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6月
くじ運のない俺
しおりを挟む6月。
うちの高校は、体育祭がこの時期に行われる。
本来、秋に実施する学校が多いかもしれない。我が校の場合、その頃には一番力を入れている文化祭があるため、行事を分散させる配慮で6月に実施されるのだ。でも学校によっては、春秋と二回に渡って開催されるところもあるというし、意外と一般的なのかな?知らんけど。
元々運動ができないタイプの俺が、恐らく運動神経皆無の乙成くんとなったことで、これまで以上にスポーツは苦手になっていた。
え?元サッカー部?万年補欠だって言っただろ。そんな俺にとっては、体育祭なんて面倒ごとでしかなく、ただ他の運動部の連中がキャーキャー言われるのを、眺めているだけのつまらない行事なのだ。
さて、どうしていきなりこんな説明を始めたのかというと……俺は今、その嫌いな体育祭のために、肉体労働を強いられているのだ。
辿り着いたグラウンドを見渡せば、学年毎に色の違うジャージを着た生徒が何人もいる。
「よーし、みんな集まってるか? やることの説明を始めるぞー」
体育教師が声を上げると、バラバラと好き勝手に談笑していた生徒たちが集まってきた。各学年、クラスから体育祭実行委員という生贄が選ばれる。誰か1人がなれば良いという役割に、まさかのくじ運で選ばれてしまうなんて……俺、残念過ぎるだろ。
説明を聞く限り、これからの放課後は毎日何かしらの準備に追われるそうだ。
「……という訳で、今日は二人ずつのペアになって進めてもらうからな。組み合わせはこちらで名簿順で決めているから、それに従ってくれ。まず、青島と乙成。お前たちは体育倉庫で備品の確認を頼む」
「あっ、は、はい!」
「おう。乙成、これがリストだ。必要なものは手前に出しておいてくれ。無いものはここにチェック。いいな?」
「分かりました」
「よし、じゃあ次は近藤と志島~」
次々と生徒に役割を振っていく。どうやらクラス学年関係なしに名前順で組み合わせを決めているようだ。受け取ったリストに書かれた備品の数々を見て、これは骨が折れそうだと思っていると、一人の男が近づいて来た。
「青島くん。えっと、よろしくね?」
「……よろしく」
苦行を共にする仲間ということで、乙成くんの天使の笑顔をプレゼントしてやったというのに、なんと愛想のないことか。申し訳ないけど、こいつちょっと苦手なんだよなぁ……。
青島僚祐同じ二年の野球部エースだ。けっこうスポーツにも力を入れているうちの高校で、一年の時からレギュラー入りをしている、イケメンピッチャー……だったはず。
基本的に、俺よりモテモテの男は気に食わないっていうのはあるけれど、それ以上に無表情で何考えてるか分からないというか。黒瀬以上の無表情で、表情筋が死んでて少し怖いんだよなぁ。
それでも女生徒からの人気は凄まじくて、放課後の練習中にも黄色い声援が飛び交ってるとか。そんな中でも表情ひとつ崩さずに、淡々と実直にプレーし続ける様子は硬派そのもので、他の部員や男子生徒からも好感度が高いって話は聞いたことあるけど。
「これ、リスト預かったよ。沢山あるけど頑張ろうね」
「ああ」
はい! 端的ー!
これは楽しい会話のキャッチボールを求めたら駄目だな……と切り替えることにして、さっさと目的を果たして帰ることを目指そう。
二人で体育倉庫へと向かうと、普段は授業の時以外鍵のかかっているところ、事前に教師が開けていたのか扉が開いていた。さまざまな用具・機具の仕舞われている倉庫は広々としていて、この中から必要なものを探し当てるのは中々大変そうだった。
「えっと……そしたら僕は、リストの上から探して行こうかな?」
「わかった。それなら俺は下から」
「うん! 時間がかかりそうだったら一旦飛ばして、次に進んじゃおうね」
「ああ」
まずは対象を減らすのが先だ。二人して同じものを探しても、一つのものを探し続けても効率が悪いので、簡単な約束事だけ決めてそれぞれ作業に取り掛かる。
「…………」
ガサガサ、ゴトン
「…………」
どさっ、どさっ、ガタタッ
「…………」
ゴロゴロゴロ……
「…………」
き、気まずいんですけどーー!?!?
ナニコレ?! どうしてこんな重苦しい雰囲気になるわけ?!
電気は付いているけど、校舎の陰に建てられた体育倉庫はどことなく薄暗くて、半密室の中で無言で続けられる作業は、その場の酸素がなくなったの? って思ってしまうくらいに、息苦しかった。
その無言のプレッシャーに耐えられなくなった俺は、色良い返事が返ってこなくても構わない!と、とにかく青島相手に話題を振ってみることにした。
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