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6月
浅黄家の団欒
しおりを挟む「なになに~? 花瑛もお知り合いなの? ずるいわ~私だけ」
花瑛ちゃんの愛らしさに、だらしない表情を晒していたであろう俺は、鞄を下ろしながら不思議そうな顔をこちらに向ける、浅黄のお母さんの存在を思い出しハッとする。
そ、そうだよ! あんなに調べてシュミレーションしたというのに、美幼女の誘惑に負けて全て計画が吹っ飛んでしまった……! と、とにかく、まずはご挨拶をしないと……
「あのっ、お留守のところ、勝手にお邪魔してすみません! はじめまして、乙成ですっ」
ぺこりと大きく頭を下げる。花瑛ちゃんがキョロキョロと俺とお母さんを見比べているのだが、ど、どう? お母さんどんな反応? 俺怖くて見れないから教えてーー?!
「やだー、壱成が彼女連れてくるなんて初めてじゃない♡ 先に連絡してくれたら、ケーキでも買ってきたのに~」
「あっ、いや、僕……!」
はっ! 乙成くんの美少女顔問題を忘れていた! お母さんがたいそう喜んでいるのを見て、ぐさりと罪悪感が心臓を貫く。別に俺が悪いわけじゃ無いんだけど、なんていうか、ぬか喜びさせてすみません!!!
慌てて否定をしようと両手を振っていたら、俺よりも先にキッチンにいる浅黄と、隣にいた花瑛ちゃんが訂正を入れてくれる。
「あはは。母さん、優ちゃんは男の子だよ~」
「だよぉ!」
「っ、す、すみません」
二人の言葉に乗っかって謝罪をすると、お母さんはぱっちりとした目をさらに大きくして、驚きの声を上げる。
「えーーーっ! こちらこそごめんなさいね?!」
なんというか、すごく可愛らしいお母さんだなぁ。写真で見た時は気の強そうな美人って印象だったけど、こうして話してみると表情がくるくる変わるし、とても気さくだ。まさに浅黄のお母さんって感じ。
「あらあら、こんな可愛い男の子いるのね……。でも男の子の友達を連れてきたのも、あなたが初めてよ」
「えっ、そうなんですか?」
しげしげと俺の顔を確かめながら、感心したように話す。
彼女が初めてというのも驚きだけど、男友達もないなんてびっくりだ。浅黄は愛想よくいろんなクラスメイトとも話をしているし、俺と違って友人が多いイメージだったから、そんなこともあるんだな。
「あの子、人生と他人を舐めてる所あるから。嫌われやすいのよね~」
「いちにぃおともだちすくないの」
「ちょっと~変なこと吹き込まないでくれよ。さっさと手洗って、着替えて、座る!」
「「はぁ~い」」
テンポよく繰り広げられる会話に、自然と笑みが溢れてしまう。あー、いいなぁ。浅黄はこういう家庭で育ってきたのか。微笑ましい思いで、それぞれ準備をしに行った背中を見送ると、キッチンから料理を手に浅黄がやってきた。
「そんな緊張しなくても、大丈夫だって言ったでしょ?」
食卓の準備を手伝いながら、その言葉に大きく頷く。
「仲良いんだね」
「まぁね。みんなで協力しないとだし、家族は好きかな。惚れ直した?」
「……最後の一言がなければ」
「くくく、つれないなぁ~」
惚れ直すとかはないけれど、学校やモデルの仕事をしている時とは違う、一番自然体な浅黄を見ることが出来た気がする。そしてそんな浅黄を知っているのが自分だけだと思うと、なんとなく優越感みたいな気持ちが生まれてくるのも事実で……。不思議な感情にむずむずしてしまう。
「いちにぃ! あらってきたよーっ」
「偉いぞ花ちゃん! とっても偉いから、今日は優ちゃんの隣の席を譲ってあげよう~♡」
そんな事でいいのか!? と思ったが、花瑛ちゃんが「きゃー♡ やったー♡」と嬉しそうに飛び付いてきてくれた。はぁ……天使かな……。
「で、俺はここから花ちゃんと優ちゃんを見ながら食べる、と。最高ですね」
「じゃあ私も~♡」
「あ、あはは……お母さんまで……」
どうやら浅黄家のノリは常時こんな感じらしい。陽気な笑顔のあふれる食卓で、浅黄の作った料理をみんなで食べた。そろそろ帰ろうかなという頃には、泊まっていけばいいのに~と引き止めてくれる女性陣の勢いに負けそうになる。
なんとか明日は学校だからと断る代わりに、今度泊まりに行く約束を取り付けられてしまったが、俺にはまだハードルが高すぎる……! それが実現するまでにもう少し、リア充スキルを上げておくので、どうかお時間をください。よろしくお願いします。
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