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6月
おそろいだね!
しおりを挟むあの時思わず大きな声を張り上げてしまった自分を全力で後悔しながら、場違いにも男の身分でこの場に連れ出されてしまった事実に、急激な恥ずかしさがこみ上げてくる。
ジャッジ担当の生徒にまじまじと見つめられ、すでに赤くなっていた顔はもう限界だった。涙目になりながらも、どうにか見られないように隠したくて、縋るように青島の肩口に顔を埋めてしまう。
「ぅっ……も、無理ぃ……っ!」
「っ……乙成……」
皆が「あいつ男のくせに」って呆れてる気がする……。
俺が恥ずかしさに顔を伏せると同時に、何故か今日一番の歓声が湧き上がった。なんだ、また誰かゴールしたのか?青島より歓声が上がるなんて相当な人気者なんだな。
『ジャッジの判定は……丸、丸、丸! 文句なしの全員合格で、青島さんは一位確定です! さぁ次に二位で到着したのは~……』
「ほら。大丈夫だったろ?」
「うう……っ、そ、それはそれで、複雑というか……」
実況の声が次にゴールした生徒に向かったため、勝負を見守る生徒たちの関心もそちらへと向いていた。俺はホッと一息ついて地面に足を付けると、少しだけむっとした表情で青島を見つめる。
「青島くんたら、ああいうお題は女子生徒を選ばなくちゃ。男子校でもないんだし笑いを取るとしても、もう少し時と場合を考えて……」
「でも、乙成以外考えられなかったから」
「えっ……」
思っていた以上に真剣な顔をした青島に、そう返されて俺は言葉が詰まってしまう。
え、何こいつ。もしかして……
もしかして俺と同じで友達いないのか⁈
なんだよ。野球部のエース様だから友達たくさん、女子ファンも食い放題のうはうは生活してるって勝手に勘違いしてたけど……実はモテないのか?
そう思ったらなんだか、今まで以上に親近感が湧いてきてしまった。たしかに普段から口数も少ないしな。俺とは体育祭準備でしばらく一緒にいることが多かったから、比較的話してくれるようになったし慣れてくれたのかも。それなのに慣れた俺じゃなくて他の奴を選べなんて、さらに女子をだなんて、コミュ症にはハードル高すぎたよな。ごめん。
とはいえ、俺にも男としてのプライドがあるんだからな? それだけはしっかりと伝えておかなければ。
「それなら……いいけど。でも、あまり他の人がいる前で、か、可愛い、なんて言われると恥ずかしいから……」
「それって、二人きりならいいのか⁈」
「えっ? う、うん……秘密ね……?」
何なに? めちゃくちゃ前のめりなんだけど、そんなに誰かに可愛いって言いたくなるもの?
あ、それかアレか?赤塚と同じで、まず男の俺で練習して免疫つけたいっていうタイプ?意外と多いんだな、そういうやつ。
そんなことを考えていたら、感極まったような青島にガシッと抱き込まれた。
「っ、ありがとう……! 乙成、好きだ……!」
「ひぁ……っ! だからそういうのは人がいない時にしてってばぁ……!」
未だここはグラウンドの真ん中で。次々と到着するランナーに生徒の目が向いているとはいえ、周りにいる人たちからの、ちらちらと窺うような視線が痛すぎる。
ぎゅうぎゅうと締め付けられる腕から逃れようと、俺がそう言って必死でもがけば、最近見た中で一番の笑みを浮かべた青島が目の前にいた。
「そうだな。またゆっくり、聞いてくれ」
「う、うん……? また、ね?」
そんなにゆっくり聞くような内容か? とも思ったが、嬉しそうに笑う青島を見たらそんな突っ込みは入れることが出来なかった。
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