乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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7月

意外と良い人???

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「え、小白木、先輩……?」
「どうした。体調でも悪いのか?」
「あっ、いえ、えぇっと……」

 まさかの小白木先輩。
 俺のことを嫌っているはずの先輩が声をかけてくるなんて。この人は大丈夫だろうと完全にノーマークだったのに、まさか先輩も俺の貞操を狙っているなんて……!
 これは一体、なんて答えるのが正解なんだ!?

 A.そうです。
 →そうか。じゃあ静かなところで休もう。(連れ込まれエンド)
 A.違います。
 →そんな風には見えないぞ。よく見せてみろ。(脱衣エンド)

 ってところか??? どっちにしても最悪だ。この二つを避けるには……。

「そう、なんですけど! これから一人で帰るところなので、大丈夫ですっ」
「帰る? 手ぶらでか?」
「えっ!」

 怪訝な顔をした先輩に指摘されてはじめて、自分が何も荷物を持っていないことに気付く。

(か、鞄……教室に置いたままだ……!)

 一刻も早く帰ることしか考えていなくて、というかそんなことにも気が回らないくらい疲弊していて、全く気付いていなかった。どうしよう、今から取りに戻るか? ここまで来るのもいっぱいいっぱいだったのに、広い校内を歩き回れる自信がない。それに校舎に戻ったらそれこそ誰に会うか分かったものじゃないのだ。それだけはなんとしてでも避けないと……!

「お前……――」
「本当に大丈夫ですからっ! 僕のことは放っておいてください!」

 先輩になにかを提案される前に、被せるように言葉を発して遮った。
 さすがにちょっと態度が悪かっただろうか。俺が突然大きな声を出したことに先輩は少し驚いた顔をして見せた後、きゅっと形のいい眉を寄せる。

「…………そうか。じゃあな」

 そう言って踵を返す先輩の背中を見送って、俺はほっと息を吐く。
 思いの外あっさりと解放されて、やはり考えすぎだったか? と後悔の念が押し寄せてきた。

(自意識過剰過ぎたかな。本当に心配して声をかけてくれただけかもしれないのに……)

 ああ、もう。急に大声を出したり、色々考えていたら気分まで悪くなってきた。このままでは駅までたどり着くかどうかも怪しいから、少しだけベンチに座って休んでいこう。俺はちょうど空いていた備え付けのベンチに腰をおろし、じっと体調が落ち着くのを待つことにした。
 そうしてしばらく経った後のこと。ふと視界が陰り、誰かが目の前に立っている気配がした。

「ほら」
「えっ……?」

 ぶっきらぼうな声と共に差し出されたのは、教室に置いたままになっているはずの俺の鞄だった。

「え、先輩、なんで僕の鞄……」

 帰ったはずの先輩が、どうして俺の鞄を持って立っているんだ?
 あんなに失礼な態度をとったのに、もしかして先輩がとってきてくれたとか?
 え、なんで……????

 その時の俺は相当困惑した顔をしていたのだろう。気まずげに視線を逸らした先輩は、少し早口になりながら言い訳のように言葉を並べる。

「俺じゃない。そこら辺にいた下級生に持ってこさせただけだ」

 さすが昴様。
 いや、そうだとしてもだよ? そもそもそれがなんでって話なんだけど。

「行くぞ」
「あっ、わ!」

 ぽかんと口を開いて座ったままでいる俺の手を引っ張り、立ち上がらせた先輩はすぐにその手を離したかと思うと背中を向けてくる。

「い、行くってどこに……?」
「帰るんだろう。ついでだから車で送ってやる」
「え!? でも……」

 さっきは過敏に反応してしまったけど、こうして話していてもやはり小白木先輩からは好意的なものを一切感じない。なんでか知らないけど嫌われているのであれば、このまま付いて行っても襲われたりしないだろうか。
 思った以上に疲れていた身体は、一度ベンチで休んでしまったことで緊張の糸が途切れてしまい、もう一人で帰るのは難しそうだ。そんな俺にとって、車で送ってくれるという先輩の提案は非常に魅力的で。
 よく考えてみたら、意味不明な理由を付けて俺を襲ってくる相手はごく一部の話だ。全員が全員、俺のことを狙っているわけでもないし、そもそも好感度を上げなきゃイベントは起きないはずなんだから……最初から好感度の低い先輩相手だったら、問題はないのでは?

(というか、襲われる前提で考えるなんて先輩に対しても失礼だよね……!?)

「さっさと来い。置いてくぞ」
「はっ、はい……!」

 立ち尽くす俺にイラついたような声を出した先輩が文句を言ってくる。
 こんなに嫌われているんだから、きっと大丈夫だ。世の中の男がすべて敵というわけでもないのだから、この際使えるものは全部使わせてもらおう。



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