乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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6月

青島くんにお願い♡

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 尤もらしい理由を並べ立てて、青島に懇願する。明らかに困惑した表情を見せてはいるが、コレはあともう一押しだぞ。

 よしっ、くらえ!
 必殺・乙成くんのお願いポーズ!


「ダメ、かな……?」


 計算ずくの角度で小首を傾げながら、うるうるの瞳で青島を見上げる。うっ、と息を呑んだ青島は、小さくため息を吐くと、ダンボールを置いて俺の前に向き合ってくれた。

「そういう、ことなら……」
「わぁ! ありがとう~♡」

 渋々といった感じで見せてくれた腹筋は、見事なシックスパックだった。これぞアスリートといった感じの、無駄のない完璧な筋肉。ボディビルダーの様にゴリゴリなわけではないが、程よく引き締まって肉の付いた身体は、同じ男から見ても格好がいいと思えるものだった。

 あまりの造形美に、じろじろ舐めるように間近で見ていると、サッとジャージで隠されてしまった。

「も、もう良いか?」
「あっ、ごめんね……!」

 若干赤くなったその頬に、やり過ぎてしまったかもしれないと少し反省する。近くで眺めすぎて、もしかして変態だと思われただろうか。
 たしかに、一方的に見せてもらうだけなのは良くないよな。こちらも見せて、お互い様感を演出しよう、そうしよう!

 そう思った俺は、すでに散々情けないところも見られているし、昨日も既に一度見せているのだ。安易に晒すなと言われた貧相な身体ではあるが、思い切って青島の面前で披露することにした。

「ほら見て。僕もおうちで筋トレはしてるんだけど、全然でしょ?」

 がばりとジャージを捲り上げて青島の方に向けると、何故だか青島がびくりと全身を硬直させる。え、そんな固まっちゃうほどやばい身体してるわけ?俺って……。

「筋肉付かないの、何か理由があるのかなぁ?」
「……筋トレは……バランスだから。腹筋を鍛えたいなら背筋も必要だし、正しいやり方でないと、効果が薄い」
「そっかぁ」

 正直、俺はそういう知識が皆無だからなぁ。
 だからといって活字を読むと眠くなるから、専門書を読んだりするのは苦手だし。どんなトレーニングが自分に合っているかも、一人で判断するのは難しいのだ。

「……ねぇ、僕、青島くんにお願いがあるんだけど……」

 何かを考えるかの様に、俺のぺらっぺらの腹部へ視線を落としたままの青島に、わずかに手応えを感じながら、ふと思い付いたお願いを口にしてみることにした。

















「んっ、はぁっ、……ぁっ!」
「……そう。上手だ」
「ぅ、んンッ……もぉ、駄目、だよぉ……っ」
「まだ。我慢して」
「無理っ無理ぃ……我慢できなぃ~~」







 そう言って俺は、必死に持ち上げていた背中を、床にべったりと付けて寝そべった。息は完全に上がってしまい、はぁはぁと荒い呼吸が止まらない。

「……っあーー! 背中ついちゃったぁ……」
「初めてにしては、よく頑張ったな」
「もう腹筋ぷるぷるしてるよ~……」

 俺はこの度、青島を自身のパーソナルトレーナーと任命することに決め、俺に合ったトレーニングを手取り足取り教えてもらうことにしたのだ。もちろん青島が専門ではないことは理解しているので、どちらかというと「青島の知っているトレーニングで俺に出来そうなやつを少しずつ教えてくんない?」という感じだ。

 まずは基本ということで、今は腹筋のやり方を教えてもらっていた最中だ。今までは、一回一回背中を床につけてやっていたのだが、床に付くか付かないかのギリギリで止める方が、より効果があるらしいというのでそれを実践していた。

「これで、次は背筋をするの?」
「ああ。そうだな」
「うつ伏せになればいいんだよね」

 腹筋を鍛えるなら背筋も、という言葉を忠実に再現するべく、俺は汚れるのも気にせずに、そのまま床でうつ伏せになる。
 さて、次はどうしたらいいのかな?と、青島の言葉を待つのだが、いつまで経っても動きがないので、不思議に思ってそのまま後ろを振り返り声をかけた。

「青島くん?」
「あ、悪い」

 はっと意識を取り戻した青島は、勢いよく俺の太ももを掴むと、説明を始めてくれた。青島ってたまに何かをすごい考え込んでる時があるんだよなぁ。そういう時って何を考えてるんだろう?

「一人の時はそのままでも良いんだが……二人いる時は押さえてもらう方が、変なところに力が入らなくていい」
「んっ、たしかに。一人だと足を上げないように意識しちゃうかも」

 グッと足の付け根あたりを押さえ込まれて、固定される。そうすると背筋で起き上がろうとする時に、しっかりと背中にだけ意識を向けることが出来る気がした。

「腹筋と同じ回数をする必要があるから、初めは苦手な方に合わせた方がいいな」
「うっ、ん、んーーっはぁ……、疲れる……」
「ふ。無理しない程度に続けるのが一番だ」
「そうだよね。ありがとう、青島くん~」

 10回を終えて力尽きた俺は、そのままぐにゃりと床に倒れ込んでしまった。息絶え絶えな俺の姿を見て、軽く吐息で笑った青島は、腰の辺りを優しく叩いてくれる。



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