147 / 162
7月
おいしいの、いっぱい食べたい!
しおりを挟む「まぁそれは置いといて。まずは乙成クンが食べた感想を教えて欲しいな」
「はい! わかりました!」
へへへ、やったね~~!
バイト中にケーキを思う存分食べられるなんて、なんたる至福!!! さてさて、今回はどんな新作ケーキがあるのかなぁ?
「すごいっ、たくさんあるんですね」
「乙成クン効果で最近客層も増えてきたからね~。いろんな種類で作ってみてもらったんだ。好きなの全部食べていいよ」
「わーーい!」
フルーツタルトにガトーショコラ、あとこれは抹茶のシフォンかな? どれも美味そう~~!!
口の中に広がる甘~い味を想像するだけで、正直よだれが止まりません。
(マフィンかな? まずはこれにしてみようっと♡)
一種類だけ入っていたマフィンらしき物でまずは腹ごしらえをしようと、クリームのたっぷり乗った焼き菓子に手を伸ばす。
「ん~~♡ 美味し~~い♡♡」
噛んだ瞬間にじゅわっと広がるのは洋酒だろうか。少し大人な味だけど、上に絞ってある生クリームと合わさって、とても食べやすくなっている。やばいなこれ、止まらないぞ。パクパク食べてしまう。
「ははっ、乙成クンはそれが気に入ったんだね~。でもそればっかり食べてると、他のケーキが入らなくなっちゃうよ」
食べるのに夢中な俺は、返事もせずにこくこくと頷くだけだ。普通に考えたらめちゃくちゃ失礼なんだけどね? このクセになる味が止められない……!
克さんの心配をよそに二つ目に齧り付いた俺は、芳醇なかおりを存分にたんのうしていた。
はぁぁ~~。あまいものってどうしてこんなに幸せな気持ちになるんだろぉ。なんだかふわふわして、まるで天国にいるみたいだ。
こんなにおいしいケーキなら、いくらでも食べていられるきがする……。
「ん? あはは、乙成クンってば口の周りにクリームが……」
まだはんぶんも食べていないのに、かつさんがおれのケーキに手をのばしてきた。えっ、なんでぇ?!?!
「っ、ぁ! だめれす……っ!」
「んえぇっ?! い、いや、俺はその溢れそうなやつを拭こうと思っただけでっ」
うばわれそうになったケーキの残りを、いそいで口のなかにかくす。かつさんはびっくりした顔してるけど、おれのケーキはあげないんだからなっ!
「え、なに、どうしちゃったの? なんか変なもんでも入ってたとか……?」
残りのケーキもおれが食べるつもりだったのに、かつさんが箱ごともっていっちゃった! ひとりじめなんてずるいぞ!!
おれは抗議のしせんでかつさんをにらみつけて、げんしゅくにいぎを申したてる。
「もっと食べたい……いじわるしちゃ、やです……!」
「お、乙成クン……?」
「ねぇ克さん、おねがい。僕がまんできないの……もっとちょうだい……?」
「みっ、湊ーーー!!!! ちょっと来てぇぇーーー!!!!」
はいぼくをみとめたのか、かつさんは大きなこえでくろせをよんだ。バックヤードできゅうけい中だったはずのくろせは、ふきげんそうな声をだしてもどってくる。
「何だよ、うるっせぇな。そんなでかい声出さなくても、聞こえるっつーの」
「ごめんっ! なんか、なんかっ、乙成クンがやばい!!!」
「は? 乙成が……?」
僕がやばい? かつさんったらなに言ってるの??
ふつうにケーキを食べてただけなのに、なんでそんな風にいわれなきゃならないんだっ!
「やばくないもんっ。ぼくはただ……もっといっぱいちょーだいって、お願いしただけだもん……。ね、克さん。いいでしょお? いじわるしないで……」
「た、たた助けてぇぇ! 湊~~っ!!!!」
くくく。おとなりくん必殺・おねだりのポーズがうまく決まったらしい。
そんなふうにくろせにたすけを求めなくても、そのてにもっているケーキの箱をおれにわたしてくれれば、すぐに許してあげるのにな?
あとすこしでたくさんのケーキがはいった宝箱にてがとどく。そうおもっていたのに、すんでのところでくろせにうばわれてしまった。
「あぁ! こらっ、だめだってばぁ!」
「これを食ったのか? ん、けっこう洋酒が強いな……」
「あぁっ! ずるい~~、ぼくのなのにぃ~~っ」
さいごのひとつになっていたおいしいケーキをくろせが食べてしまった。
ひどい……ひどすぎる。すきなだけ食べていいって言われてたのに。おれはまだまだ食べたりないのに、よこどりするなんて……。
「くろせくん……もっとおなかいっぱい欲しいよぅ……」
かなしくて涙がでそうになる。なみだこそ流れていないものの、かなりうらみがましい声がでてしまったのか、くろせはうっ、とことばをつまらせると、せめるようなしせんを向けるおれから目をそらした。
1
お気に入りに追加
1,347
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。
丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。
イケメン青年×オッサン。
リクエストをくださった棗様に捧げます!
【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。
楽しいリクエストをありがとうございました!
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる