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6月
あ、それ覚えてたんですね?!
しおりを挟むとはいえ、せっかくこうして飯まで奢ってもらっているのに、上の空だったのは悪かったよな。説明できない内容がほとんどだが、とりあえずその点だけはしっかり謝っておかないと。親しき中にも礼儀ありってやつだ。
「上の空だったのは、その、昨日いろいろ……あったから。ちょっと思い出しちゃって。ごめんね」
「いろいろ? 例えば?」
「そ、それは……」
それを聞かれるのはめちゃくちゃ困る!
ミユが腐女神だっていう説明をしなくちゃいけなくなるし、なにより俺自身のことをなんて言ったらいいのか分からない。「腐女子の女神たちが満足するために、君たち攻略対象と十八禁的なことをするために別の世界から来たんだよ~」って?
ーー言えるか!!!!
「あ~~……そっか。そうだよね」
気まずさに俯いて言葉を濁していたら、何かを悟ったような顔をした浅黄が手を伸ばしてくる。
「キスマーク付けた時のコト、思い出して変な気持ちになっちゃったとか?」
「っ、ひぁ……! や、ちがうよ……っ」
むしろ今まですっかり忘れてたんだから、蒸し返すなっ。俺は男からキスマークを付けられたことなんて、さっさと忘れてしまいたいんだから!
目を細めて首元を擽られると、それだけでぞわぞわとした何かが走る。小さく声を上げて逃げるように身体を離すけど、あれ、と呟いた浅黄に襟足を覗かれる。
「昨日付けたやつ、もう消えてるの?」
「え!? あ、えーっと、僕、傷が治りやすい体質みたいで……あはは……」
浅黄に付けられた痕は、まさに女神のギフトの恩恵によって、今朝目が覚めた時には綺麗さっぱりなくなっていた。内出血が1日で治るなんて、傷が治りやすいなんてもんじゃないだろうとは思うものの、そう言うしかなくて俺は苦笑いを浮かべながら説明をしてみる。
これで浅黄が変な顔をしたら……ミユが実験対象エンドを組み込んだということになるだろう。
俺の今後がかかった分岐点である。
固唾を飲んで返事を待っていると、浅黄は一瞬考えるような顔をした後に、パッと笑顔に変わった。
「ふーん? そっかぁ、キスマークがすぐに消えちゃうのは残念だけど、優ちゃんの綺麗な肌に傷が残らないのは良いね」
特におかしいと思った様子もなく、にこにことしている目の前の男を見て、本当に違和感を感じないのか……と不思議な気持ちになる。
「それに、キスマークはまた付ければ良いだけだし♡」
「ひゃぅ……っ! も~っ、首やめて……!」
首筋撫でられる。俺が大きな声を出すのが面白いのか、クスクスと笑った浅黄は嫌がれば嫌がるほど触れてくるのをやめない。
なんなんだコイツは!
ちょ、本当にやめて?!まじで擽ったいんだってば!
最近変なちょっかいをかけてくる野郎が増えたせいか、乙成くんの身体はちょっとした事でも快感を感じるようになってしまった。
このままでは、公衆の面前で勃起してしまう……なんて事にもなりかねない。それだけはなんとしてでも阻止しなければ!
「ほんとに……っ、も、擽ったい、からぁ……」
涙目になりながら浅黄の手から逃れようと暴れていると、隣の席に座っていたカップルとばっちり目が合ってしまう。
大きな声を出していたからこちらを見ていたのだろうか。彼女の方は浅黄から目を離せない、といった感じだが、彼氏は俺の方をじっと見詰めていた。
(うわーーーっ⁈ はっ、恥ずかしい……!)
男同士で戯れてるところを見て、一体どう思われただろうか。俺に釣られたように真っ赤になる彼氏くんと、無言で見つめ合いながら息を飲んでいると、突然目の前が暗くなった。
「わ……っ⁈」
「ごめんごめん、ちょっと調子乗りすぎちゃった」
なにかと思ったら、浅黄のジャケットを頭から被せられていたらしい。それを取り払った時には、目の前に浅黄が立っていてカップルも在らぬ方を向いている。よ、良かった。こちらから関心を逸らしてくれたみたいだ。
ほっと胸を撫で下ろし、多少の恨みをのせて浅黄を見上げる。
「もう。冗談がすぎるよっ」
「ごめんね~? いやぁ、可愛すぎるのも考えものだねぇ」
「なにそれ……」
こちらがムッと唇を突き出して不満をあらわにして見せているのに、浅黄はでれっと相合を崩すのだ。
「あーーーもう、ほんっと可愛い……。ね、優ちゃん、この前言ってた練習しよっか?」
「えぇっ?! い、今から?」
この前言ってた練習って、あのモデル撮影の時に話してた事だよな? ツッコミの練習は一人じゃ難しいから、一緒にやろうってやつ。あの時は何故かエロいことになってしまって、うやむやになってしまったけど、ついに本格的な練習が始まるということか……!
いつも突然始まる練習だから、多少の覚悟はしていたものの、まさか今回は他にお客さんもいるような場所でのお誘いとは。ハードル高すぎないか?
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