128 / 162
7月
イヤ〜な再会
しおりを挟むその後、家まで送りますと言い張る赤塚をなんとか宥め、一人駅へと向かう。身体のことを考えたら送ってもらった方が良いのかもしれないが、そんなところをミユに見られたら困るからな。丁重にお断りをした。
しかし、俺の方は足腰ガクガクだというのに、赤塚の元気いっぱいな感じはなんでなんだ? むしろ肌艶が増しているというか……一歳しか違わないというのに、あれが若さってやつなのか? 女神のギフトで回復するはずの体力も、歩ける程度にはよくなったものの、未だに腰のだるさは抜けきらない。ミユのやつ……どうせ付けるんなら、ちゃんと効き目があるやるを付与してくれよなぁ……。
こんな生活を続けていたら、精も根も尽き果てて確実に死んでしまう。嫌な想像にぶるりと総身を震わせた時、改札へと向かう階段でふいに足から力が抜けた。
「あっ……!」
かくんっと音がするように傾く身体。まずい、落ちる……っ! 神社の階段から転げ落ちたあの時の記憶がフラッシュバックする。衝撃に耐えるようにぎゅっと目をつぶると、知らない男の叫び声が思ったよりも近くから聞こえた。
「あぶない!」
いつまで経っても訪れることのない痛みに恐る恐る目を開くと、片足を踏み外した状態で見知らぬ青年に抱き留められていた。
「きみ、大丈夫?」
「は、はい……ありがとうございました……」
ん? この人……どこかで見たことがある気が……。こちらを心配そうに覗き込む顔になんだか見覚えがあって、どこで会ったんだっけと首をかしげる。
「あ。あれ、君、前にナンパされてた子?」
は! そうだ!
バカ男一号にうざ絡みされていた時に助けてくれた人!
あの時はどうも……と言いかけた口は、男の次の言葉を聞いた瞬間ぴたりと止まった。
「その制服……男の子、だったんだ……?」
赤塚との練習は基本的に平日の放課後に行われる。そのため今日も制服のままビジホに直行していたんだけど。それを見て驚くってことは、俺のこと女の子だと勘違いしてたってことか。気まずそうに目を泳がせる男に、感謝の気持ちはどこかへ飛んでいき、言いようもないむかむかが湧き上がる。
なんだぁ、その顔は。男のくせに男にナンパされてたのかって、呆れてんのか? おお?
今の俺は心が狭いんだぜ、そんな困ったような顔をしていると噛みついちゃうんだからなっ。
「そうですけど、ちょっと失礼じゃないですか」
「えっ……」
「勝手に勘違いされたのはそちらでしょう? 僕だって女の子に間違われて、嬉しいわけじゃないんですよ」
だからそんな風に「せっかく美少女だと思って助けたのに、なぁんだ男かよ~」っていう風な顔されても困ります。さらっと助けるその手管は参考にさせてもらうけどな!
「ご、ごめん……っ」
「一度ならず二度までも助けていただき、ありがとうございました。それではさようなら」
「あっ……!」
キッと睨みつければ、怯んだ相手が支えるように掴んだままだった腰から手を離す。そうして距離をとった俺は、深々と頭を下げ、そのまま男を振り返ることなくホームに向かうのだった。
1
お気に入りに追加
1,347
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる