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7月
ここって乙ゲーの世界観…なんだよね?
しおりを挟む辺りにはユニフォームを着た野球部員が点在していたが、誰を見ても皆一様に憔悴した顔をしている。怒りをあらわにフェンスへ八つ当たりをしている者や、呻き声を上げながら地面に倒れ込んでいる者。少し離れたところには泣きながら教師に連れていかれる女生徒まで。
ほ、本当になにがあったんだ?! ここってバトル漫画の世界だった?!
「あ、青島くんは怪我してない? 大丈夫?」
こんな死屍累々の転がる場所にいたんだから、青島が被害を受けていてもおかしくはないだろう。見たところ大きな怪我は見当たらないが、エースの青島が怪我をしたら大変だ。
なんでかって? それはなんてったって、今年がうちの野球部設立以来、初めて甲子園を目指せるかも? と大きな期待をされている年だからである。
正直はじめはそんな噂話を聞いても「へぇ、そうなんだ~」とか「青島頑張ってるな~」くらいにしか感じていなかったが、克さんのお店に置かれている地域誌に取り上げられるようになってきたりするようになると、全く無関係なはずの俺ですらそわそわとしてきた。
もしこれで本当にうちの学校が甲子園に行って、勝ち進んだとする。エースピッチャーである青島は確実に注目されるし、顔も性格も良いこいつのことだ。きっと〇〇王子的な感じで人気も出るだろう。そうなった時に「あぁ、青島? 俺のマブダチ♡」と言えるのはかなりのアドバンテージとなるのではないだろうか。野球部が勝ち進めば勝ち進むほど、その効果は絶大なものとなっていくはずなので、なんとしてでも彼らには頑張っていただかないといけない。そして何より、青島には五体満足で我が野球部を優勝まで導いていただかないといけないんだ!!!!
「良かった、平気そう……だね?」
「っ、ああ。ありがとう、大丈夫だ」
照れたようにはにかむ青島。
ああ、よかった。さっきまで死にそうな顔をしていたけど、顔に血色も戻ってきて、基本的に無表情だけど優しさがにじむいつもの青島がようやくかえってきた感じだな。
「ううん。青島くんに何かあったら、僕、困るから……」
「えっ」
「それにしても、一体どうしたの? なんだかすごいことになっているけど」
青島が無事だと分かると、次はこの惨状の原因が気になってくる。ちらりと周りに目を向けた後、囁き声で問いかけてみると、ぎゅっと口を引き結んだ青島が辛そうに視線を落とした。
「あっ、ごめんね? 言いたくなかったらいいんだっ」
俺は部外者だしな。べ、別に、面白そうだなんて思ってないからな?! 興味がないって言ったら嘘になるけど、青島を困らせたくないのは本当だ。
「いや、俺こそすまない。ちょっと自分でも整理できていなくて……実は」
「……そ、そんなことがあったんだ……」
青島から語られた、事のあらましはこうだ。
とある野球部員レギュラーと女子マネージャーが交際をしていたのだが、どうやら男の方が浮気をしていたらしく(しかももう一人の女子マネージャーと)部内で泥沼が発覚した三人による乱闘騒ぎが起こり、女同士は取っ組み合い。最終的にはそれを止めようとした男が「そもそもお前が原因だろっ!!!」と袋叩きに合っているところに教師がやってきて、当事者たちを引き離すことでなんとか収拾したのだという。
いわゆる痴情の縺れってやつらしいが、乙女ゲームの世界でそんなことってある???
結果として、仲違いした女子マネージャーはどちらも部活を辞めると言い張って聞かず、発端となった男子生徒は謹慎処分となったらしい。
「はぁ。せっかく今年こそはと思っていたのに、これじゃあ……」
「で、でも、謹慎になったのは一人なんでしょう? レギュラーの人がいなくなるのは大変だと思うけど、代わりの人はいないの?」
すっかり後ろ向きになってしまった青島をなんとかやる気にさせるべく、俺なりに思い付く限りの提案をしてみる。見渡すだけでもかなりの人数が所属しているようだし、熾烈なレギュラー争いがあるのがこういう世界のセオリーだろう。ということは惜しくもレギュラー落ちをしている二軍メンバーだって多数いるはずなのだから、一人かけたところで大きな問題にはならないのでは?
こんなこと言ったら可哀想かもしれないけど、そもそも自分の所業のせいで謹慎になった相手を気遣ってやるほど俺は優しくない。とにかく青島に甲子園で活躍してもらうことが俺のハッピーライフへの軌跡となるはずなのだから、兎にも角にも青島の気分を盛り上げるのが最優先事項なんでな。許してくれ、顔も知らない男子生徒くんよ。
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