120 / 162
7月
頭も身体も鍛えましょう
しおりを挟む「俺はこの学校にスポーツ特待で入学したんだが、通常の筆記試験が免除される代わりに、特待生向けの実技試験を受けることになっているんだ」
「そんなのがあるんだ……」
初耳の情報に目を丸くする。
なるほど。だから他の部員は休んでいても、青島は勉強ではなくこうしてトレーニングをしているということか。
「ああ。だから他の生徒と同様の試験を受けることは無い。授業の範囲なら俺にも分かるとと思うが……正直、乙成に教えられるほどのレベルがあるか……」
「いやいやっ! 青島くんだって、実技試験に向けた練習しないといけないんでしょ? それなのに、僕の勉強に付き合ってもらうなんて申し訳ないし、気にしないで!」
俺との勉強が嫌で断られたというのなら号泣待ったなしだが、そういう理由なら仕方がない。むしろ大事なトレーニングを放ってまで、勉強に付き合って欲しいわけではないので、自分でなんとかするしかないと、覚悟を決めることが出来て良かったと思う。
気にするなと言っても、直前まで泣きそうな顔をしていた奴の言葉には、信憑性がないのかもしれない。青島は難しい顔をしたまま、考え込んでいる。
ああ、しまった。優しい青島を困らせてしまったぞ。なんとか話題を変えないと……。
「あっそうだ! 実は僕、改めてちゃんと鍛えないとなって思っていたところだったんだ。今日は勉強おやすみして、一緒にトレーニングして帰ろうかなぁ」
思いつきではあったが、ある意味理にかなっている提案だった。とりあえず身体を動かしてスッキリしようぜ! なっ!
「……そういうことなら。運動は俺の得意分野だから、任せてほしい」
「うん! ありがとう!」
俺の願いが通じたのか、ようやく笑顔を見せてくれた青島は、初心者向けの器具まで俺を案内してくれる。身体を動かすポイントや、効果を分かりやすく説明する姿はイキイキとしていて、本当に運動が好きなんだなぁというのが伝わってきた。普段は寡黙な青島だけど、やたら饒舌になるというか、早口になるというか。
とにかくその情熱につられて、俺も夢中になって筋トレに励んでいたのだが……。
(ちょっと汗かいてきちゃったなぁ。このままだと制服がすごいことになっちゃいそう……)
既に制服のシャツはしっとりとし始めている。このまま運動を続けたら大変なことになりそうだ。この後家に帰ることを考えると、せめてシャツだけでも脱いでおいた方が良いのではないか、という気になってきた。
出来ることならスラックスも脱いでしまいたいが、流石にパンツ一枚で励むほど、自分の身体に自信はない。
「お、乙成!? なにしているんだ!?」
「えっ?」
さっそくシャツのボタンを外していたところ、少し離れたところにいた青島が慌てた様子で駆け寄ってきた。
かなりの動揺っぷりだが、もしかして衛生的に裸は厳禁! みたいな使用上のルールとかがあったんだろうか。
「あ、えーっと、制服が汗まみれになる前に、脱いじゃおうかな~って思ったんだけど、ダメだった?」
「いやっ、ダメというか……っ!」
「ジャージは持ってきてないし……制服が臭くなっちゃうのが心配で……ごめんなさい」
「い、いや、謝らなくていい。大きな声を出して悪かった」
青島がこんなにも慌てているんだから、本当は何か規則があったのだろう。それなのにこうしてフォローを忘れない青島は、なんていい奴なのだろうか。
その優しさに甘えてばかりじゃダメだよな、と思いつつも、やっぱり汗は気になるし。どうしたものかと固まっていたら、青島が自分の鞄の中から何かを取り出した。
「その……脱ぐ、のも、別に悪いことではないんだが、誰が来るか分からないから、良ければこれを着てくれないか」
「これって、青島くんのTシャツ?」
「ああ。何枚か替えを持ってきているんだ」
「でも洗い物増えちゃうし……」
「いいんだ! いや、むしろお願いだから着てくれ。頼む」
「う、うん。わかった」
ものすごい勢いで懇願されて、Tシャツを受け取る。まぁ着替えが出来るのはありがたいし、ここは青島の好意に甘えてしまおう。
俺は脱ぎかけていたシャツから青島の服に着替えるのだが、こんな所からも体格差を思い知らされる。おそらく青島にはぴったりなのだろうそれは、乙成くんの身体で着てみるとかなりのビッグシルエットになる。
「わー、青島くんおっきいんだねぇ。僕が着るとぶかぶかになっちゃうや」
あまりの不恰好さに、あはは~と照れ笑いを浮かべる。うーん、男としては少し情けないけど、青島相手だと張り合う気にもならないというか、仕方ないと思えるから気が楽だった。
対する青島はというと、なぜか両手で顔を覆い天を仰いでいる。えっ、なに、どうしたの?
「青島くん?」
「……いや……なんでもない。続けようか…………」
「うん! お願いします!」
不可解な行動を取る青島は不思議だったが、おかげで気兼ねなく筋トレに励むことが出来そうだ。ちなみにTシャツの裾が太腿までかかっているので、スラックスも脱いだところでパンツも隠れるのでは? と思ったのだけど、そうしても良いかと青島に確認したら全力で止められたので、やはり使用上のルールが厳しいらしい。今度ここを使わせてもらう時は、忘れずジャージを持って来ることにしよう。
1
お気に入りに追加
1,347
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる