87 / 162
6月
side 青島-2
しおりを挟むそれから1年間、優太きゅんのことは陰ながらずっと見守り続けていた。
残念ながら同じクラスになることは叶わなかったので、移動教室で廊下を歩いている時や、体育の授業でグラウンドを走っている姿、俺の朝練中に登校してくる少し眠そうな横顔など、拝めるものはとことん拝みつくしたはずだ。
意図して目で追ってしまうために、たまに雄太きゅんと目が合ってしまう時もあったのだが、基本的にファンは、アイドルの影。決して目立つことはせず、極力存在を消して推しを愛で、全力で応援するというのが俺のスタイルだった。もちろん推しが俺の力を必要とした時には、全力でサポートするけどな!CDの売り上げ貢献とか!
そうやってある一定の距離を保ち続けていたはずなのに。
今年の体育祭実行委員選ばれた俺は、嬉しいような、ちょっと困るような事件に見舞われることになったのだ。
「……という訳で、今日は二人ずつのペアになって進めてもらうからな。組み合わせはこちらで名簿順で決めているから、それに従ってくれ。まず、青島と乙成。お前たちは体育倉庫で備品の確認を頼む」
え……マ?
そマ???????
まさかの名前順。そしてまさかの優太きゅんとペア!?
いや、めちゃくちゃ嬉しいけど。推しと1つの目標に向かって頑張るとか、ファンだったら一度は夢見るシチュだけど。ぜんぜん心の準備出来てないし、突然そんなこと言われても困るって先生!!!
心の中はまるで嵐のように荒れまくっていたけど、多分俺の表情は変わっていない、はず。如何なる時も平静さを失わず、淡々と推しを愛でるために俺は表情筋を殺すことに成功したのだから。
だって毎回自分のこと見てハァハァしている奴がいたら、誰でもキモイって思うだろ?優太きゅんに蔑むような目で見られてしまった日には……死をも辞さない覚悟がある。
そんなことを考えて、一瞬現実逃避をしていると、天使が一生懸命体育教師に話を聞いてくれていた。いけない、いけない。俺もちゃんと聞いて、優太きゅんが困らないようにしっかり働かなければ。
体育教師から渡されたリストを、じっと見ながら確認している優太きゅん。あ~その俯いた時に見えるつむじすら愛しいってどういうこと?マジで神の創りたもうた奇跡……。
穴が開くかというほど見つめていたら、優太きゅんがこちらを向いて……俺をその瞳に映した。
「青島くん。えっと、よろしくね?」
ぎゃーーーー!
死ぬの?俺、今日が命日なの?
普通に生きてて、こんな幸せなことってある??
優太きゅんの殺人級スマイルが俺のために、俺だけのために向けられる。それだけで胸がギュンギュンに痛くなり、命からがら「……よろしく」とだけなんとか返事をすることが出来た。
多分めちゃくちゃ無愛想だと思われたはずなのに、そんな俺にも推しは優しいのだ。
「これ、リスト預かったよ。沢山あるけど頑張ろうね」
「ああ」
ああ、もう本当に死んでもいい。
むしろ今から向かう体育倉庫で、生き埋めになりたい。そこを俺の墓標にしてくれないだろうか。優太きゅんとの思い出の地に、俺は墓を立てるんだ……。
それから行う作業はとても単純なもので。俺と優太きゅんは、役割分担をしてそれぞれ黙々と進めていく。本当だったら体育倉庫の入り口も締め切ってしまって、密室の中で優太きゅんの吐き出す二酸化炭素を吸って作業したい。少し蒸し暑いような倉庫内で動き回っている優太きゅんは、しっとり汗ばんでいてとても艶かしい。それでも近くを通るだけでお花みたいな匂いがするんだけど、妖精さんなのかな?
陰ながら応援するスタイルと自負している俺だって、こんなチャンスがあるのであれば、思う存分推しを全身で感じたいに決まっている。信じられないくらい幸せな状況をかみ締めながら、少しでもこの時間を引き延ばそうと、怪しまれない程度にゆっくりと備品のチェックを進めていった。
「あ、青島くん、野球部の練習もあるのに実行委員なんて大変だね?」
黙って作業するのが気まずかったのだろうか。優太きゅんは頑張って俺との話題を探してくれているようなのだが……推しが俺の部活を知っている、だと!?
名前を覚えていてくれたことすら感動していたというのに、まさかそんなことまで覚えてくれているだなんて……俺、野球頑張ってて良かったなぁ……!
「……ああ。でも、毎年部から2年が数人出ることに決まっているんだ」
「そうなんだぁ。そういうのって、1年生とかが任されるものなんだと思ってた」
「1年は進学・入学したばかりのやつが多いから。まずは行事を全力で楽しめって方針らしい」
「へぇ~、なんだか優しい方針だね。素敵だなぁ」
そう言ってニコニコしている優太きゅん。
いや素敵なの、君の方だからね????
心の中の俺のツッコミが止まることを知らない中、突然優太きゅんが大きな声を出す。
「あっ、ボールペンが……!」
どうやら持っていたボールペンを落としてしまったらしい。心配して声をかけると、大丈夫だと言ってボールペンが転がった先を覗き込むように、地面へと這いつくばっているのだが……。
ゆ、優太きゅん!!
そのポーズ、めちゃくちゃ卑猥です!!!
1
お気に入りに追加
1,347
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。
丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。
イケメン青年×オッサン。
リクエストをくださった棗様に捧げます!
【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。
楽しいリクエストをありがとうございました!
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる