乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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6月

体育祭の前に。

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 さてと。
 着替えを終えてグラウンドへと向かう道すがら、俺は見慣れた後ろ姿を見つける。朝からヘビーな話を聞かされてげっそりしていた俺だが、実行委員として準備を進めた体育祭なのだ。盛り上がっていこう!と、テンションを上げていく。

「黒瀬くん! おはよう」
「乙成、はよ。元気だな」

 そう言って振り返った黒瀬は相変わらずイケメンだった。

 おー、おー、優しい顔で微笑んでくれちゃってまぁ。周りの女子がキャーキャー言ってるぞ? あっ! あそこにいるのは今年のミス候補と噂されている美少女ではないか⁈ あー、めちゃくちゃ可愛い……でも黒瀬のこと見てうっとりしてるじゃん……。
 憧れの女子の恋する顔を目の当たりにしてしまい、無理にあげたテンションも急降下だ。なんとも物悲しい気持ちになっていると、いきなり黒瀬に髪をかき混ぜられた。

「わっ……⁈」
「何泣きそうな顔してんだよ」
「え、僕、そんな顔してたかな?」

 泣きそうな顔だなんて、全く自覚がなかった。自分の頬をむにむにと揉みながら首を傾げると、苦笑いした黒瀬に頷かれる。
 うーん、なるほどなぁ。完全に無自覚だったけど、乙成くん黙っていると本当にお人形さんみたいな可愛い顔だし、俺が昔の感覚でしてる表情も案外違ってる風に見えるのかな?

 俺が唸りながら考えていると、まるでその場の空気を変えるように黒瀬が別の話題を振ってきた。

「そういえば。今日の昼飯って持ってきてるか?」
「え? うん、お弁当があるけど……」
「だよな。あのさ、出来たら一緒に食べられないか?実は……」

「あー! 黒瀬ってめぇ、なに優ちゃんにちょっかいかけてんだよ!」

 黒瀬が何かを言いかけたところで、唐突に浅黄のでかい声がそれを遮る。
 正直ちょっかいというほどの事はされていないし、寧ろ声かけたのも俺からだったし……今こうして背後からガバリと抱きついてきているお前の方が盛大にちょっかいかけてる感じがするんだけど、そこんとこどうなの?

「体育祭は縦割りだからな。クラスの違うお前は敵。近寄らないでくださーい!」
「もうっ浅黄くん、子どもじゃないんだから……」

 初めて会った時以降、黒瀬を目の敵にしているらしい浅黄は、事あるごとにこんな風に噛み付いている。それに対して黒瀬はいつも「ハイハイ」という感じで流しているので、浅黄の一方的なライバル視って感じだけどな。
 このままでは浅黄がヒートアップしそうだったので、面倒なことになる前にやんや言い続ける背中を押してその場を去ることにしよう。

「ほら、もう行こう? ね?」
「優ちゃん、俺、絶っっ対、C組には負けないからね!」
「うんうん。頑張ろうね~」

 そこでふと先ほど黒瀬が言いかけていた言葉を思い出す。確か昼飯を一緒に食べようって話だったよな? 特に誰と約束しているわけでもないし、昼飯くらい良いよな。

「黒瀬くん。さっきの話、大丈夫だから! またあとで連絡するね」
「……さんきゅ」

 ホッとしたように黒瀬が微笑んだ。理由はよく分からないけど嬉しそうでなによりだ。
 手を振りながら黒瀬と別れ、引き続き浅黄の背中をぐいぐいと押して歩いていると、ぶすくれた浅黄が振り返って口を尖らせてみせる。

「ねぇ優ちゃん。黒瀬に言ってた『さっきの話』ってなんのこと?」
「もう。浅黄くん意味もなく怒るから、内緒だよ」

 そう言ってぷいっと顔をそっぽへ向けると、浅黄は「そんな~」と情けない声を出しながら再び抱きついてくるのだった。やめてくれ。

「あ、そうだ。僕ちょっと体育倉庫に行ってくるね」

うっとうしい腕を払い退けながら、黒瀬と会う前に体育教師に頼まれ事をしていたことを思い出す。

「実行委員の仕事かなにか?」
「うん。始まる前に運んでおいてって言われてたんだ」
「ふーん、そしたら俺も一緒に行って手伝うよ」
「本当? ごめんね、助かるよ~」

 先ほど体育教師に呼び止められてお願いされたものは、在庫確認の際に見ていた用具だった。恐らく場所はすぐに分かるとは思うのだが、どれくらいの量があったか定かではない。大量にあったら骨が折れるなぁと思っていたところだったので、浅黄の申し出をありがたく受けることにする。
 二人で校舎の奥まったところに建てられた体育倉庫へと向かっていると、後方から元気な声が聞こえてきた。

「せんぱーい! こんなところにいたんですか? 探しちゃいましたよ~」

「あれ、赤塚くんどうかした?」
「俺1-Bなんで、縦割りだと先輩と同じチームなんです! だから、先輩のためにも頑張りますね~♡ たくさんたくさん応援してください!」
「わぁっ、ふふ。うん、頑張ってね!」

 タタタッと駆けてきた赤塚は、いつも通り大型犬のような懐っこさで俺に擦り寄る。ぐりぐりと頭を擦り付けられると、揺れる髪の毛が擽ったい。
 思わず笑みを零して可愛い後輩を応援していると、浅黄が俺たちの身体をベリっと引き剥がした。

「……っと、あぁ。浅黄先輩もいらっしゃったんですか」
「何? 俺のこと知ってるんだ」



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