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6月
女神のギフト、とは。
しおりを挟む前のめりで返事をする俺に、浅黄はちょっと照れたような顔をしながら頬をかいている。
「わー……なんか、そんなに喜ばれるとちょっと照れちゃうんだけど。優ちゃんが嬉しいのって俺が奢るから? ……それとも、一緒に出掛けるから?」
「? そんなの、遊びに行けるからに決まってるでしょ?」
なに当たり前のこと聞いているんだ、こいつは。
もちろん奢りであることもポイントは高いが、たとえ自腹だったとしても、「休日に友達と遊ぶ」というのがリア充の第一歩なんだ!
友達がいないとなぁ、予定がないからって一日中ベッドの上で過ごしたり、ゲームで徹夜して翌日寝坊したり、ご飯も食べずにお菓子ばっかり摘んだり……とにかく自堕落な生活を送るしかなくなるんだからな!(一部過大表現あり)
「へ、へぇ、そっか。あは……俺も嬉しいな」
「うん! 楽しみだねっ」
「……そうだね……。はぁ、ちょっと素直すぎてヤバいんですけど……」
「浅黄くん?」
「いやっ、こっちの話! おすすめのお店予約しておくから、期待しててよ」
「わぁ~ありがとう! 本当に楽しみだなぁ♡」
なにやらぶつぶつと呟いている浅黄のことは一旦放置して、俺は明日のリア充イベントに想いを馳せる。
――こうして、俺の乙成くんとして参加した高校二年の体育祭は、色々あったけれど無事幕を下ろすのだった。
「あらぁ~随分派手に付けられましたねぇ♡」
何をしたわけでもないけれど疲れた身体を休めるべく、俺は家に帰るとすぐに部屋着に着替えた。母さんが選んでいるという乙成くんの服は、部屋着というには少々可愛らしく……別に少女めいているわけではないんだけど、何というか、こう、ルームウェアって言葉がぴったりのゆるゆる着だった。
既にそういった服装たちに慣れきっていた俺は、何を疑問に思うこともなくその服を着たまま「今日の成果を教えてください♡」と我が家にやってきたミユを部屋に招いたのだけど……。例の浅黄に付けられていたキ……キスマーク(小声)を忘れていたんだよな。
「あっ! こ、これは……っ」
ぱっと曝け出していた首元を押さえ、顔に血が上るのを感じながら言い訳をしようとすると、ミユがうんうんと頷きながら満足そうに微笑んだ。
「隠さなくても良いんですよぉ♡ 優くんが頑張っている証拠ですからね~」
いや、俺としては全然こんなことで頑張りたくないんだけどな?! なるべく攻略対象を刺激せずに、友好的な友達関係をキープしていたいんだよ……。
そんなことを言ったら、ミユがどうなるのか分からないので、俺は沈黙を貫いた。
「でも大丈夫ですよ~そのキスマーク♡も、明日には無くなってるはずですからぁ」
「えっ?! これって、そんなに早く消えるものなの?」
驚きの声を上げる俺に、チッチッチッと指を振るミユは、まさにドヤ顔の見本のような表情で説明を続ける。
「うふふふ~♡ こちら、順調に攻略対象とえっちな関係になっている優くんに贈る、私たち女神からのギフトですぅ!」
(相変わらず、ばっちり状況を把握されている……)
しかし一つ訂正させてもらうと、たしかに黒瀬とはヤる事までヤってしまったが、それだって許可制のルールがある。赤塚とのあれは可愛い後輩のためのボランティアに近いし、浅黄とは一回限りの擬似行為で終わっているのだ。
どれもある意味理由があって仕方なくしたことなのだから、それらを全て同じ「えっちな関係」と括るのはやめていただきたい。断じてそういう訳じゃないからな。
「優くんがどう思っているかは置いておいて~複数人と致すことによっていろいろと身体に不調も出てきてしまうかもしれないですよねぇ?」
「さらっと心読むのやめて……」
しかも複数人と致すってなんだ!? 怖すぎる前提はご遠慮願いたいのだが……。
「それに、もしかしたら他の男との痕跡が見つかって、うまく進展してた関係がギクシャクしちゃうかもしれませんよね……それらを解消するために、私たち知恵を絞りましたぁ♡」
恐らくそこにキスマークがあるのだろう首筋に、つつ……と指を這わせるミユに、俺がぴくりと身体を震わせると、花が綻ぶような可憐な笑顔を見せる。
ああもう、言ってることもやってることも、とにかくとんでもない内容なんだけど、まさにヒロイン然としたミユは本当に可愛いんだよな……。
「ふふ♡ もちろん骨折だとか、命に関わるような怪我までは、そうはいきませんが。腰の鈍痛から、キスマークみたいな内出血、他にもちょっとした拘束で付いてしまった縄痕などなど……小さな切り傷や倦怠感くらいのものであれば、一晩寝たらあら不思議! 綺麗さっぱりなくなりますぅ♡ もちろんお尻の孔がゆるゆるになる、なんてこともあり得ません! まるでいつも処女のような慎ましやかな蕾……♡ それでいて感度はバッチリだなんてぇ……もう最高です♡♡ なので優くんは何にも気にせずいろんなプレイに励んでくださいねっ!」
「それって人としてどうなの?!」
まるで通信販売のような口調で、すらすらと女神のギフトとやらについての長文説明を述べるミユの顔はとても晴れやかだ。
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