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6月
指導者って大事
しおりを挟む次の日の放課後。俺はさっそく、再び青島と二人きりになっていた。
「青島くん、なんかごめんね? 僕に付き合わせて……」
「いや、全然……」
今日は、昨日の作業とは違い、空き教室でゼッケンの点検中だ。
俺が前日倒れたので体育教師に心配されたのか、室内での仕事を割り振られることになった。そして今回も青島とペアである。本来は決まった人といつも一緒、というわけではないはずだが、もしかしたら事情を知ってる相手の方がいいだろうという、配慮なのかもしれない。
「昨日のことも。結局迷惑かけちゃって……保健室に運んでくれたの、青島くんだよね。リストの残りも一人でやらせて……本当にごめん」
「大丈夫だから。謝られた方が困るし、やめてくれ」
「う、うん……」
俺が青島に仕出かしたことを口にすればするほど、とんでもない事をしてしまったと反省するばかりだったが、青島は聖人なのだろうか?
一切責めるような言葉を言うことはなく、黙々と作業を進めていた。
なんというか、青島は武士って感じだよな。内面を知れば知るほど、硬派という言葉がぴったりで、余計な言葉を発することはないが、一言一言に重みがあるというか。本人が決めた信念に則って物事を判断しているような、そんな気がする。
そのブレない姿勢に、男として本気で心から格好いい奴だと思うことが出来た。
お互いに特に話題を振るでもなく、ただ手を動かすのみで、静かに時間が流れていく。最初は息苦しく感じていたこの無言の時間ですら、青島に好意を持ち始めた今となっては、余計なことを話さなくていい状況が、心地いいと感じるくらいだった。
「あ! あのね、昨日青島くんが僕の頭を冷やすのに使ってくれた体操服、今うちで洗濯してるから。明日には持って来られると思うんだけど、授業とか平気かな?」
「……乙成が持ち帰って、洗ってくれたのか?」
「厳密には洗ったのはお母さんだけどね。いろいろありがとうの気持ちだよ」
「そうか」
そう言った青島は、わずかに口角を上げたような気がして、なんだか嬉しくなる。
昨日の一件は、俺の耳には入って来なかったものの、やはり随分と噂にはなっていたようで。朝から浅黄には問い詰められて「体育祭実行委員なんて辞めろ!」と怒られるし。しばらくバイトが出来ないことを伝えに行った黒瀬には、教室の入り口で他の生徒が見ている中、まるで抱き締めるかの様な格好で後頭部を確認されるし。休み時間に飛び込んできた赤塚は、しきりに誰かに殴られたわけではないのかと、物騒な方向で心配された。
騒がしかった一日を思い返しながら、最後の一枚を確認し終えると、それぞれそのまま使える物と、手直しや新しく作り直す必要がある物に分けて、ダンボールに詰めていく。
「直さないといけないのは、これくらいかな?」
「そうだな」
「じゃあ大丈夫なやつだけ、体育教官室に運ぼっか! っわ……」
大丈夫なゼッケンが入ったダンボールを、意気揚々と持ち上げた俺は、想像以上の重さだったそれにふらついてしまう。しかし、まるでそれを予想していたかの様に、後ろに立った青島がすっぽりと抱きかかえて支えてくれた。
「ご、ごめんね。ありがとう……」
「乙成はこっちの小さいやつを運んでくれ。俺がそれを持つから」
「うん……」
もう余計なことをして迷惑をかけるわけにはいかないと、青島の言う通りに手元のダンボールを明け渡し、一回り以上小さい方を持つことにした。俺が持っただけでふらついた箱を、青島は事もなげにひょいと持ち上げると、そのまま歩き出そうとする。
「青島くんすごいね。やっぱり野球部で筋トレとかしてるの?」
その羨ましすぎる筋肉に惚れ惚れして、思わずそんな質問をしてしまった。
「え? そう、だな。雨でグラウンドが使えなかったら一日中トレーニングだし、家でも少しはしてる」
「へぇ……トレーニングかぁ」
そういえば、昨日保険医も「いい身体していた」と言っていたよな。年上の男性ですら、そうと認めるその身体を拝んでみたくなって、俺は一度ダンボールを置くと、前のめりになって青島へと近付いた。
「ねぇ、ちょっと腹筋、見せてもらえないかな?」
「え⁈」
「僕、もっと男らしくなりたいんだけど、なかなか筋肉が付かなくて……。ほらダイエットも、なりたい体型を思い浮かべながらした方が、理想に近づくって言うでしょう? 芸能人とかだと雲の上の存在過ぎて実感が湧かないから、身近にいる人を目標にした方がいいかなって思って!」
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