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7月
焦らしプレイは求めてないんだよ!
しおりを挟むようやく話が終わったのか、俺たちは二階にある黒瀬の私室に向かっていた。
それにしても、抱きかかえられたまま階段をのぼるのって、される方も怖いものなんだなぁ。さっきまでふわふわしていた気分は恐怖のためかほんの少し落ち着いてきた。
一定のリズムで階段を登る黒瀬に不安定な様子はないものの、いつもより高い視界に怯えつつ、落とされないようにぎゅうっと抱きつく。ククッと喉で笑われたような気がしたけど、同時に腕に力を込められたのは大丈夫だという返事の代わり……だと思っておこう。
「ふぅ~……さすがにしんど。暑いな……」
「わっ!?」
いつもより時間をかけて黒瀬の部屋にたどり着くと、ベッドの上に座らされた。なんでベッド? 普通に床に下ろしてくれればいいのに。どうせここではケーキは食べられないし、移動することになるんだからさ。
考えを図りかねて黒瀬に視線を向けると、少し息の上がった呼吸を整えながらシャツのボタンを外しているところだった。
胸元を解放させてはたはたと風を送っている黒瀬の動きを自然に目で追ってしまう。人ひとり抱えての階段というのは、どうやらかなりの重労働だったらしい。軽く運動をした後のような、若干汗ばんだ肌がチラチラとシャツの隙間から見え隠れする。
…………。
……なんていうか、その、無駄にエロいんですけど。
前髪をかき上げて、はぁっと大きく一息つく。それだけの仕草なのに、いつもより三割り増しで色気をむんむんとさせている黒瀬さん。普段キャーキャー言っている学校の女子達が見たら絶叫して倒れるんじゃないか。
(でも……たしかにきょうは、ちょっとあつい、かも……? 僕もなんだかぽかぽかしてきちゃった)
ていうかむしろ眠い。ほわほわを通り越してうとうとしてきたけど、俺には大事な使命があるんだから。俺は気を抜いたら閉じてしまいそうな瞼を必死に抉じ開けていた。
恐らくぼーーっと座っているだけなのものいけないんだと考えた俺は、美味しくケーキを食べるために、万全の状態で挑もうと準備を始めることにした。
とりあえず、腹いっぱい食べるためにはギャルソンエプロンは邪魔だよな。あ、ズボンのボタンも外しちゃおうか? ゴムじゃないから苦しくなるかもしれないし。あとはそうだな、暑いからシャツのボタンも……黒瀬と同じく三つくらい外して……っと。
(べつに、黒瀬くんのマネしてるわけじゃないもん。いろけが増えたらモテるかもなんて、かんがえてないから……)
いそいそと俺が準備を進めていると突き刺さるような視線が一つ。
誰のって、そりゃあ黒瀬に決まっているんだけど……なんだよその表情は?
じいっとこちらを見つめている黒瀬の表情は、なんていうか驚いているというか、呆けているというか、とにかくなんとも言えない表情をしていた。
「……なぁに?」
「いーや? 今日は随分積極的だなぁと思って」
真似したことを揶揄われるかと思いきやそういう訳ではないようだけど、積極的って……つまりは食い意地張ってるなって意味だろ、悪かったな。でも「上にはもっと美味いもんがある」って言ったのはお前だからな? 落ち着いたんならそんなところでぼーっと突っ立ってないで、さっさとその美味いもんを持って来て欲しい。
……と、さすがにそこまではっきりは言えないが、多少急かしたところで怒られはしないだろう。
「ねぇ、くろせくん。……はやくして……?」
「なんだよ。そんな我慢出来ねぇの」
「うん……ぼく、もうがまんできない。だから……」
みなまで言わすな。お前のことだから既に察しているはず、焦らしプレイは求めてないんだよ。
というか自分から聞いてきたくせに、なにさっきより目丸くしてるんだ? 「素直すぎてやべぇわ」って、どういうこと? もっと食べたいって、最初から言ってたし、わざわざ遠回しに言う必要なんてないだろ。言っている意味が本気で分からなくて、俺は首を傾げるしかない。
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