乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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6月

始まりました!勉強会

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 ――次の日。
 確実に何かを察知している様子のミユが、聞き取りを行おうと近づいてくるのを華麗に回避しながら、なんとか無事に登校した俺だったのだが、クラスについてホッと息を吐いたのも束の間……いつも以上にべたべたと過保護な浅黄を見て、神宮寺さんと御子神さんから向けられる突き刺さるような視線に耐え抜く一日となった。

 いやもうね、ことあるごとに「身体は大丈夫?」とか聞いてくるのやめてくれませんかね!?
 二人からだけではなく、一日中、他のクラスメイトもチラチラこちらを見ていたような気がするんだよな。もしかしたら、体調悪いのに学校来るなよって思われたのかもしれない。ただでさえ孤立しているような状況なんだから、誤解を招くようなことは言わないでほしいんですが!!!

 風邪じゃないよ、大丈夫だよ。と説明したくても、目が合っただけで顔を逸らされたりして、話をする機会すらないなんて……。

「……はぁ…………」

 その時のことを思い出すと深いため息が零れてしまう。本当に、一体どうしてあんなに嫌われているんだろうか。

「なんかめちゃくちゃ疲れてるな」
「う、うん……ちょっとね……」

 女神のギフトのおかげもあり、身体はすこぶる元気だ。むしろ悪いところがどこにも見当たらず、毎朝清々しい気分で起きている。しかしその反面、今日一日だけで精神的な疲労がたっぷりと溜まっている。
 バイト中も浮かない顔をしている俺に対して、悩みがあるなら聞くぞ、と黒瀬は言ってくれたけど、内容が内容だけに相談することもままならない。

「ありがとう。でも、本当に何でもないから気にしないで」

 ははは~と乾いた笑いで誤魔化そうとする俺を見て、黒瀬は眉間の皺をより深くした。

「今日のバイト後に勉強会でもどうかと思ったが……別の日にするか?」
「……っする! 勉強会!!」

 思わぬ黒瀬の言葉に前のめりで返事をしてしまった。
 そうだよ。体育祭の時に、バイト終わりに勉強会しようって話してたもんな!

 黒瀬の目は、本当に大丈夫か? と疑っているままだが、夢の勉強会をこの俺が断るわけないだろう!?
 むしろ「友達と勉強会をする」ということだけが、クラスメイトに嫌われてぼっちである事実に傷ついた俺の心を癒してくれるんだ……!

「大丈夫! 具合が悪いわけじゃないしっ」

 しかも勉強会ができると思ったら、今まで沈んでいた気持ちも浮上してきた。病は気からってな!

「ほんとにほんとに、大丈夫だからっ。勉強会、絶対しようね?!」
「……はいはい」

 俺の勢いに押し負けた形で、黒瀬が苦笑いを浮かべながら承諾をした。
 やったね!! あーーーー楽しみだなぁ!!!

 その後、あまりに俺が浮かれているからか、常連のお客さんからは「何かいいことでもあったのか?」と聞かれるようになってしまったのだが……。
 うーん、俺にとっては一大イベントだけど、それが他の人からしたらよくある普通のことなんだ、という分別はついているからなぁ。

「えへへ。秘密です~」

 答えた結果、なんだそんなことかと思われないよう、質問されるたびにそう躱していると、空気を読んだお客さんはそれ以上何も質問してこない。別に言ってもいいんだけど、俺が恥ずかしいから……。こういう時、このお店のお客さんは優しい人ばかりで助かるよ。

 何人か同じ対応を繰り返しながらも、俺は早く終わらないかな~なんて、ちらちら時計を見るのをやめられない。とにかく落ち着きのない俺に、恐らく原因を全て知っている克さんが、笑いを隠さずに早上がりを提案してきた。

 もし一人じゃ回らなくなったら呼びに行くから……とのことなのだが、店舗と住宅が一体になっているからこその利点だろう。

 で、でも確かにそうだよな!?
 急にお客さんが増えて大変になったら呼んでくださいっ! すぐに戻ってくるんで!

 即座にイエスと言いたいところだったが、俺にもまだ多少の理性が残っていたようだ。社交辞令なんてことはないよな? と、念押しの確認を行う。

「い、いいんですか……?」
「あははっ、勉・強・会♡ 頑張ってね~。あ、ちゃぁんと、勉・強・するんだよ~?」
「? はいっ、もちろんです!」

 克さんはなにやら含みをもった言い方で、至極当たり前のことを言い含めてくる。勉強会なんだから、勉強するに決まっているだろうに。

「ふふ、湊もな?」
「……うっせーよ。邪魔すんじゃねぇぞ」

 にやりと悪い顔で笑いながら、黒瀬にも向き直る克さん。
 え、ほんと何!? 何があるの!?

「はいはーーい。じゃ、お二人とも、ごゆっくり♡」
「ほら、行くぞ」

 もしや俺の知らない勉強会の当たり前が存在するのか!? という考えが頭をよぎったが、俺の腕を引く黒瀬の行動に遮られ、深く考えることが出来なかった。
 少し気になりはするが、これから実際に経験するわけだし。習うより慣れよだ! 

 そうして考えることをやめた俺は、克さんに手を振りながら初めて上る階段へと進んでいった。



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