乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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7月

悪夢のような一日。きけんな実感!

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「えっ、そんなことって?!」

 ど、どういう質問?!
 だるそうにしている理由? それとも実際は違うけど、なんで風邪を引いたのかって事なのか?
 前者に関してだと、俺の口から詳細を説明するのは憚られるんですが……!

 なんて答えるのが正解なのかが分からず口籠もっていると、優しく頬に触れた浅黄の手に導かれて顔を上げる。すうっと目を細めた浅黄は、男の俺から見てもセクシーで、思わずどきりとしてしまった。

「優ちゃん、今日ずっとえっちな顔してる。色っぽいため息を何回も聞かせて、みんなを誘惑して……自覚ないの?」

 は…………はぁぁぁぁ?!?!

「そ、そんなことしてない……!」

 いやいやいや、ほんとなに言っちゃってんの?
 全力で否定してるのに、その「あーもう誤魔化しちゃって。仕方ないなぁ」みたいな顔すんのやめろ! 本気で言ってるんだから!

「初めてであんなに感じちゃうえっちな身体なのに、何週間も放置されたらそりゃ欲求不満になっちゃうよね」
「えっ、いや、それは……」

(初めてじゃなかったんですって言いたいけど言えない!!)

「しばらく一人にしちゃってごめんね? 寂しかった?」
「別に寂しくは……」
「本当? ほんとに寂しくなかった?」

 そんな何回も確認されたら、自分の答えに自信がなくなっちゃうじゃないか。そりゃあ、移動教室は常に一人だったし、いつも騒がしい相手がいなくて寂しかった……といえば寂しかったのか? あんまり強く否定しても大人げないよな。仕方ない、ここは俺が折れてやるか。

「えっと、ちょっとだけ……?」

 そう言った瞬間、浅黄は表情をぱあっと笑顔に変えて抱き付いてくる。

「俺も~~~っ俺も寂しかったーーーー!!!!」
「わぁっ、あはは! もう、急にやめてよ~」

 ぐりぐりと肩に頭を摺り寄せられると、浅黄の髪の毛がさらさらと肌を擽る。そのこそばゆさに声を上げて笑いながら、浅黄の身体を押し返そうとした。いや、だってここトイレの個室だし。なんでこんなところで男と抱き合わないといけないんだ。
 しかしそれは叶わず、離れようと伸ばした手首を捕まれ、どういうわけか至近距離で見つめ合うことになる。

「あ、浅黄くん? あの……――」
「でも安心して。これからはしばらく一緒にいられるよ」
「え?」
「学業に専念したいからって仕事の本数減らしてもらうことにしたんだ。貯金も溜まってたし、母さんも仕事順調みたいだから、まぁしばらくはいいかなって」
「そうなんだ! すごい、よかったねっ」

 浅黄のアルバイトはシングルマザーのお母さんを助けるために始めたことだという話は、以前本人から聞いたことがあった。それをしなくてもいい事になるというのは、多分きっと、いいことだと思う。先日一度だけ会ったことのある、明るく気さくなお母さんの笑顔を思い出して、自然と胸が温かくなった。

「ありがとー♡ まぁ、あとは……今は仕事より、目を離せない子がいるからさ。そっちが気になっちゃって」

 そう話しながら、「それってどういうこと?」と首を傾げる俺の唇を指で弄りながら、浅黄は楽しそうに目を細めている。ぷるんと艶やかな乙成くんの唇に思わず触れたくなる気持ちは分からんでもないが、本人の許可なく触るなよっ。
 って、まさか、乙成くんの唇が気になって目が離せないとか、そんなしょうもない理由だったりしないよな?!

「……そ、それって、もしかして僕のこと?」
「他にいないでしょ」
「っあ……!」

 やっぱりそうだった!!!
 まじかよ、浅黄……。まじかよ乙成くんの唇……。こんな百戦錬磨っぽいモテ男をここまで魅了するなんて、それが自分の口に付いていて本当に良かった。もし他の人に付いていたら、童貞隠キャの俺はすぐに陥落していたことだろう。恐ろしい。
 瞬時にいろんな想像が頭をよぎり、呆けていた俺だったが、掴まれた手首をグッと引かれ小さく叫び声を上げた。バランスを崩したままに浅黄の胸へ倒れ込むと、腰に回った浅黄の手のひらが怪しげに動く。

「やっ、浅黄くん……っ」

 ぞわぞわと知った感覚が、浅黄が触れたところから広がっていく。流石の俺も、もう何度もこういう事態に直面してしまっているからな。今のこの状況が、俺にとって好ましくないものだということは、誰に言われるでもなく分かっていた。だからこそ毅然とした態度で拒絶の意思を表したんだけど……。

「だめ……っ、離してっ!」
「ちょっと離れただけで、そんな顔されちゃったら心配で。もう無理」
「そ、そんな顔って……」

 どんな顔だよ?!
 嫌な予感に怯える俺は、最悪の未来を想像して顔面蒼白になっているのではないかと思うのだが。そんな俺に対して明らかに興奮した様子を見せる浅黄は、まさか嗜虐趣味があったというのか?! 友達のそんな趣味嗜好は知りたくなかったんですが……!!
 恐ろしいまでに完璧な笑顔を浮かべた浅黄は、慣れた手つきで俺の制服を寛げはじめる。

「ま、とりあえず欲求不満解消しよっか♡」
「ひぁ!? ちょ、っと、やだっ。こんなところで……っ」
「保健室行く前に、全部出してスッキリしよ。大丈夫、ぐったりしちゃっても連れて行ってあげるから安心して」

 なにそれ、全然安心できないんですけどーーー!?!?




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