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7月
…という夢を見たんだ。
しおりを挟む「はっ!! 夢……?!」
ハッと目が覚めた瞬間、願望のような言葉が口から飛び出す。本当に夢だったら良かったのに。そんな嬉しい事実はあるはずもなく、ちらりと視線を横に向けると緑川先輩がベッドの傍に置いてあったパイプ椅子に腰掛けていた。
「おはようございます、乙成さん。お早いお目覚めですね」
「ひ……っ、緑川先輩……!」
「あ、その反応はさすがに傷つきますよ」
爽やかな挨拶にすら怯えた悲鳴を上げると、先輩はくすんと明らかな嘘泣きをしてみせる。
いやいや、全然可愛くないし、可哀想でもないです。むしろどの口が言ってんだよと怒りすら湧いてくるからやめてください。
「さっきまであんなに私のペニスを欲しがってくれたのに……」
「それはっ! 先輩が……へ、変な薬を飲ませるから……!」
まるで俺が望んでそうなったかのように言ってくる先輩に全力で異を唱える。
本当に!! なんなのこの人!!!!
窓の外から運動部の声が聞こえるのを考えると、今は既に放課後なのだろう。もしかしてあれから今まで、俺が目を覚ますのを心配で待っていてくれたのか? なんて、少しは感心しそうになった自分を心の中で張り倒す。
あんなとんでもない効果のある薬、絶対違法薬物に違いない。一体どのルートで手に入れたのかは知らないけど、やばい人と繋がっているのかもしれないし、本当にこの先輩とは極力関わり合いにならないようにしないと……。
「ああ。それ、実は嘘なんです」
「はぇ?!?!」
えっっっ、嘘????
嘘って何が? どこからが嘘……?!
「そんな都合のいい薬があるわけないじゃないですか。寝てる乙成さんに飲ませるのだって至難の技ですし……」
「えっ、え?! じゃ、じゃあ、僕は……なんで……?」
「う~ん、プラシーボ効果ってやつですかねぇ」
プラシーボ効果とは。
本来は薬としての効果を持たない物質によって、得られる効果のこと(ネット調べ)
そもそもなんでそんな事をしたのか、膝を突き合わせて五時間くらいは話し合いたいものだけど、今は一旦置いておこう。
「そんな……だって、あんなに……っ」
「ただ単純に、乙成さんの身体がいやらしかっただけ、という気がしますけど」
ってことは、何だ?
あの、我慢出来ないくらいの快感も。
疼いてしかなかった後孔も。
誘惑に負けて「僕のお尻におちんちん挿れてほしいです♡」って願った事実すら。
全部媚薬なんて関係なかったってこと……?! そんな馬鹿な!!!!!
「僕! 一人で帰ります!!」
「おや。お身体は大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですっ、失礼します……!」
本当は全然大丈夫じゃないけど。
これまでの傾向を考えると、このまま学校にいたら、次は黒瀬とか赤塚とかが迎えに来てもおかしくない。そしてまた気付いたら流されてセックスしているんだ。
(そうなったら本当に死んじゃう……!)
少しでもフラグ回収を回避するべく、「気を付けて帰ってくださいね~」なんて、手を振っている先輩に見向きもせず、俺は保健室を後にした。
◇◇◇
(……とは言ったものの、やっぱりしんどい……)
保健室に行く前に感じていたダル重い感じが、より一層強くなっている。気を抜いたら足から力が抜けてしまいそうになるのを、必死に気力をふり絞って耐えていた。とにかく電車に乗ってしまえば、なんとかなるはず。
生徒用の玄関から校門までに道のりがいつもの倍以上に感じるのは気のせいだろうか。その道をふらふらと歩く様子のおかしい俺に近付いてこようとする生徒はいないみたいだし……ってそれもどうなのって感じだけど。今だけは自分がぼっちであることに感謝をするしかない。このまま何事も起きないまま、家に帰ってゆっくり休みたい。
「乙成?」
「……っ!」
そう思っていたところに声を掛けられて、ビクビクビクーーーッ! と大袈裟に驚いてしまった。
だ、誰だ!? 黒瀬か、赤塚か、もしくは仁紫……!?!?
やはり逃げることなど出来なかったのだ。絶望しながら振り返った先にいたのは思いもよらない人物だった。
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