乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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7月

頭も身体も鍛えましょう

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「俺はこの学校にスポーツ特待で入学したんだが、通常の筆記試験が免除される代わりに、特待生向けの実技試験を受けることになっているんだ」
「そんなのがあるんだ……」

 初耳の情報に目を丸くする。
 なるほど。だから他の部員は休んでいても、青島は勉強ではなくこうしてトレーニングをしているということか。

「ああ。だから他の生徒と同様の試験を受けることは無い。授業の範囲なら俺にも分かるとと思うが……正直、乙成に教えられるほどのレベルがあるか……」
「いやいやっ! 青島くんだって、実技試験に向けた練習しないといけないんでしょ? それなのに、僕の勉強に付き合ってもらうなんて申し訳ないし、気にしないで!」

 俺との勉強が嫌で断られたというのなら号泣待ったなしだが、そういう理由なら仕方がない。むしろ大事なトレーニングを放ってまで、勉強に付き合って欲しいわけではないので、自分でなんとかするしかないと、覚悟を決めることが出来て良かったと思う。
 気にするなと言っても、直前まで泣きそうな顔をしていた奴の言葉には、信憑性がないのかもしれない。青島は難しい顔をしたまま、考え込んでいる。

 ああ、しまった。優しい青島を困らせてしまったぞ。なんとか話題を変えないと……。

「あっそうだ! 実は僕、改めてちゃんと鍛えないとなって思っていたところだったんだ。今日は勉強おやすみして、一緒にトレーニングして帰ろうかなぁ」

 思いつきではあったが、ある意味理にかなっている提案だった。とりあえず身体を動かしてスッキリしようぜ! なっ!

「……そういうことなら。運動は俺の得意分野だから、任せてほしい」
「うん! ありがとう!」

 俺の願いが通じたのか、ようやく笑顔を見せてくれた青島は、初心者向けの器具まで俺を案内してくれる。身体を動かすポイントや、効果を分かりやすく説明する姿はイキイキとしていて、本当に運動が好きなんだなぁというのが伝わってきた。普段は寡黙な青島だけど、やたら饒舌になるというか、早口になるというか。
 とにかくその情熱につられて、俺も夢中になって筋トレに励んでいたのだが……。

(ちょっと汗かいてきちゃったなぁ。このままだと制服がすごいことになっちゃいそう……)

 既に制服のシャツはしっとりとし始めている。このまま運動を続けたら大変なことになりそうだ。この後家に帰ることを考えると、せめてシャツだけでも脱いでおいた方が良いのではないか、という気になってきた。
 出来ることならスラックスも脱いでしまいたいが、流石にパンツ一枚で励むほど、自分の身体に自信はない。

「お、乙成!? なにしているんだ!?」
「えっ?」

 さっそくシャツのボタンを外していたところ、少し離れたところにいた青島が慌てた様子で駆け寄ってきた。
 かなりの動揺っぷりだが、もしかして衛生的に裸は厳禁! みたいな使用上のルールとかがあったんだろうか。

「あ、えーっと、制服が汗まみれになる前に、脱いじゃおうかな~って思ったんだけど、ダメだった?」
「いやっ、ダメというか……っ!」
「ジャージは持ってきてないし……制服が臭くなっちゃうのが心配で……ごめんなさい」
「い、いや、謝らなくていい。大きな声を出して悪かった」

 青島がこんなにも慌てているんだから、本当は何か規則があったのだろう。それなのにこうしてフォローを忘れない青島は、なんていい奴なのだろうか。
 その優しさに甘えてばかりじゃダメだよな、と思いつつも、やっぱり汗は気になるし。どうしたものかと固まっていたら、青島が自分の鞄の中から何かを取り出した。

「その……脱ぐ、のも、別に悪いことではないんだが、誰が来るか分からないから、良ければこれを着てくれないか」
「これって、青島くんのTシャツ?」
「ああ。何枚か替えを持ってきているんだ」
「でも洗い物増えちゃうし……」
「いいんだ! いや、むしろお願いだから着てくれ。頼む」
「う、うん。わかった」

 ものすごい勢いで懇願されて、Tシャツを受け取る。まぁ着替えが出来るのはありがたいし、ここは青島の好意に甘えてしまおう。
 俺は脱ぎかけていたシャツから青島の服に着替えるのだが、こんな所からも体格差を思い知らされる。おそらく青島にはぴったりなのだろうそれは、乙成くんの身体で着てみるとかなりのビッグシルエットになる。

「わー、青島くんおっきいんだねぇ。僕が着るとぶかぶかになっちゃうや」

 あまりの不恰好さに、あはは~と照れ笑いを浮かべる。うーん、男としては少し情けないけど、青島相手だと張り合う気にもならないというか、仕方ないと思えるから気が楽だった。
 対する青島はというと、なぜか両手で顔を覆い天を仰いでいる。えっ、なに、どうしたの?

「青島くん?」
「……いや……なんでもない。続けようか…………」
「うん! お願いします!」

 不可解な行動を取る青島は不思議だったが、おかげで気兼ねなく筋トレに励むことが出来そうだ。ちなみにTシャツの裾が太腿までかかっているので、スラックスも脱いだところでパンツも隠れるのでは? と思ったのだけど、そうしても良いかと青島に確認したら全力で止められたので、やはり使用上のルールが厳しいらしい。今度ここを使わせてもらう時は、忘れずジャージを持って来ることにしよう。



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