乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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7月

魔のテスト週間

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「あああああ、もう、どうしよう……」

 今日も今日とて、ミユ襲来の前に学校へ向かおうと、いつもより早めの時間に家を出る。

 なんで、なんでこんな事になってしまったんだ。俺はただ、今まで味わうことの出来なかった青春を楽しみたいだけなのに。友人と一緒にバイトしたり、遊んだり、勉強したり。そんなごく普通の経験をしながら、女の子とも仲良くなって、あわよくばお付き合いをしたい……そんな男子高校生なら当たり前の、ごく普通の願いを叶えたいだけなのに!
 それともなにか? 俺が知らなかっただけで、世の中の男子高校生はこうやって隠れてセックスをしているっていうのか? そんな現実知りたくなかったです……!

 何より童貞捨てるよりも先に、あんな物凄い快感を知ってしまって、俺は今後女の子と付き合うことが出来るのだろうか……。己の行く末が心配でしかなかった。

 というか俺、浅黄ともやっちゃったんだよな。連日男友達とセックス三昧とか、どんだけ爛れた生活なんだよ。
 未だに浅黄以外のクラスメイトはよそよそしいし、ちょうどいい関係を作るのは、こんなにも難しいことなのか。改めて思い知る。リア充って才能なのかもしれない、と。

 はぁ……と、大きなため息を吐きながら歩いている俺の前に、三人の人影が立ちはだかる
 。

「ゆーうくん♡ 今日は逃しませんよぉ~」
「いろいろ面白いことになってるみたいじゃん?」
「詳しく……聞かせて……」

 呼び止められた理由が、愛の告白などであれば大歓迎なのだが、この三人に限ってそんなことはあり得ない。

「あっ……ぁぁぁ……――」
「さぁ♡ HRが始まるまでまだまだ時間がありますよぉ。ゆっくりお話しましょうね~」

 両腕を神宮寺さんと御子神さんに捕まえられ、もう逃げることもかなわない。

 この世界に、俺の味方はいないのかぁぁぁぁ―――!!!!


 ◇◇◇


 朝からごっそりHPを削られた俺は、一日屍のようになって過ごした。幸いなことに、今日は浅黄が仕事で欠席をしていたので、二股をかけているような罪悪感を感じることはなく終える。
 そして更に俺の気分を憂鬱にさせるのは、約一週間後に迫っている試験についてだ。昨日の黒瀬との勉強会で、乙成くんの学力の程度が分かったのだが、俺の頼ることが出来る選択肢は①黒瀬②浅黄③ミユの三択だ。①と②に頼れば、先日の二の舞になることが明白なので、実際選べる選択肢はミユのみ。しかし俺と攻略対象のBL展開を求めている女神さまが、イベント突入のチャンスをみすみす逃すはずがなく……。今朝ちらっと相談した時には、満面の笑みで「優くんには、他に頼るべき方達がいますよぉ♡」と、一刀両断にされたのだった。

(そもそも、簡単に押し倒されて、碌な抵抗も出来ない体力に問題があるのでは……?)

 ふと、そんな考えが頭によぎった時、俺の中に第四の選択肢が生まれた。

(そうだ! 僕にはまだ、青島くんがいるじゃないか!!)

 どうして今まで思いつかなかったんだろう。誰よりも真面目で硬派な青島だったら、きっと真剣に勉強を教えてくれるはずだ。体育祭で友達がいないという事実が判明したことだし、きっと勉強を教えてほしいと誘ったら、喜んで付き合ってくれるはず。うん、そうに違いない!

 俺は新たに芽生えた希望を胸に、放課後の廊下を駆け出した。



















「悪い、乙成……。その相談は、俺では役に立ちそうにない」
「っえ!?」

 名案を思い付いたと興奮していた俺は、柄にもなく青島のクラスに単身で乗り込む。自分のクラスメイトにすら遠巻きにされている隠キャだというのに、校内で知らない人を探す方が難しい青島を呼び出した俺に、青島のクラスメイトがざわざわとしていた。
 こちらを見ながらこそこそと話をしているのに、誰も青島を呼ぼうとしてくれない。まさか、俺みたいな奴が青島を呼び出すなんて、分不相応だと思われているのかと涙目になっていると、近くにいた心優しい男子生徒が「青島くんはトレーニング室だよ」と教えてくれた。

 なんでも、テスト期間中はどの部活も練習は休みになるらしく、そういう時青島はいつもトレーニング室で、一人自主練に励んでいるらしいのだ。
 多分あまり知られてないから、みんな分からなかったんだと思う、と周りのフォローまでしている彼は、青島と同じ野球部員なのだそう。
 なぁんだ。みんな俺に意地悪して青島を呼ばないんじゃなくて、教室にいないのは知ってるけど、どこにいるのか分からなかっただけなのかぁ。
 安心した俺は、心優しい野球部員くんにありがとう、とお礼を言った後に、件のトレーニング室にやって来たのだが……。

「ど、どういうこと……?」

 まさか青島に断られるなんて思ってもいなかった俺は、再び涙目である。




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