと同時にその纏う雰囲気にも変化があったようだ。一体何が彼をそうさせたのだろう。

 元より存在していたファンクラブはさておき、その変化の前後から彼の周りには何人かの主要人物というべき存在がいた。
 浅黄、黒瀬、青島……あと数人――

(揃いも揃って色男だな)

 校内の人間関係に無頓着な自分ですら知っているような有名人ばかり。特別誰と仲がいい、といった話はあまり聞かないが、俺からすれば誰も彼も乙姫様をそういう・・・・対象として見ていることは一目瞭然なんだけど。

 それもわかっていて転がしている?
 初心そうな反応をして見せても、やっぱり腹の中は真っ黒だったりするのだろうか。

「外からの情報で分かるのは、これが限界かな……」

 全員が全員、タイプが違いすぎて正直なんの傾向と対策も見えてこないが、直接関わり合いを持つことで見えてくるものもあるだろう。

 少しでも自然に……と偶然を装って図書室での接触を図った時は、欲を出し過ぎて逃げられてしまった。だって、はじめは少し警戒していたくせに、ちょっと数学の基本を教えてあげたくらいで屈託のない笑みを俺に向けるんだもん。どこまで許されるのかなって気になっちゃうじゃない?
 騙し打ちのようなキスに簡単に引っ掛かって。もっと興味が湧くと同時に、心配にもなってくる。自分が周りからどういう目で見られているか、本当に分かってないんだ。

 顔を真っ赤にして、逃げるように去っていく乙姫様に「またおいで」なんて言ってみたけど彼はそれから図書室に来ることはなかった。

 次のチャンスは、今度こそ本当に偶然。夏休みの暇つぶしに図書館に行ったらバッタリだなんて、もしかして運命ってやつ? なんてね。
 そんな非科学的なことは信じていないけど、この運命の悪戯を逃す手はない。あれやこれやと言いくるめて俺は「図書館で一緒に勉強をする相手」というポジションを手に入れた。

 しばらく傍で観察を続けてわかったのは、彼が想像以上に世慣れしていないこと。異性だろうが同性だろうが、初対面の人には例え相手が司書であっても萎縮してしまうらしい。なまじ容姿が整っているだけに、彼が緊張して顔を強張らせているだけで、どこか冷たく近寄りがたい雰囲気を醸し出す。

(二年に上がって雰囲気が変わったのは、ようやく学校生活に慣れたから……ってことなのかな)

 心を開いてからの姫はすごい。……とにかくすごい。
 姫の喜怒哀楽に合わせてころころ変わる表情が可愛いと感じる反面、こんなゆるゆるの危機管理能力で大丈夫なのか? と心配にもなる。最初は面白いくらい威嚇してきていたのに、一緒に過ごす時間が多くなって、「俺」に慣れてくると、あっという間にガードが緩くなるんだもんな。

 自分だけに見せてくれる表情に心を動かされない男がいるんだろうか。
 もしこれが計算だったら、俺は人間不信になるかもしれないな。多分、絶対ないだろうけど。

 姫の周りに取り巻く男たちも、これ・・にやられたのだろうな。と確信に近い答えを見付け、俺の中の理性が「もうここで止めておこう」と警鐘を鳴らす。これ以上踏み込んだら、もう戻れなくなる予感がした。


「何かペナルティでもあった方が、死ぬ気で覚えるんじゃない?」


 何を言っているんだ俺は。やめとけって。


「それとも、したことない? キス」


 真っ赤になって唇を噛み締める姿に息を呑む。
 おいおいおい。まさか……そんなことって有り得るのか……? 動揺を隠すように問いかけた内容に、潤んだ瞳が戸惑いに揺れた。

 ダメだって。そんな簡単に隙を見せちゃ。付け入りたくなっちゃうでしょ。


「ここが個室でよかったね。誰かに見られる心配もないし、恥ずかしくないでしょう?」


 まだ誰も知らない、姫の顔。
 ――……俺だけに見せて。




「……目を、瞑ってくれる……?」




 そっと潜められた小さな声で囁かれて、胸がどくんと鼓動した。















「よく頑張ったね。六回終わったよ」
「んっ♡ う、ん……♡」

 とろん、とした顔を隠そうともせず、こくりと首を縦に振る姫に口元が緩む。

 観察……なんて建前は、もはや意味をなさない。
 俺はもう、自分が姫の<特別>になることを望んでいると、気付いてしまったから。

 指導の名目で気が済むまで美味しそうな唇を貪った。深窓の令嬢もビックリするくらい性知識の低さが露呈した姫だが、彼の身体は快楽に従順で、舌を絡めるたびに甘い喘ぎを漏らしていた。こっちの物覚えはいいんだな、なんて下衆なことを考えながら、びくりと震える身体を押さえつけて、無理やり犯してしまおうかと頭に浮かんだ欲求を抑え込むのが、なにより大変だった。

「大丈夫? 落ちないように気を付けて」
「っ、あ……っ♡」

 痛いくらい張り詰めた下半身を、わざとらしく姫に押し付けると同じように反応を示している姫のモノと擦れ合う。
 うん。いくら綺麗な顔をしていたって、そこら辺の女の子より可愛くたって、姫は俺と同じ男なんだよな。それを実感しても嫌悪感を覚えるどころか、訳もわからず勃起している姫により一層興奮したのだから、これはもう言い訳のしようがない。

「に、仁紫くん。なんか……怖い、よ…………」
「怖い? ……ふふ。そっか」

 何をされるのか正しく理解しているわけではないんだろうが、一応このままじゃ危険だという防衛本能は働いているらしい。このままなし崩しにセックスに持ち込むことも出来そうだけど……それだとあまりに芸がないかな。

 そう。どうせならもっとぐずぐずになるくらい、焦らして、揺さぶって、煽って……姫の方から俺のことを求めてくるくらいにしないと、ね。


「それじゃあ課題の続きしようか」


 ――新しい実験の始まりだ。



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