乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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7月

悪夢のような一日。きゅうちを痛感

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 逃げるように目を閉じてから、数時間は経過しただろうか。ふと目を開き保健室の天井を見つめる。こうしてこの天井を眺めるのは、この間の青島との一件以来二回目のことである。
 あの時は青島に対する印象が爆上がりしたわけだけど、残念ながら今回においては浅黄の評価はだだ下がり。

(浅黄くん、先生になんて説明したんだろ……)

 いろいろとぐちゃぐちゃになっていたはずの身体は綺麗に整えられていたが、ベッドに寝かされた途端、気を失った俺を先生はどう思ったのだろうか。浅黄がどう言い訳をしたのか分からないが、このまま寝てていいのかも分からないし、気は重いけど保険医に話しかけてみるか……。

「……先生」
「お、乙成くん。おはよう」
「はい、おはようございます」

 ベッドを隠すカーテンを開けて、デスクに向かって何やら仕事をしていた保険医の背中に声をかける。持っていたペンを置いて近寄ってきた先生は、俺の額に手を当てると「熱は出てないね」と安心したような声を出した。

「貧血で倒れたって聞いたけど。寝不足だったり、食事抜いてたりする?」
「あ、えーっと……たしかに最近ちょっと眠りが浅いかも、です」
「乙成くん線が細いからなぁ~。ちゃんと栄養とって、しっかり寝ないとダメだよ」
「はい……すみません」

 悩んでることがあるなら話くらい聞くよ、と言ってくれたのだが、いかんせんその悩みの内容が「したくないのに複数の男と関係を持ってしまっているのですが、どうしたらいいですか?」という果てしなくビッチな内容なので、気軽に相談するわけにもいかないのだ。

「体操服にでも着替える?」
「あっ、いえ、大丈夫です!」

 本当を言うと楽な格好に着替えてしまいたかったが、先ほどのいろいろで見せられないような痕が残っていたら困るからな。少し寝苦しいけど制服のまま休んでしまおう。

「そう? それならせめてネクタイくらい外しておいた方がいいね。ゆっくり休みなさい」
「ありがとうございます」

 いろいろと気遣ってくれる先生に感謝をしつつ、半分仮病のような状態になってしまって少し心が痛い。いや、それもこれも全部人の話を聞かないイケメンどものせいなのだから、俺が罪悪感を覚えることはないよな。うん。そういうことにしよう。
 さて、授業をサボる口実が出来たわけだし、ここ最近寝不足だったことに変わりはない。すぐ起き上がって元気に活動するほど体力は回復していなかったので、重だるい身体が少しでも良くなるように、俺は再び、静かな眠りの世界に旅立つのだった。


 ◇◇◇


「……ん……?」

 肌を擽る違和感に、まだ眠りたいと重くなる瞼をゆっくり開く。
 空間を仕切る白いカーテンが眩しくて、その明るさに慣れるまで目を細めて違和感の主を確認する。徐々に形をはっきりさせる人影に、先生かもしくは浅黄か……? と思って視線を巡らせると、そこにいるのがそのどちらでもない事に気付いた。

「えっ、緑川先輩……?! な、何を……!」
「ああ、起きましたか?」

 まさかの人物に思わず大きな声を出してしまった。
 この人が、こんなところでいったい何をしているんだ!? っていうか、何か擽ったいと思ったら、ネクタイを外した制服のシャツはほとんどボタンが外されているではないか。ほんと、この人何してくれてんの!?
 信じられないものを見るような目で見てしまっていたのが伝わったのか、緑川先輩はにこりと胡散臭い笑顔を浮かべて、「降参」とでもいうように両手を上げるポーズをした。

「息苦しそうにしていたので、胸元を寛げて差し上げようと思ったのですが……驚かせてしまったようですね」
「そ、そうですか。それは……ありがとう、ございます」

 この人の前科を考えると、それが真実だと信じるのはなかなか難しかったが、善意というのなら……致し方ない、のか? とりあえず苦笑いを隠すことなく、お礼を口にする。はだけたシャツを胸元でかき合わせながら、疑いの眼差しを向ける俺にどういうわけか先輩はより一層笑みを深くする。

「ふふ。本当にただの善意だったんですが、こうも怯えられるとご期待に応えたくなってしまいますね?」
「えっ! だ、大丈夫です! 応えなくていいですからっ」
「まぁまぁ。男同士ですから、そんなに恥ずかしがらなくても」

 いやいや、なんでそうなるの!?
 っていうか、この人「参考書より重いものは持たないようにしているんです」みたいなザ文化系の顔しているくせに、めちゃくちゃ力強いんだよな!? 全然手を振りほどけないし、せっかく隠した素肌もやすやすと曝け出されてしまったのだが!!!




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