乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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7月

こういうの、待ってました!

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「遅い」
「うっ、すみません……!」

厳しい声に慌てて先輩がいるところまで向かうと、上手く動かない足がもつれてしまう。

「あっ!」

ふらっと傾ぐ身体に倒れることを予感した俺は、咄嗟に目を閉じて衝撃に耐える準備をしたが、俺がぶつかったのは地面ではなく小白木先輩の胸だった。
倒れそうになる俺を抱き留めてくれたらしい小白木先輩は、頭の上でハァと盛大なため息を吐くと、呆れたような口調で文句を言った。

「そんなふらふらな状態で、歩いて帰るつもりだったのか」
「ご、ごめんなさい……。ありがとうございます」

俺を支える先輩の手はビックリするくらい優しかったけど、それに甘えることなく俺はいそいで身体を離す。こんな誰が見ているかも分からない公衆の面前で、ファンクラブまである小白木先輩に抱き付いてたりしたら、女の子からの反感を買いかねないからな。
まぁ既に遠くの方で「きゃあ~~!」と女子生徒の叫び声が聞こえるような気もするけど、それは……うん。空耳か運動部への声援ってことにしておこうか。

そのまま、なんでか不機嫌そうな表情をしたままの先輩に続き、高級そうな車に乗り込むと、外の喧騒が大きくなる。明らかに先輩の態度は嫌々だけど仕方なく……って感じだけど、俺みたいな陰キャが同じ車に乗り込んだらどういうことだって騒ぎになってもおかしくないよな。

……俺、明日学校でファンに刺されたりしない……?

先輩が運転手さんに事情を説明した後、早くしろとばかりに顎でしゃくられた俺は自分の住所を伝えた。ゆっくりと動き出す車にようやく肩の力が抜けて、今までに乗ったことのある車の中で一番柔らかなシートに身を沈めた。

「先輩、あの、すみません。騒ぎになってしまって……」
「あぁ……まぁ、仕方がない」

あわよくば俺がファンクラブの方々に殺されそうになった時には助けて欲しいのだけど、そこまで望んだら怒られるだろうか。極上の座り心地にうとうとしつつも、これだけは言っておかなければと必死に目を開いて先輩へ感謝の意を伝える。

「僕のこと、放っておいても良かったのに。先輩は優しいですね」
「別に、たまたまだ」
「鞄も。本当に有難うございました」

正直先輩に嫌われている理由は思い当たらないけど、それでもこうして助けてくれているんだから、出来た人だよな。お金持ちの先輩はもしかしたら婚約者とかもいるかもしれないし、いつも女の子に言い寄られているんだから今後も男の俺に興味を持つこともないだろう。今まで会った誰よりも安パイなのかもしれない。
嫌われてて嬉しい、なんておかしいなとは思うけど、こんだけ自分の貞操狙われ続けたら仕方がないよな。あーー、なんかそう思ったら一気に安心してきた。これからも先輩とは程よい距離感を保っていきたいな。
自然と緩む表情筋のまま、ふと視線を感じて先輩の方を見てみると、こちらをじっと観察するように眺めている。好意的なものっていうよりは、なんていうか珍獣を見るような……そんな感じかな。

「先輩?」
「なんでもない」

ふいっとそらされる視線。
わーーーそれそれ! そういうそっけない対応、ほんとありがとうございますーーー!!!
普通男同士なんてそんなもんだよね? まぁ俺、今も昔も基本ボッチだから、普通なんてもんはよくわからないんですけどね!! それでも無視するでもなく、こうして悪態をついてくれるんだから、ある意味俺のことを認識してくれているってことだと思うしね。ほら、好きの反対は無関心とかいうじゃん? そういうこと。
 しかしいくら冷たくあしらわれても、にっこにこの俺は相当気味が悪いのかもしれない。居心地悪そうに先輩が視線を泳がすので、さすがにあからさまに観察するのは自重した。

気付かれないようにこっそりと、流れていく街並みを静かに眺めている小白木先輩を窺う。さすがファンクラブのあるイケメンという感じで、先輩はまさに美貌の麗人って感じだ。青島みたいな男くささとか、浅黄みたいなチャラい雰囲気とは違う、なんていうか、洗練された空気が漂っている。ただ窓の外を眺めているだけなのに、その横顔ですら綺麗だなぁ~。男に向かって変な感想かもしれないけど、スッと伸びた背筋とか凜とした佇まいから「綺麗」という言葉が一番に浮かんでくる。

「昴様。まもなく乙成様の御宅付近になります」
「そうか」

運転手さんの渋い声にハッとする。昴様観察に精を出していたらあっという間に家の近くに付いていたらしい。

「あっ、すみません! もうここで大丈夫ですっ」

こんな高級車が平々凡々な住宅街に停まっていたらご近所さんの噂になってしまうかもしれない。慌てて降車を申し出るのだがなめらかに走り続ける車が停まることはない。

「ここまで来たら、後はもうそんなに変わらないだろう。良いから家の前まで着けろ」
「かしこまりました。乙成様、近くなりましたらお教えくださいませ」
「……はい…………」

有無を言わさない雰囲気に、そう言わざるをえなかった。



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