乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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6月

応援をしよう!

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 のんびりとした足取りでようやくグラウンドに着いた時には、午後の第一種目の騎馬戦が最終対戦を始めるというところだった。

(あれ、騎馬戦ってたしか……)

「あっ! 先輩ーっ、やっと来てくれたんですか⁈」
「あ、赤塚くん!」

 やっべぇ忘れてた。応援するって言ってたんだっけ。
 いつも元気いっぱいの赤塚が、珍しく眉をハの字にして肩を落としている。

「もう、俺との約束忘れちゃったのかと思って、悲しくなってたところですよぉ」
「わ、忘れるわけないじゃない」

 ここで忘れてたと言おうものなら、不貞腐れて試合放棄をしてもおかしくないテンションだったのだ。俺は誤魔化しついでに満面の笑みを浮かべて、自分より幾分高いところにある後輩の頭を撫でながら応援した。

「頑張ってね、応援してるよ」

 どうやら乙成くんの撫で撫でが功を奏したらしく、赤塚の機嫌は急上昇。いつもの如く、あるはずのない尻尾がブンブンと振り回されているようだった。

「先輩、もし今回俺が最後まで残ったら、ご褒美くれませんか?」
「ええっ? 僕が出来ることならいいけど……あまり高い物は無理だよっ⁈」

 こちとら最近バイトを始めたばかりで、そんなにお金に余裕があるわけではないのだ。高額なプレゼントを要求されたらかなり困る。

「大丈夫です! お金は一切かからないようにしますから」
「う、うん? それなら……平気、かな……?」
「やった♡ 楽しみだなーっ、俺めちゃくちゃ頑張って来ます!」

 お金がかからないご褒美ってなんだ?
 ともかく赤塚の機嫌もやる気も充分みたいだし、なんとかなるかもな。Bクラスの総合優勝のためにも頑張ってくれたまえよ。

 よくよく考えたらここで赤塚が負ければ、そもそもご褒美の必要も無くなったのでは?と思ったが、それに気付いた時には既に勝利が決まっていたし、勝負をする以上どうせなら勝ちたいと思うのは、男子高校生として致し方ない感情だと思う。
 仕方がないから遠くで元気に手を振っている可愛い後輩に、勝利に貢献したご褒美をあげるとするか。







 赤塚を主とした騎馬は、あれよあれよという間に周りに群がる選手のハチマキを奪い取り、終わってみれば圧倒的な点数差で勝利を収めていた。
 ……これは……問答無用でご褒美が必要だろうな。
 嫌だなぁ~なんて渋る隙もないくらい、完璧な試合だった。

 一体どんなお願いをされるのかは分からないけど、精一杯お祝いしようと俺は心に決めるのだった。

 ◇◇◇

 それからいくつかの試合を終えた後、ついに始まった最終種目。競技の花形リレーの開始である。まずは学年別に三試合、そして大トリに縦割りの混合リレーが行われ総合得点により優勝チームが決まるらしい。

 現在の総合点は、俺たちのB組と黒瀬のC組がわずか五点差で競り負けている。しかし、混合リレーの結果次第では、逆転優勝もまだまだあり得る状態だ。
 流石攻略対象といったところか、混合リレーのアンカーは上級生の三年を差し置いて浅黄と黒瀬の両名である。個人的には友人としてどちらも応援したいけど……クラスのことを考えると、浅黄を応援しないとだよな。

 そんなことを考えていたら、当の浅黄が勢いよく抱きついて来た。

「優っちゃ~~ん♡」
「わぁっ!」
「俺、頑張って来るからっ、ちょっとだけ充電させてー!」

 ぐりぐりと額を俺の肩に押しつけて甘える浅黄は、まるで大型犬みたいだ。

「あははっ浅黄くん、髪の毛擽ったいよぉ」

 頭を動かすたびにふわりと揺れる柔らかい髪の毛が、首に触れるのがこそばゆくてムズムズしてしまう。思わず破顔して逃げるように身体をそらしていると、気付けば浅黄はじぃっと俺の顔を見つめていた。

「? 浅黄くん?」

 急に真剣な顔をしてどうしたんだろう。
 首を傾げて問いかけると浅黄は、はぁぁぁと大きな溜息を吐きながら呟いた。

「……めちゃくちゃ充電出来た。やる気満タンだけど、優ちゃんが愛しすぎて離れたくない。どうしよう……」
「な、何言ってるの……」

 意味が分からない。そんなふざけた理由でリレーのアンカーが棄権するようなことがあれば、原因となった俺に非難が集中してしまうではないか!
 遠くから聞こえる選手収集の掛け声を耳にして、俺は必死になって浅黄の背中を押す。

「あっ、ほら! 呼ばれてるよっ、僕ここで応援してるから、頑張ってきて。ね?」

 浅黄くんが格好よく走ってるところが見たいなー?!なんて、あからさまなヨイショをしてみるが、どうやら効果てき面だったようで、パァッと顔を輝かせた浅黄は軽やかに駆け出した。
 大きく手を振りながら、「絶対勝つから、見ててねー!」と叫んで走っていく級友を見て、苦笑いを浮かべながらも手を振り返す。



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