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7月
図書館で勉強って青春ぽいよね
しおりを挟む★先日いただけた感想に嬉しくなって、お久しぶりの更新です…!
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「はぁぁぁぁ……」
黒瀬との関係が克さんにバレた翌日、俺は夏休みの課題を進める為に図書館へ来ていた。
(家にいてもミユが来て勉強にならないだろうし……)
そう思ってわざわざ家から少し離れたところまで足を運んだというのに、静かな環境で勉強が捗るどころかよけいな事を思い出しては、繰り返し盛大な溜息を吐いていた。
酒の力とその場の雰囲気に流されて、とんでもないことを言ってしまった。
ううう恥ずかしい。せめて記憶を失っていればよかったのに、全てしっかり覚えているからなおのこと。
っていうか、俺と違って黒瀬は素面だったのに、なんであんなことになったんだ?!
あんな、あんな……
(他のお客さんだっていたのにぃぃ~~!!!)
思わず勉強道具を広げた机に突っ伏して、静かにジタバタ身悶える。
しばらく店に出る時は覚悟してた方がいいかもね、と苦笑いを浮かべていた克さんの顔が忘れられない。すぐ後ろでけろっとした調子で「変なのが寄り付かなくなるからよかっただろ」なんてほざいていた黒瀬とは、しばらく口をきかないと決めた。
むしろ男同士のキスシーンを見て、通い続けてくれるような客はまともじゃねーだろ……。
「はぁ。常連さん、減っちゃったらどうしよう……」
心配する俺に反して、克さんもそれは大丈夫だと楽観視していたけれど、少し落ち着くまで休んでていいよと言われた時は、実質の解雇通告なのではないかと泣きそうになった。克さんは全力で否定してくれたけど。
真っ白なテキストに向かってため息を吐く。こんな憂鬱な気分じゃ、勉強なんて進むはずがないよな。苦手な数学だからじゃない。これも全部、黒瀬のせいだ。
「あれ、乙姫様?」
「え……」
心の中で呪詛を繰り返していると、聞き覚えのある声がした。
この意味不明な呼び名を使うのは……――
「やっぱり姫だ」
インテリ眼鏡イケメンもとい、電波系眼鏡イケメンの仁紫孝宏さんではありませんか!
「に、仁紫くん」
「珍しいね。こんなところで会うなんて」
やべーやつに会ってしまった……と、頬を引き攣らせているうちに、当たり前のように仁紫が隣の席に座る。俺の手元を覗き込んで「夏休みの課題?」と首を傾げる顔は、ムカつくほどに格好いいんだけど、男の乙成くん相手に姫呼びをするのは止めた方がいいと思うぞ。周囲の人もチラチラとこっちを見ているような気がするし、普通に考えておかしいからな!!!
「あぁ、また数学で悩んでるんだ。本当に苦手なんだね~」
「う……。もしかして、仁紫くんも課題をしに来たの?」
「俺はもう全部終わったよ。ここに来たのは単なる暇つぶし」
「えっ、もう?! す、すごい……」
まだ夏休みが始まって二週間くらいしか経っていないのに、既に全部終わっているだと……!? 数学の他にもたくさん課題が出ているのに!?
俺なんてまだその内の一つ、更には三ページ目で躓いてるというのに……なんなんだ、この違いは。
それこそ小学校の頃から、夏休みの宿題なんてものは最終日にヒーヒー言いながら終わらせるタイプの俺は、やはり秀才は違うなと感嘆の息を漏らす。
「教えてあげようか?」
「いいの!?」
分からないところは教科書で探して、解説を読み、それでも分からなければ延々と頭を悩ませる。そんな風に一問一問時間をかけて解いているから進まないのであって、そんなところを解説してくれる誰かがいるのであれば、圧倒的にスピードは上がるだろう。
試験勉強の時を思い返せば、仁紫の教え方が分かりやすいのは折り紙付きだし……――
「もちろんタダでとは言わないけど」
「あ、じゃあ大丈夫です」
お願いしようかなと傾きかけていた心は、その一言で一気に元に戻った。
(さすがの僕も、この手の流れは危ないって学んでるんだから……!)
しかもこいつには前科がある。
御礼と称して、許可なく唇を奪うような男だ。このハイスペックぶりを見る限り、攻略対象であることには間違いないし、変に約束を取り付けるとおかしな方向に進んでしまう。
「ははっ、冗談だよ。姫は可愛いなぁ」
「……その姫っていうのもやめてほしいな……」
「もし分からないところあったら聞いて。ここで本読んでるから」
仁紫さん? ちょっと、聞いてます?
のらりくらりと受け流されて、結局呼び名を変えることは出来なかったけど、隣に座った仁紫が手元の小説に視線を落として集中し始めたのを見て、俺もテキストに向き直ることにした。
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