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5月
秘密の撮影会!どきどき
しおりを挟む視線を外せずに固まっていた俺と浅黄の間に割って入ってくれたのは華恋ちゃんだった。
あ、危ない。あのままだったら変な空気に呑まれて、こんな公衆の面前でキスのひとつくらいしてしまいそうな雰囲気だったぞ。
「ちっ。華恋、邪魔すんなよな」
「なによ、撮影止めておきながら。今邪魔なのは壱成の方だけど?」
「お前~~~」
「ふーんだ。優ちゃん、最初は華恋との撮影だよー♡ 頑張ろうねっ」
べーっと浅黄に舌を出した華恋ちゃんは、俺と腕を組んでスタジオの中心へと歩いていく。腕を組まれると!華恋ちゃんのたわわな胸が!俺の二の腕にジャストフィットなんだが!
この世の天国かというような感触に、全力で鼻の下を伸ばしていると、あれよあれよとカメラの前に連れ出されていた。
「今日は壱成がメインの撮影なんだけど、こぉんな可愛い女の子が二人も揃ってるんだから、女の子だけでも撮りましょうって話になったんだよ♡」
そう言いながら華恋ちゃんは、俺の右手の小指に綺麗な指輪を嵌めると、今度は自分の左手を同じようにする。
「これで、ハイ。恋人繋ぎしよ♡」
「は、はい……!」
華恋ちゃんは女神のごとく美しい笑顔を浮かべると、その細い指を俺の手へと絡めてきた。指輪を付けた方の手をカメラ側にして、二人で向かい合って座る。こつん、とおでこをくっつけた華恋ちゃんは、顔を真っ赤にさせて固まる俺に笑いながらも、繋いだ手を顔の近くへと持ち上げて、ポーズをとる。
(華恋ちゃんと、こんな近くにいるなんて……!)
モデルをしているような美しい女性と、こんな至近距離にいることなんて、今まで生きてきた中で初めての経験だ。どういう顔をして、どんな態度でいたらいいのか、全く分からなくて頭が真っ白になってしまう。
「……ねぇ。優ちゃんは壱成が好きなの?」
カメラの音が鳴り響く中、囁くように華恋ちゃんが呟いた。
「え……っ」
「壱成のこと。好きなんじゃないの?」
どうやら聞き間違いではないようだ。華恋ちゃんは素晴らしく可愛いキョトン顔で、再び問いかけてくる。あれ、でも待てよ。華恋ちゃんは俺が男だって分かってるんだったよな?
「まさか! 僕、男だし……」
「性別は関係なくない? 業界だと多いよ~同性カップル。ryoちゃんだってあんな感じだしさ」
小声で否定するものの、華恋ちゃんは納得いかない様子。こんな風に話をしながらも、少しずつポーズを変えていく姿は、流石プロって感じだ。俺は導かれるままに、たどたどしくそれらしい姿勢をとってみる。
「男とか女とか、そういう問題じゃなくて、大事なのは自分が相手を好きかどうかでしょ? 壱成は完全に優ちゃんが好きだと思うけどなぁ。あんな壱成、初めて見るから面白いもん」
「初めて……?」
何かを思い出したように吹き出す華恋ちゃん。え、なに、めちゃくちゃ可愛いんだが? この子は神様が生み出した奇跡なの?
奇跡の美少女・華恋ちゃんの笑い声をきっかけにして、カメラマンさんが声を掛けてくる。
「うーん、二人とも可愛いんだけど、やっぱり優ちゃんはちょっと固いかな?」
「す、すみません……!」
「いやいや。初めてにしては上出来なんだけどね。彼氏との撮影の方が落ち着くかな~? ちょっと先に壱成とのカット撮ろうか」
そう言うと、奥でブスくれた顔をして座っていた浅黄を呼ぶ。近づいて来たやつに、二言三言何かを告げると、にやりと笑った浅黄は俺に向かって手を差し出した。
「優ちゃん、おいで」
「うん……」
その手を取って立ち上がる俺。
ぽんぽんと優しく頭を叩いた浅黄は、俺の顔を覗き込むようにして話しかけてくる。
「大丈夫? もしかして華恋に虐められたとか」
「そんな訳ないでしょ~! 失礼ねっ」
そう言いながら華恋ちゃんも立ち上がると、可愛い顔でぷりぷりと怒っていた。俺のせいで華恋ちゃんにあらぬ疑いがかかってはいけないと、恥を忍んで正直に答える。
「その、華恋ちゃんが可愛くて、緊張しちゃって……」
「ん~~~♡ 優ちゃんの方がもーっと可愛いよぉぉ♡」
ある意味普段通りの浅黄なのだが、それを見て華恋ちゃんが引いていた。これが華恋ちゃんの言う初めて見る姿なのだろうか。確かに面白いかもしれないけど。
しばらく俺の身体にぐりぐりと頭を擦り付けていた浅黄だが、見かねたカメラマンさんに止められると、ようやくモデルモードにスイッチを切り替えたようだ。浅黄の乱れた髪をヘアメイクさんが直し、ついでのように俺の化粧もチェックする。
「俺と近いのは大丈夫だよね? いつもどおりでいてくれたらいいよ。俺がリードするから」
そう言って少しだけ口角を上げた浅黄は、俺の腰を抱き寄せた。
「あっ……」
思わず飛び出した自分の声色にびっくりする。
それに驚いたのは浅黄も同じだったようで、少し息をのむような音が耳元で聞こえた。
「……っ、へぇ。そんな色っぽい声、出しちゃうんだ……?」
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