乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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6月

side 青島-2

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 それから1年間、優太きゅんのことは陰ながらずっと見守り続けていた。
 残念ながら同じクラスになることは叶わなかったので、移動教室で廊下を歩いている時や、体育の授業でグラウンドを走っている姿、俺の朝練中に登校してくる少し眠そうな横顔など、拝めるものはとことん拝みつくしたはずだ。
 意図して目で追ってしまうために、たまに雄太きゅんと目が合ってしまう時もあったのだが、基本的にファンは、アイドルの影。決して目立つことはせず、極力存在を消して推しを愛で、全力で応援するというのが俺のスタイルだった。もちろん推しが俺の力を必要とした時には、全力でサポートするけどな!CDの売り上げ貢献とか!

 そうやってある一定の距離を保ち続けていたはずなのに。
 今年の体育祭実行委員選ばれた俺は、嬉しいような、ちょっと困るような事件に見舞われることになったのだ。



「……という訳で、今日は二人ずつのペアになって進めてもらうからな。組み合わせはこちらで名簿順で決めているから、それに従ってくれ。まず、青島と乙成。お前たちは体育倉庫で備品の確認を頼む」


 え……マ?
 そマ???????

 まさかの名前順。そしてまさかの優太きゅんとペア!?
 いや、めちゃくちゃ嬉しいけど。推しと1つの目標に向かって頑張るとか、ファンだったら一度は夢見るシチュだけど。ぜんぜん心の準備出来てないし、突然そんなこと言われても困るって先生!!!

 心の中はまるで嵐のように荒れまくっていたけど、多分俺の表情は変わっていない、はず。如何なる時も平静さを失わず、淡々と推しを愛でるために俺は表情筋を殺すことに成功したのだから。
 だって毎回自分のこと見てハァハァしている奴がいたら、誰でもキモイって思うだろ?優太きゅんに蔑むような目で見られてしまった日には……死をも辞さない覚悟がある。


 そんなことを考えて、一瞬現実逃避をしていると、天使が一生懸命体育教師に話を聞いてくれていた。いけない、いけない。俺もちゃんと聞いて、優太きゅんが困らないようにしっかり働かなければ。
 体育教師から渡されたリストを、じっと見ながら確認している優太きゅん。あ~その俯いた時に見えるつむじすら愛しいってどういうこと?マジで神の創りたもうた奇跡……。

 穴が開くかというほど見つめていたら、優太きゅんがこちらを向いて……俺をその瞳に映した。


「青島くん。えっと、よろしくね?」


 ぎゃーーーー!
 死ぬの?俺、今日が命日なの?
 普通に生きてて、こんな幸せなことってある??

 優太きゅんの殺人級スマイルが俺のために、俺だけのために向けられる。それだけで胸がギュンギュンに痛くなり、命からがら「……よろしく」とだけなんとか返事をすることが出来た。

 多分めちゃくちゃ無愛想だと思われたはずなのに、そんな俺にも推しは優しいのだ。

「これ、リスト預かったよ。沢山あるけど頑張ろうね」
「ああ」

 ああ、もう本当に死んでもいい。
 むしろ今から向かう体育倉庫で、生き埋めになりたい。そこを俺の墓標にしてくれないだろうか。優太きゅんとの思い出の地に、俺は墓を立てるんだ……。

 それから行う作業はとても単純なもので。俺と優太きゅんは、役割分担をしてそれぞれ黙々と進めていく。本当だったら体育倉庫の入り口も締め切ってしまって、密室の中で優太きゅんの吐き出す二酸化炭素を吸って作業したい。少し蒸し暑いような倉庫内で動き回っている優太きゅんは、しっとり汗ばんでいてとても艶かしい。それでも近くを通るだけでお花みたいな匂いがするんだけど、妖精さんなのかな?

 陰ながら応援するスタイルと自負している俺だって、こんなチャンスがあるのであれば、思う存分推しを全身で感じたいに決まっている。信じられないくらい幸せな状況をかみ締めながら、少しでもこの時間を引き延ばそうと、怪しまれない程度にゆっくりと備品のチェックを進めていった。

「あ、青島くん、野球部の練習もあるのに実行委員なんて大変だね?」

 黙って作業するのが気まずかったのだろうか。優太きゅんは頑張って俺との話題を探してくれているようなのだが……推しが俺の部活を知っている、だと!?
 名前を覚えていてくれたことすら感動していたというのに、まさかそんなことまで覚えてくれているだなんて……俺、野球頑張ってて良かったなぁ……!

「……ああ。でも、毎年部から2年が数人出ることに決まっているんだ」
「そうなんだぁ。そういうのって、1年生とかが任されるものなんだと思ってた」
「1年は進学・入学したばかりのやつが多いから。まずは行事を全力で楽しめって方針らしい」
「へぇ~、なんだか優しい方針だね。素敵だなぁ」

 そう言ってニコニコしている優太きゅん。
 いや素敵なの、君の方だからね????

 心の中の俺のツッコミが止まることを知らない中、突然優太きゅんが大きな声を出す。

「あっ、ボールペンが……!」

 どうやら持っていたボールペンを落としてしまったらしい。心配して声をかけると、大丈夫だと言ってボールペンが転がった先を覗き込むように、地面へと這いつくばっているのだが……。


 ゆ、優太きゅん!!
 そのポーズ、めちゃくちゃ卑猥です!!!



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