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7月
おいしいの、いっぱい食べたい!
しおりを挟む「まぁそれは置いといて。まずは乙成クンが食べた感想を教えて欲しいな」
「はい! わかりました!」
へへへ、やったね~~!
バイト中にケーキを思う存分食べられるなんて、なんたる至福!!! さてさて、今回はどんな新作ケーキがあるのかなぁ?
「すごいっ、たくさんあるんですね」
「乙成クン効果で最近客層も増えてきたからね~。いろんな種類で作ってみてもらったんだ。好きなの全部食べていいよ」
「わーーい!」
フルーツタルトにガトーショコラ、あとこれは抹茶のシフォンかな? どれも美味そう~~!!
口の中に広がる甘~い味を想像するだけで、正直よだれが止まりません。
(マフィンかな? まずはこれにしてみようっと♡)
一種類だけ入っていたマフィンらしき物でまずは腹ごしらえをしようと、クリームのたっぷり乗った焼き菓子に手を伸ばす。
「ん~~♡ 美味し~~い♡♡」
噛んだ瞬間にじゅわっと広がるのは洋酒だろうか。少し大人な味だけど、上に絞ってある生クリームと合わさって、とても食べやすくなっている。やばいなこれ、止まらないぞ。パクパク食べてしまう。
「ははっ、乙成クンはそれが気に入ったんだね~。でもそればっかり食べてると、他のケーキが入らなくなっちゃうよ」
食べるのに夢中な俺は、返事もせずにこくこくと頷くだけだ。普通に考えたらめちゃくちゃ失礼なんだけどね? このクセになる味が止められない……!
克さんの心配をよそに二つ目に齧り付いた俺は、芳醇なかおりを存分にたんのうしていた。
はぁぁ~~。あまいものってどうしてこんなに幸せな気持ちになるんだろぉ。なんだかふわふわして、まるで天国にいるみたいだ。
こんなにおいしいケーキなら、いくらでも食べていられるきがする……。
「ん? あはは、乙成クンってば口の周りにクリームが……」
まだはんぶんも食べていないのに、かつさんがおれのケーキに手をのばしてきた。えっ、なんでぇ?!?!
「っ、ぁ! だめれす……っ!」
「んえぇっ?! い、いや、俺はその溢れそうなやつを拭こうと思っただけでっ」
うばわれそうになったケーキの残りを、いそいで口のなかにかくす。かつさんはびっくりした顔してるけど、おれのケーキはあげないんだからなっ!
「え、なに、どうしちゃったの? なんか変なもんでも入ってたとか……?」
残りのケーキもおれが食べるつもりだったのに、かつさんが箱ごともっていっちゃった! ひとりじめなんてずるいぞ!!
おれは抗議のしせんでかつさんをにらみつけて、げんしゅくにいぎを申したてる。
「もっと食べたい……いじわるしちゃ、やです……!」
「お、乙成クン……?」
「ねぇ克さん、おねがい。僕がまんできないの……もっとちょうだい……?」
「みっ、湊ーーー!!!! ちょっと来てぇぇーーー!!!!」
はいぼくをみとめたのか、かつさんは大きなこえでくろせをよんだ。バックヤードできゅうけい中だったはずのくろせは、ふきげんそうな声をだしてもどってくる。
「何だよ、うるっせぇな。そんなでかい声出さなくても、聞こえるっつーの」
「ごめんっ! なんか、なんかっ、乙成クンがやばい!!!」
「は? 乙成が……?」
僕がやばい? かつさんったらなに言ってるの??
ふつうにケーキを食べてただけなのに、なんでそんな風にいわれなきゃならないんだっ!
「やばくないもんっ。ぼくはただ……もっといっぱいちょーだいって、お願いしただけだもん……。ね、克さん。いいでしょお? いじわるしないで……」
「た、たた助けてぇぇ! 湊~~っ!!!!」
くくく。おとなりくん必殺・おねだりのポーズがうまく決まったらしい。
そんなふうにくろせにたすけを求めなくても、そのてにもっているケーキの箱をおれにわたしてくれれば、すぐに許してあげるのにな?
あとすこしでたくさんのケーキがはいった宝箱にてがとどく。そうおもっていたのに、すんでのところでくろせにうばわれてしまった。
「あぁ! こらっ、だめだってばぁ!」
「これを食ったのか? ん、けっこう洋酒が強いな……」
「あぁっ! ずるい~~、ぼくのなのにぃ~~っ」
さいごのひとつになっていたおいしいケーキをくろせが食べてしまった。
ひどい……ひどすぎる。すきなだけ食べていいって言われてたのに。おれはまだまだ食べたりないのに、よこどりするなんて……。
「くろせくん……もっとおなかいっぱい欲しいよぅ……」
かなしくて涙がでそうになる。なみだこそ流れていないものの、かなりうらみがましい声がでてしまったのか、くろせはうっ、とことばをつまらせると、せめるようなしせんを向けるおれから目をそらした。
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