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7月
新作ケーキがやってきた!
しおりを挟む「そっかぁ。野球部のお手伝いね」
「はい、二泊三日みたいなので三日間はシフトに入れなさそうです。あっ、でもその代わりに他の日はいっぱい入れてもらって大丈夫なので……!」
「あはは! 大丈夫大丈夫~乙成クンがいない分、湊をこき使うからさ~」
そ、それは黒瀬に恨まれるやつなのでは……?
ありがたいことに最近は、俺と黒瀬が二人いてもギリギリなんとか回せる、という程にお客さんが入ってる日もあったりする。そんな中で克さんと黒瀬の二人に任せるというのは心苦しくもあるのだが。
「いいじゃん部活動。学生は青春を謳歌しないと♪」
克さんは高校時代の思い出は今しか出来ないんだから、と全面的に肯定をしてくれる。絶対しわ寄せで大変になるはずなのに、その優しさに感謝しかない。
「大変かもしれないけど、楽しんできて。うちのことは気にしなくていいからさ」
「はいっ、ありがとうございます!」
いやほんと改めて考えると、克さんってめちゃくちゃ理想の大人の男なんだよなぁ。イケメンで自分の店まで持ってて、頼り甲斐がある。老若男女問わずこの店の客には克さんのファンが多いし、今いる人たちも克さんか黒瀬目当てに来てる人がほとんどだろう。だってコーヒーそっちのけで、目をハートにしてこっちを見てるしさ。いつかモテる男のノウハウをじっくり聞かせてもらいたいものだ。
方々から送られる熱視線にも慣れているのか、克さんはまるで気にした素振りを見せずに、カウンターの後ろからなにやら白い箱を取り出した。
「あ、そうそう。新作ケーキの試食分貰ったんだけど、乙成クンも食べてみる?」
「え! いいんですかっ」
克さんのコーヒーは格別美味しいのだが、現在の従業員……つまり、克さん・黒瀬・俺の三人に、そのコーヒーにぴったりのケーキを作る技術はない。他のご飯ものは不恰好でも味さえ良ければなんとかなるものだが、やっぱりお菓子だけは仕上がりの美しさも大事なんだよな。自分に作るのは無理だと早々に諦めたらしい克さんは、町内会のツテで近所のケーキ屋さんから格安で特別メニューのケーキを仕入れている。何度かお店までケーキを取りに行ったことがあるんだけど、溌剌とした元気で綺麗な女の人がオーナー兼パティシエをしていた。多分だけど、あのパティシエさんは克さんのことが好きなんだと思う。ケーキを取り来たのが俺だと分かると、明らかにちょっとテンション下がってるんだもん。陰キャは人の態度に敏感なのだ。
そんなわかりやすいパティシエさんだけど、腕前は一流で、毎回店に置いてるケーキはどれもめちゃくちゃ美味いんだよなぁ。新作のケーキとはどんなものかと箱の中を覗き込んで、俺はハッと気が付いた。
「あっ、でもお客さんが……裏に行った方がいいですよね?」
流石にバイト中にカウンターの中で味見なんてしてていいのか? この店オープンカウンターだし丸見え……っていうか、今までの会話も筒抜けだよな。うわ~~ケーキ飛び付いてたところも見られてたってことだよな。乙成くんの外見だからこそ許されるようなものの、男のくせに甘い物が大好きだという事実は、ちょっと恥ずかしくて内緒にしていたはずなんだけど、ここで働き始めてからは半分開き直っていた。
「ん~ここで大丈夫だよ。乙成くんが美味しそうな顔して食べてるの、みんなも見たいだろうしさ」
「ええ? ふふふっ、克さんたらそんなわけないじゃないですか」
「いや~別に冗談で言ったわけじゃないんだけどね? まぁいっか。あまり変なこと言うと湊に怒られそうだし」
「? 黒瀬くんも別に怒らないと思いますよ……?」
そもそも今の話のどこに怒るポイントがあったんだ? たしかに黒瀬はちょっと変わったところはあるけど、見た目とは裏腹にかなり温厚なタイプだと思う。無愛想にしてるから怖く見えるのであって、世話焼きで心配性だっりするし。そういうところはなんとなく克さんに似てるよなぁ。
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