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6月
それってもしかして……
しおりを挟むそして今は昼食の時間。今朝中途半端に話を終えて別れた後、俺は黒瀬に携帯で連絡を入れた。もちろん浅黄には内緒で待ち合わせ場所を決め、今はそこに向かっている最中だった。
問題の浅黄はというと、リレーの練習が終わった後は別学年の女子生徒に取り囲まれ、差し入れやら応援やらされてデレデレしていた。いや、実際には困っていたのかもしれないし、こちらに救いを求めるような視線を投げていたような気がしないでもなかったが、女の子にちやほやされるなんて天国に他ならないだろ!俺はそんな贅沢な悩みを、本当の悩みとは認めない!
自分でなんとかしろとばかりに完全無視を決め込んだ結果、こうして無事一人で黒瀬との待ち合わせ場所に到着することができたのだ。
決してキスマークのことを根に持っているわけではないぞ。
「悪い。待たせたな」
「黒瀬くん! 僕も今来たところだよ」
「それならよかった。あっちに俺がいつも使ってる穴場スポットがあるんだ。そこで食おうぜ」
「うん。僕、選手でもないのに、お腹すいちゃった」
黒瀬の後についてしばらく歩いていると、生い茂る木々を潜り抜けたところに、ぽっかりと広場のようになったスペースがあった。広い校内の中でそこだけは他に人気もなく、まるで静かな森の中にいるかのように思わせた。
「へぇ……こんなところがあったんだ」
「いいだろ? 今のところ他の奴と鉢合わせたこともないし、俺の気に入ってるサボり専用スポット」
「ふふ。ここは良い場所だけど、サボっちゃだめだよ」
「あー、まぁそれは置いといて。ほら飯食おうぜ」
自分で言い出した癖に、俺がサボりについて言及するとバツの悪そうに頭を掻きながら、黒瀬は話をすり替えた。こちらとしても別にそんな強く注意をするようなことでもないし、腹が減っているのは本当だったので小さく笑って頷く。
「おっさんが乙成にも食わせろって、朝から張り切って作ったんだよ。少しでもいいから食ってやって」
「わぁーっ、これ克さんが作ったの? すごい!」
黒瀬が手提げから出してきたのは、ずいぶんと大きな弁当箱だった。
まるでお重のような立派な物。一段目は丸々と大きなオムライスだけで満たされているところは克さんらしい。そのかわり二段目には唐揚げやポテトフライ、彩り豊かな野菜たちに様々な手が加えられたオカズ達がギッシリと敷き詰められていた。
「すごいねっ! オムライスしか作れないなんて冗談だったんだ」
「まぁ味は保証できないけどな。自分の弁当もあるだろうし、無理しない程度でいいから」
「うん、ありがとう。あっ黒瀬くんも良かったら、僕のお弁当から好きな物食べてね」
「いいのか? めちゃくちゃ旨そう」
あれが旨い。これが美味しいね。なんて二人で言いながら互いの弁当を突いていると、ふと黒瀬が思い出した様に午前中の競技について話題を振ってきた。
「そういや借り物・借り人競走では、随分目立ってたな」
「えっ、うそ。黒瀬くんも見てたの? 恥ずかしいなぁ……」
「そりゃ、あんな盛り上がってたらなぁ」
あれから競技が終わった後も、しばらくは遠巻きに見られている様な視線を感じていたが、この昼休憩までとにかく無心になることでやり過ごし、応援席の隅っこで縮こまっていたのだ。
ある意味俺にとっては不名誉な称号ではあったが、やはり校内の人気者に選ばれた相手だというのが大きかったのだろう。特に女子から向けられているはずな嫉妬混じりの視線が怖すぎて、一切周りを見ることが出来なかったくらいだ。まぁ、ちゃんと見れていないから、もしかしたら俺の被害妄想に過ぎないかもしれないがな。
「しばらくバイトも来なかったし。少し見ないうちに新しい男引っかけてるとは」
「ちょっ、黒瀬くんっ! 引っかけるとか、言い方が酷いよっ」
とんでもない言い草に憤慨して、思わず大きな声を出してしまう。
俺は好きこのんで青島と実行委員のペアになったわけではないぞ! そりゃあ、毎度の如くあわよくば青島ファンの女子と仲良くなれないかな……と思ったり、モテる身体をつくるために筋トレを手伝わせたりしてますけど⁈
それだって青島の都合に合わせて、出来る時だけお願いしているんだから、そんな悪女みたいな言い方をされるのは心外だ。
そう思って俺がプリプリしていると、黒瀬はハァ……と小さくため息を吐いた。
「……悪い。俺、ちょっと妬いてるみたいだ」
「えっ……?」
やく……、ヤク……、焼く……。
まさか、『妬く』か……⁈
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