84 / 162
6月
青島くんにお願い♡
しおりを挟む尤もらしい理由を並べ立てて、青島に懇願する。明らかに困惑した表情を見せてはいるが、コレはあともう一押しだぞ。
よしっ、くらえ!
必殺・乙成くんのお願いポーズ!
「ダメ、かな……?」
計算ずくの角度で小首を傾げながら、うるうるの瞳で青島を見上げる。うっ、と息を呑んだ青島は、小さくため息を吐くと、ダンボールを置いて俺の前に向き合ってくれた。
「そういう、ことなら……」
「わぁ! ありがとう~♡」
渋々といった感じで見せてくれた腹筋は、見事なシックスパックだった。これぞアスリートといった感じの、無駄のない完璧な筋肉。ボディビルダーの様にゴリゴリなわけではないが、程よく引き締まって肉の付いた身体は、同じ男から見ても格好がいいと思えるものだった。
あまりの造形美に、じろじろ舐めるように間近で見ていると、サッとジャージで隠されてしまった。
「も、もう良いか?」
「あっ、ごめんね……!」
若干赤くなったその頬に、やり過ぎてしまったかもしれないと少し反省する。近くで眺めすぎて、もしかして変態だと思われただろうか。
たしかに、一方的に見せてもらうだけなのは良くないよな。こちらも見せて、お互い様感を演出しよう、そうしよう!
そう思った俺は、すでに散々情けないところも見られているし、昨日も既に一度見せているのだ。安易に晒すなと言われた貧相な身体ではあるが、思い切って青島の面前で披露することにした。
「ほら見て。僕もおうちで筋トレはしてるんだけど、全然でしょ?」
がばりとジャージを捲り上げて青島の方に向けると、何故だか青島がびくりと全身を硬直させる。え、そんな固まっちゃうほどやばい身体してるわけ?俺って……。
「筋肉付かないの、何か理由があるのかなぁ?」
「……筋トレは……バランスだから。腹筋を鍛えたいなら背筋も必要だし、正しいやり方でないと、効果が薄い」
「そっかぁ」
正直、俺はそういう知識が皆無だからなぁ。
だからといって活字を読むと眠くなるから、専門書を読んだりするのは苦手だし。どんなトレーニングが自分に合っているかも、一人で判断するのは難しいのだ。
「……ねぇ、僕、青島くんにお願いがあるんだけど……」
何かを考えるかの様に、俺のぺらっぺらの腹部へ視線を落としたままの青島に、わずかに手応えを感じながら、ふと思い付いたお願いを口にしてみることにした。
「んっ、はぁっ、……ぁっ!」
「……そう。上手だ」
「ぅ、んンッ……もぉ、駄目、だよぉ……っ」
「まだ。我慢して」
「無理っ無理ぃ……我慢できなぃ~~」
そう言って俺は、必死に持ち上げていた背中を、床にべったりと付けて寝そべった。息は完全に上がってしまい、はぁはぁと荒い呼吸が止まらない。
「……っあーー! 背中ついちゃったぁ……」
「初めてにしては、よく頑張ったな」
「もう腹筋ぷるぷるしてるよ~……」
俺はこの度、青島を自身のパーソナルトレーナーと任命することに決め、俺に合ったトレーニングを手取り足取り教えてもらうことにしたのだ。もちろん青島が専門ではないことは理解しているので、どちらかというと「青島の知っているトレーニングで俺に出来そうなやつを少しずつ教えてくんない?」という感じだ。
まずは基本ということで、今は腹筋のやり方を教えてもらっていた最中だ。今までは、一回一回背中を床につけてやっていたのだが、床に付くか付かないかのギリギリで止める方が、より効果があるらしいというのでそれを実践していた。
「これで、次は背筋をするの?」
「ああ。そうだな」
「うつ伏せになればいいんだよね」
腹筋を鍛えるなら背筋も、という言葉を忠実に再現するべく、俺は汚れるのも気にせずに、そのまま床でうつ伏せになる。
さて、次はどうしたらいいのかな?と、青島の言葉を待つのだが、いつまで経っても動きがないので、不思議に思ってそのまま後ろを振り返り声をかけた。
「青島くん?」
「あ、悪い」
はっと意識を取り戻した青島は、勢いよく俺の太ももを掴むと、説明を始めてくれた。青島ってたまに何かをすごい考え込んでる時があるんだよなぁ。そういう時って何を考えてるんだろう?
「一人の時はそのままでも良いんだが……二人いる時は押さえてもらう方が、変なところに力が入らなくていい」
「んっ、たしかに。一人だと足を上げないように意識しちゃうかも」
グッと足の付け根あたりを押さえ込まれて、固定される。そうすると背筋で起き上がろうとする時に、しっかりと背中にだけ意識を向けることが出来る気がした。
「腹筋と同じ回数をする必要があるから、初めは苦手な方に合わせた方がいいな」
「うっ、ん、んーーっはぁ……、疲れる……」
「ふ。無理しない程度に続けるのが一番だ」
「そうだよね。ありがとう、青島くん~」
10回を終えて力尽きた俺は、そのままぐにゃりと床に倒れ込んでしまった。息絶え絶えな俺の姿を見て、軽く吐息で笑った青島は、腰の辺りを優しく叩いてくれる。
11
お気に入りに追加
1,335
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる