155 / 162
7月
ペナルティってなんですか???
しおりを挟む「う~~ん……。こう、かな……」
「違うよ。それはこっちの公式」
「あ、あれ……うう、ごめん……」
「あはは、別に謝ることじゃないけどね。こっちは正解」
図書館に通い始めて今日で五日目。アルバイトは未だに謹慎中である。
はじめは仁紫に対してかなり警戒をしていた俺も、連日こうして顔を合わせる中で、特におかしな素振りを見せない事が分かると、少しずつ課題攻略のために力を借りるようになっていた。
はじめはフリースペースで行っていた勉強も、こうして教えてもらうことが多くなってからは、予約制の自習室を借りて時間いっぱい取り組んでいる。
個室の中で二人っきりなわけだけど、仁紫はまじめに勉強を教えてくれるし、課題もスローペースではあるものの順調に片付いてきた。
「はぁ……ようやくここまで終わったぁ」
「お疲れさま~」
そう言って差し出された缶ジュースはまだ冷たい。さっきトイレに出た時についでに買ってきてくれたのだろうか。
仁紫と数日一緒に過ごしてみて、いろいろと発言に思うことはあっても、こういう気遣いが出来るところとか、何度間違えても怒ったりせずに優しく教えてくれるところとか、あ~こりゃモテるよなぁって思うポイントはたくさんあった。
脳ミソの出来はもはやどうしようもないけれど、真似できるところは真似したいものだ。
「だいぶ進んだけど、この調子じゃまだまだ時間かかりそうだねぇ」
ちびちびとジュースで喉を潤しつつ整った横顔を観察していると、課題の進み具合をチェックしていたらしい仁紫がうーんと唸った。
「バイトが始まるのはいつから?」
「一応、来週からは復帰予定なんだけど……」
「あとは野球部の手伝いだっけ? 夏休みの終わり頃に合宿があるんでしょ」
「うん。だから、なるべくそれまでには終わらせたくて」
「そうなると、やっぱりもう少しペース上げないとか~」
今までの自分と比べれば、現時点でここまで終わっているのは上々だと言えなくもないんだけど、仁紫の言う通り今後に控えている予定のことを考えると、少しでもはやく終わらせておきたいのは事実だ。
しかしそれは完全に俺の勝手な都合で。どうしたものかと真剣な顔をして頭を悩ませている男にとっては、実際のところなんら関係のない問題なのだ。
「……仁紫くん、ごめんね。毎日僕の課題に付き合わせちゃって……」
さすがに申し訳なくなってそう言うと、仁紫は一瞬きょとんとした顔をして、くすりと笑った。
「俺としては、役得だと思ってるけどね」
「役得?」
「こうして姫と二人で勉強出来るわけだし♡」
「ふふっ。それのどこが得なの?」
本気なんだけどなぁと拗ねたような声で呟いているけど、それが冗談なんだってことは俺にも分かる。
姫、姫、と口では言っても、仁紫は変に手を出してこようとはしない。
女の子扱いをされるわけでもないし、たまには軽く小突かれたり、その接触はごく一般的な友人関係の域を出ていない……と、思う。実経験がないから基準が分からないけどな!!!(泣)
これまで出会ってきた男どもがおかしいだけで、普通に考えたら、イケメンで、性格も良くて、頭もいい男が、わざわざ同性にちょっかいかける方が不自然なんだよ。うん。まさか電波だと思っていた仁紫が一番まともだったとは……世の中分からないものだ。
「でもそうだなぁ。このままゆる~く続けても、姫のためにならないか」
「え?」
なにやら漂ってきた不穏な気配に、思わず戸惑いの声をあげると、仁紫はにっこりと完璧な笑顔を浮かべて恐ろしいことを告げてくる。
「何かペナルティでもあった方が、死ぬ気で覚えるんじゃない?」
「ええっ!?」
「こら、静かに。あんまり大きな声出すと、追い出されちゃうよ」
しーっと指を立てた仁紫に、慌てて口を噤む。
この自習室はいくら個室とはいえ、防音機能があるわけではない。壁に貼りだされた<自習室は静かにお使いください>の文字が目に飛び込んできて、俺は小さく「ごめんなさい……」と呟いた。
「ふふふ。何にしようかなぁ」
「な、なるべく痛くないやつに……してほしいなぁ……」
あと、あまり金のかからない方向でお願いします。
それ以外に俺が出来ることで、仁紫が満足するような事柄があるのか甚だ疑問ではあるが。
悪い顔で思案を始めた仁紫の姿に、俺は半泣きになって懇願する。神様仏様仁紫様……! ちらりとこちらに視線を投げ、それなら、と提案された内容に、俺は今度こそ絶叫した。
「じゃあ最後の確認問題で、間違えた数だけ姫から俺にキスする、ってのは?」
「えええええっ!?!?!?」
1
お気に入りに追加
1,347
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる