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6月
体育祭、スタートです!
しおりを挟むついに始まった体育祭。
あちらこちらで声援が飛び交っている中、俺は一人応援席に座っていた。
あの後浅黄はリレーの練習があるとかで、陸上部の奴らに引っ張って行かれた。最後まで行きたくないと駄々をこねていたがキスマークにご立腹の俺は、にっこり笑顔で闘志に燃えるチームメイトに浅黄を押しつけてここまで来たのだ。
クラス毎に座る場所は決まっているものの、いつもの通り俺の周りには誰も座らずガランとしている。
(い、いいんだ……。密集してなくて風が通るし。寂しくなんてないもんね……)
心の中でやせ我慢を呟いて、目の前で繰り広げられている競技に集中すると、どうやら今は『借り物・借り人競走』の始まったところらしかった。
一際きゃーきゃーと黄色い歓声が湧き上がっている方を見てみれば、ここ数日で見慣れた長身に気が付いた。
「あっ! 青島くーん、頑張ってー!」
残念ながら敵対チームではあるのだが、友人を応援することくらいは許されるだろう。俺がそう思って手を振りながら声を張り上げると、小さな紙を眉を寄せて眺めていた青島が顔を上げた。そのまま笑顔で頑張れと叫んでいると、何故だか青島はそのままこちらへと駆け寄ってくるではないか。
「えっ、えっ⁈ 青島くん、今競走の真っ最中なんじゃ……」
「乙成ちょっと来てくれ」
「あ、わぁっ……!」
ぐいっと力強く腕を引かれたと思うと、そのままふらつく身体を抱き上げられた。小脇に抱えられても、担がれても困るが、これはなんというか。いわゆるお姫様抱っこというやつで。
「あ、青島くんっ! これ恥ずかしい……っ」
「悪い、これが一番速いから……!」
運動部の意地をかけても、残念な順位になりたくないのだろう。俺を抱き上げながらコースを走り抜ける青島の顔は真剣そのもので。目立ってやろうぜーという気持ちとか、俺をからかっているなんていうことも一切なく、ただ純粋に勝利のみを目指していた。
俺も男だ。勝負に負けたくないという気持ちは痛いほどよく分かる。
しかし、ほぼ全校生徒が見守る中のお姫様抱っこなんて、どんな羞恥プレイなの? いくら青島が勝つためとはいえ、違うチームの勝利のために俺が失うものが大きすぎるぞ……!
俺は赤くなっている顔を隠すように両手で覆い、早くこの時間が終わってくれるのをひたすらに待った。
『一位は2-D青島さん! 野球部の絶対的エースがぶっちぎりのスピードで到着です!』
スピーカーからそんな実況が聞こえてきて、青島が無事一位を取ったことを知る。
「あ、青島くんおめでとう……」
「ああ。協力してくれてありがとう」
周囲を見ることができず、目の前にある青島の喉仏をじっと見つめる俺に、珍しく嬉しそうに弾んだ声で青島が礼を言って来た。
恥はかいたが、友達がこんなに喜んでいるんだからまぁいいか。
俺がそんなことを考えていると、ワイヤレスマイクを持った放送係が近づいてくる。そして、青島が俺を抱え上げながら握り締めていた小さい紙を受け取り、それを高々と掲げたではないか。
『はい! それでは早く到着した順に、どんな借り物・借り人のお題だったのかをチェックしていきます。ジャッジ担当の三名の内、少なくとも二名が丸を上げないと、残念ながらその選手は失格となります!』
「えっ、ええ⁈ そんなルールがあるの⁈」
どんなお題だったのか分からないままに連れてこられてしまったが、もしかしたら俺が原因で失格なんてこともあり得るのでは?
そんなことになっては、青島のファンに刺し殺されるのではと、真っ青になって俺を抱き上げたままの青島を仰ぎ見るが、全く心配などしていない様子でいつも通り堂々とした態度で前を向いていた。
「大丈夫。絶対合格だ」
「ほ、ほんと……?」
『さて、青島さんのお題は……んん? おおっと、これは……!』
思わせぶりな実況の声に周囲が騒めく。一体どんなことが書かれているのかと、俺も息を飲んでその発表を待っていると……―――
『お題は"可愛い人"! さぁ、その判定は⁈』
「へぁ……⁈」
マイクを通して聞こえた内容に、俺は耳を疑った。
か、可愛い人⁈
青島は俺のことを可愛いと思っていたのか⁈
たしかに乙成くんの顔面はびっくりするくらい可愛いし、そこら辺の売れてないアイドルより断然整っている。そう思えばあながち間違いではないと思うんだが、ここは普通好きな女の子を連れて来て、甘い雰囲気になったりするような、そんな場面を見守るイベントだったのでは?
や、やってしまったーーー!!!!!(泣)
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