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6月
リレーの勝者と
しおりを挟むそのまま何となく浅黄が走っていく後ろ姿を見つめていたら、向かう先にいた黒瀬とパチリと目が合う。周りにこちらを見ているやつがいないかを確認して、大丈夫だと判断した俺は、唇の動きだけで「が・ん・ば・れ!」と応援メッセージを送った。それを見た黒瀬が一瞬目を丸くした後、ふっと表情を和らげてこくりと頷いた。
うんうん。いつもぼんやり適当に過ごしていただけの体育祭で、こうして応援できる友達がいるというのは本当に幸せなことだなぁ。俺……今、めちゃくちゃ青春してる~って感じがする!ありがとう乙成くん!
そして、大歓声の中始まったリレー。
学年別の試合が次々に勝敗を決めて、遂に混合リレーが始まろうとしていた。この試合で一位を取ったクラスが優勝……という中々の接戦具合。俺は胸躍る展開にドキドキとしながら、勝敗の行く末を固唾をのんで見守っていた。
(二人とも頑張れ……!)
そうして、先にゴールテープを切ったのは……
「優ちゃーんっ、勝ったよぉーー♡」
ごく僅かな差で勝ったのは浅黄の方だった。それまでのチームメンバーの頑張りもあり、黒瀬との最終コーナーでのデッドヒートの末に見事1位をもぎ取った。
「うん! すごいね、もしかして僕たち総合優勝なんじゃないかな?」
試合が終わってすぐに駆け寄ってきた浅黄を、俺が大きく手を振りながら満面の笑みで迎え入れるとどうしたことか浅黄の顔から笑みが消えた。
えっ、なんで?! ここは一緒に勝った喜びを分かち合おうぜぇってイベントじゃないの? ま、まさか、お前応援しかしてないくせに何「僕たち」とか言ってるんだよって、そういうやつ!?
まぁもしそう思われていたとしても、悲しいことにその通りなので何も言い返せないのだが、とにかく被害妄想丸出しの俺は、言い訳がましく一言追加してみる。
「浅黄くんのおかげだねっ! ありがとう」
あのー、これでいいでしょうか?
普段ニコニコしているやつが急に真顔になると怖いんだから、お願いだから笑ってくれ! 浅黄よ!
「……もう怒ってない?」
「え……」
ぽろっと呟かれた言葉はあまりにも小さい声で、本当に聞こえなかった。
「キスマーク。勝手に付けちゃったの、怒ってるんじゃないの?」
「っ、お、怒ってないよ」
いきなりなんでその話題?! 話の飛躍についていけなかったが、せっかくの優勝気分で盛り上がるところを、今更キスマークを付けられたことで怒り始めたら本当に空気が読めないやつになってしまうだろうが!
うーん、なんて答えるのがいいだろうか。正直こうやって聞かれるまでは忘れていたくらいだしなぁ……それでも見えるところに付けられるのは困るし、おかげで緑川先輩には酷い目に合わされたので怒っていたのは確かだから、それだけはっきり伝えておくか。
「でも、こういうのは、困る……その、見ると変な気持ちになっちゃうから……」
だって乙成くんってばただでさえ美少年なんだ。耽美な色気が加わると、今は自分だってわかってても、見ちゃいけないものを見た気分になっちゃうというか……!
そうして緑川先輩みたいな変態もホイホイしてしまうのだ。それだけはなんとしてでも阻止したい。
「へ、変な気持ちって……?」
言えと⁈
「っ、知らない!」
「あっ、優ちゃん! ごめんってばぁ~」
自分の姿を見てムラムラくるナルシストのレッテルを貼られるのは御免こうむりたいので、俺はその場から逃げることにした。くるりと浅黄に背を向けて、その場から去ろうとするのだが、先ほどまでとは一変してにこにこと嬉しそうな浅黄が後を付いてくる。
「ねぇねぇ優ちゃん、明後日は振替休日でしょ? 俺仕事もないんだけど、優勝記念にメシでも食いに行かない?」
「えっ」
「許してくれたけど、ソレのお詫びも兼ねて俺が奢るからさ♡ ついでにその後どっか遊びに行こうよ~」
これは!!!!
またしても、「友人と休日に遊びに行く」イベントではないか?!?! 黒瀬との勉強会に続いて、こんな……い、いいのか?!?!
有難いことに乙成くんとして生活を始めてから、放課後に買い物に行ったり、ご飯を食べたりっていうのを経験はしてきたけど、やっぱりこういうのは何度したって嬉しいものだ。リア充してるって気になる……!
「いっ、行きたい! 本当にいいの……っ?!」
普段は仕事も忙しいはずなのに、貴重な休日を俺と過ごしてくれるなんて、浅黄は本当にいいやつだ。それだけ大事な友達だと思ってくれてるんだよな! 嬉しいよ!
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