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7月
俺の素晴らしき未来のために
しおりを挟む「いや、問題はそこじゃないんだ」
小さく首を振った青島は、いなくなって困るのはマネージャーの方なのだと説明をしてくれた。なんでも夏休み中に三日間の強化合宿を予定いるらしく、公共の宿泊施設を使って練習をする間の食事や掃除・洗濯といった雑務はマネージャーが一任して行うことになっていたのだという。
「普段の練習はなんとか回せたとしても、マネージャーがいないと合宿中の食事の準備もままならないからな。せっかく集中して練習を出来る機会だというのに……彼女たちが抜けた穴は大きい」
「なるほど、そういうことかぁ」
「合宿をキャンセルしてもいいのだが、そうするとやはり練習不足が否めないからな。まぁこんなことが原因で負けることがないよう、努力するしかないんだが」
なんだって!? まさか他人の男女関係が原因で青島が負けることになるだなんて!!! そんなこと許されてなるものかっ。俺の将来のためにも何とかしたいけど、俺に出来ること、俺にできること……。
あ、そうだ。
「あの、僕でよかったら、お手伝いに行こうか?」
「えっ!?」
そうだよ。マネージャーに任せるはずの仕事を俺がやればいいんじゃね?
俺に出来るのかっていう不安は若干あるけど、克さんのところでバイトをさせてもらう中で簡単な調理なら手伝わせてもらってるし、最悪デリバリーっていう手段だってある。掃除や洗濯は道具に頼れば何とかなるはずだし、何とかなるだろう。
「今のところバイトくらいしか予定もないし、シフトは調整できると思うんだ。料理は……あんまり自信ないけど、出来る範囲で頑張るよっ」
「いや……それは、ありがたい話だが……と、泊まりだぞ? 男がたくさんいるんだぞ?」
「むしろ僕も男なんだから、他の女の子にお願いするより都合いいんじゃない? お風呂も部屋も分ける必要ないし」
「それはダメだろ!?」
「えっ」
強めの口調で否定されて思わず止まってしまう。
え、まじで何がダメなの? 俺なんか変なこといったかな。
そう思った時、ふとある可能性が俺の頭に浮かんだ。
「あ、ごめんね……。青島くんの役に立てたらって思ったんだけど、僕なんかじゃ逆に迷惑かけちゃうよね」
一番ありえそうな理由を完全に排除していた。そうだよ、いつも青島が優しくしてくれるから忘れていたけど、俺……嫌われ者の陰キャなんでした……。大丈夫、泣いてない。泣いてないよ……。
「いやっ! 違う、違う! そんなことない!!」
俺があまりに情けない顔をしているからか、慌てた様子の青島は全力で違うと言い切ってくれたけど、そんな気を遣わなくても大丈夫だぞ。俺も自分の立ち位置はちゃんと理解しているからさ。
「乙成が来てくれたら、とても嬉しい。部員の士気も上がると思うっ」
そんなことないだろ……と思いながらも、大袈裟なことを言って俺を励まそうとしてくれている青島の優しさに胸が温かくなる。本当に俺が行っても大丈夫かなと、少し離れたところからこちらの様子を伺っている他の部員に視線を巡らすと、全員が口を揃えて「お願いします!!!」と大きな声をあげた。
うおっ、びっくりした。
まさに猫の手も借りたい状態なんだろう。もっと適任がいたらその人にお願いしたほうがいいんだろうけど、残念ながら俺にそんな人脈はないし、青島も俺しか友達がいないくらいだからな。友達が少ない同士、助け合おうじゃないか。
「ふふ、それじゃあ決まりだね。日程とか場所とか、決まっていることはまた今度教えて?」
「わ、わかった」
これを機に、俺たちは今まで知らなかった連絡先を交換して、詳細は後日連絡を取り合うことに決めた。
(今日のバイトで克さんにお休みの相談しようっと)
いつもと違う夏休みになりそうな予感に、少しだけ楽しくなってきた俺は、いつもよりも足取り軽くグラウンドを後にした。
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