乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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6月

やっぱりいい奴

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 場所的にも、反応的にも、恐らくそれは勃ち上がった青島のアレで。なんでそんな状態になっているのかは分からないが、とにかく俺は直ぐにこの場から退かなければ……!

「あ、あのっ、ごめんね……! すぐ退くからっ」
「っ乙成! 急に動いたら危ない……っ」
「ぁ……っ?」

 慌てて立ち上がった瞬間。平常より薄く感じる空気のせいか、無理して箱を取り出そうと奮闘した結果か、原因のよく分からない急激な立ちくらみに襲われ膝から力が抜ける。
 そして、くらっとして倒れた先には、件のサッカーボールのカゴがあった。

 ボールペンの時といい、こいつ、絶対許さんぞ。


 ――― ガツンッ!


 大きな音が頭の中で響く。
 頭打った俺は、遠くで俺の名前を呼ぶ青島の声を聞きながら、それに応えることは出来無いままに意識を失った。




◇◇◇




 気付いたら、そこは知らない天井……なんかではなく。どうやら俺は、保健室のベッドに寝ていたみたいだった。

「いっ、たた……うわぁ、すごい大きなたんこぶ出来てる……」

 カゴに強打した場所に触れてみると、明らかに膨れ上がっており優しく撫でるだけでも痛みが走った。
 その痛みに涙目になりながらも、埃っぽくてベタついていたと思っていた顔は、なんだかスッキリしている気がする。なんでだろうと不思議に思っていると、枕元に汗拭きシートが置いてあることに気付いた。

 多分気絶した俺を、保健室まで運んでくれたのは青島のはずだ。まさか運び込んだその上で、俺の顔もこれを使って拭いてくれたとか?
 正直、謎のちんこ勃ちにはビビったが、なかなか気の利くいい奴じゃないか。むしろ神対応過ぎないだろうか。

「あ、乙成くん。目ぇ覚めた?」
「はい、すみません。お世話になりました」

 ペタペタと顔中を触って確かめていたら、保険医の先生がカーテンから顔を覗かせた。

「あれ? 青島くんはいないのかな?」
「え、はい。さっき目が覚めた時は、もういなかったですけど」
「そっか~。随分と真っ青な顔して君のこと連れてきたから、てっきり起きるまでそばに居るもんだと思ってたんだけど」
「先生はずっとここに居たわけではないんですか?」
「うん。職員会議があってね、今帰ってきたところだよ」

 そう言いながら、起き上がった俺の後頭部を確認し始める保険医。俺がその痛みに呻くと、ごめんねと謝りながら氷嚢を手渡してくれた。ひんやりとして痛みが和らぐなぁ。

「大きなたんこぶ出来てるけど、吐き気とかはない?」
「はい、大丈夫です」
「それなら一旦は問題ないと思うから、帰っても大丈夫だよ。もし夜になってから目眩がしたり、急に気分が悪くなるようなことがあれば、迷わず病院に行くこと。いいね?」
「分かりました」
「一人で帰らせるのは流石に心配だから、親御さんがお家にいるなら、迎えに来てもらった方が安心なんだけど……誰かいるかな?」
「あ、多分母が家に居ると思います」
「じゃあちょっと電話してくるから、ゆっくりしててね~」

 そう言って一度は出て行こうとした保険医は、ふと立ち止まると、こちらを向いて微笑んだ。

「それと、青島くんに会ったらちゃんとお礼言っておきなね? 目の前で友達が意識を失って焦っただろうに、ちゃんと正しい処置してここまで連れてきてくれたんだから」
「そうだったんですか?」
「彼、しばらくその場で様子を見た後で、自分の体操服を水道水で濡らして、それで君の頭を冷やしながら、抱きかかえて連れて来たんだよ~。上半身裸で飛び込んできた時は、何事かと思ったけどね!」
「へ、へぇ~……」
「ふふ、もしかすると明日噂になってるかもよー。ちょうど下校する子達や、部活中の生徒も多かっただろうし」
「………」

 なにそれ。とてつもなく、恥ずかしいんですが⁈

 気を失った俺は、上半身裸のイケメンに抱きしめられながら、グラウンドの端っこにある体育倉庫からこの保健室まで連れて来られたのか。
 ただでさえイケメンは目立つというのに、更にそれが上半身裸であれば、何があったのかと皆が注目するに違いない。目の前の保険医は「さすがスポーツ少年。いい身体してたよ~俺もあと10歳若ければなぁ」なんて呟いている。おい。

 しかしそれでも青島は、本当に最善を尽くしてくれたのだろう。こうなってしまったからには、どうか俺の顔が周りの人に見られていませんようにと、微かな希望に願いを込めて、ただ祈ることしか出来なかった。

「あ、先生。青島くんの体操服って、まだここにありますか?」
「ん? あるけど、どうして?」
「僕のせいで迷惑をかけたので、せめて洗って返そうかなと思って……」
「わかったよ。電話のついでに、何か袋も持ってくるね」

 保険医はそう言うと、今度こそ母さんに電話をするためにカーテンの向こうへと消えていき、部屋を出て行った。

 あんなに苦手だと思っていた青島だったが、体育倉庫でのやり取りを経て、ほんの少しだけあいつに対する認識を改めることにした俺だった。
 次に会った時には、もう少し仲良く出来るといいなぁなんて。そんなことを考えながら、俺は再び目を閉じた。




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