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6月
やったー!って、なんでそうなるのぉ?!
しおりを挟む「そういや来週からバイトに来れるって言ってたけど、テスト勉強とか平気なのか?」
「え?」
腹がはち切れそうなくらい弁当を食べ続けた後、食休みをしていると思わぬ話の内容にぽかんと口が開いてしまった。
「『え?』って……。体育祭が終わったら、すぐに期末試験の時期だろ? 勉強の方はどうなんだ?」
「あ、うーーんと……ど、どうなんでしょう?」
以前の俺は勉強に関しても中の中。悪くもなければ良くもない。しっかり事前勉強をすれば赤点にはならないが、満点を取るにはほど遠いような成績だった。果たして乙成くんはどれくらいの賢さなのだろうか。
「どうなんでしょうって、なんだそりゃ」
「あはは……えっと、どこが分からないか分からないというか。なんというか……」
「おいお前、それ一番ヤバいやつじゃないかよ」
誤魔化すように笑う俺に、黒瀬は本当に大丈夫なのか?と心配がありありと浮かんだ表情で眺めてくる。
「俺もめちゃくちゃ出来るわけじゃないが……バイト終わりにうちで勉強会でもするか?」
「えっ、勉強会⁈ いいの⁈」
「あ? ああ、もちろん。って、そんな喜ぶことかよ」
だって! だって!
テスト前の勉強会なんて、リア充の友達がいる奴にしか、なし得ない特別イベントだぞ!ただの憂鬱なテスト勉強が、友達が居るだけで楽しくて賑やかなものになるんだ。それが教えられる側でも教える側でも一緒だ。「こんなのも分かんないのかよ」とか「ここはこう解くんだぜ」なんて軽口やアドバイスを言い合いながら進めるテスト勉強は、一人寂しく一夜漬けするのと違い、どれだけ楽しいものだろうか。
「僕、勉強会なんて初めてだよ! ありがとう黒瀬くん!」
満面の笑みでそう伝えると、眩しいものを見るような顔をした黒瀬が優しく微笑んだ。うあああ、久しぶりに見た。黒瀬のこの笑顔。やっぱ破壊力すげえなぁ……。
男相手だというのにドキドキしてしまう胸を抑えながら、平常心を装っているけど顔は赤くなっていないだろうか。
自然と泳いでしまう視線に気付いているのか、いないのか。黒瀬は俺の頭にポンと手を置くと、何でもないことのように言葉を発する。
「じゃあ来週、よろしくな」
「っ、うん!」
「よし。飯も食ったし、そろそろ行くか。俺はともかく、乙成は実行委員だからサボるわけにもいかないだろ?」
「いやいやっ、黒瀬くんもサボっちゃ駄目だからね?! 一緒に戻りたいけど……午後の部開始前に集まりがあったはずだから、ちょっと寄ってから行くね」
携帯で時間を確認すれば、まだ少し余裕があったが早めに行っておくに越したことはないだろう。居心地の良い場所だったので戻るのが惜しいくらいだが、重い腰を上げて立ちあがる。
「あ、そうだ」
二人になった時に言おうと思っていたことを思い出した俺は、念のため周りに他の人がいないかを確認した後、少し高い位置にある黒瀬の耳元に唇を寄せた。
「ほんとは敵同士だから大きな声じゃ言えないけど……黒瀬くんも頑張ってね。僕、内緒で黒瀬くんのこと応援してるから」
誰が聞いているわけでもなかったが、囁くようにそう告げた。すると、若干肩を揺らしたように見えた黒瀬が、俺の手首を掴んでそのまま身体を抱き締めてきた。
「わっ、く、黒瀬くん……⁈」
「……今のは、お前が悪いよな?」
「え⁈ 嘘、僕なにかした⁈」
明らかに不機嫌そうな声が耳元で響く。えっ、何でいきなり怒ってんの?! さっきまであんなにご機嫌だったのに!!!
「いいから。キスしていいって言え。言わないと絶交だぞ」
「えぇっ、な、なんで……!」
そしてさらに意味の分からない要望をぶつけられた俺は、とにかく離れようと藻搔いてみるが、まぁいつもの通り抜け出せるわけないですよね。うん、わかってた……。
何度理由を聞いても「いいからキスさせろ」としか言わない黒瀬に、とうとう俺が根負けすると、せっかく落ち着きを見せていた身体に、再び火を付けるには十分なほど濃厚なディープキスをかまされて、俺はふらふらな足取りで逃げるようにその場を去るのだった。
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