乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

文字の大きさ
上 下
73 / 162
5月

秘密の撮影会!かんせい

しおりを挟む


「ほらほらっ、これからお化粧するんだから泣かないの! こっち座ってこのエプロン付けてね~」

 意気消沈とした俺を、ずらりと化粧品が並んだ鏡の前に座らせると、ヘアメイクのお姉さんはささっと俺の顔を触って状態を確認していく。

「肌もすっごい綺麗だし、ファンデーションなしでお粉だけにしよっか。はぁ~~、どんなお手入れしてたらこんな綺麗になるの?」
「と、特に凄いことはしてないと、思うんですが……」
「くぅ~~憎たらしいねぇ~~! 若さなの? それとも素材のせい? とにかく、元の雰囲気大事にして、フェミニンな感じに仕上げますか」
「……お任せします……」

 任せてー♡ と元気に返事をしてくれたお姉さんは、カラフルな化粧品を手にとっては、目を瞑って~開いて~上向いて~笑って~などと、たくさん指示を入れながら手を動かしていく。
 最後に唇へ、スッと筆を滑らせると、にっこりと微笑んで鏡の中の俺を見つめた。

「うん! 我ながら完璧♡ 髪はそのままでも可愛いけど、今日はこのウィッグをつけてもらうね」

 そう言って被せられたのは地毛に近い色をした、ロングヘアのウィッグだった。

「これでおっけー! じゃあ、壱成くん呼んでくるからちょっと待っててね」

(わぁ……僕、本当に女の子みたいだ……)

 全ての準備を終え、改めて鏡に映る自分を眺めてみると、そこに居るのはただの美少女だった。普段の乙成くんも充分美少女じみているのだが、こうしてプロの手によって磨き上げられた姿を見るとやっぱり違うな、と思わず惚れ惚れしてしまう。
 ぼうっとしながら鏡を見つめていると、スタジオの方に行っていたお姉さんが帰ってきたが、浅黄は一緒ではないようだ。あれ? と思い首を傾げるとにこりと微笑んだお姉さんが手招きをした。

「壱成くんと華恋ちゃん、先に撮影入っちゃってるみたいだから、スタジオ行こうか。案内するね~」
「は、はい……! よろしくお願いします」

 足にまとわりつくスカートの感覚に慣れず、変な歩き方になってはいないだろうか。有難いことに靴はヒールではなかったため、転ばずに歩くことができそうだ。

(女の子って、大変だなぁ)

 人の手を借りて準備をするのにも、こんなにたくさんの時間がかかったのだ。何もしていないのに疲れたような気すらする俺は、街中で歩いている女の子たちが、あんなに可愛く装うためにはどれだけの苦労と努力があったのだろうかと想像してしまう。この経験を糧に、彼女が出来たら絶対に優しくしてあげるんだ。

 そんなことを考えていると、いつの間にかフラッシュ音が鳴り響くスタジオへと着いていた。


 ―――カシャッカシャッ
 ―――カシャシャッ


「今回の撮影はアクセサリーメインだから、華恋ちゃんの衣装もシンプルな感じだね。壱成くんなんて着てないし」

 そこにいたのは、白いふわふわの衣装を身に纏った天使のような華恋ちゃんと、上半身裸でその彼女を膝に乗せて抱きしめている浅黄だった。
 浅黄の耳にはいつも付けている物とは異なって、男性向けのアクセサリーにしては少し繊細な雰囲気のダイアが垂れさがったピアスが付いている。

「なんだか、可愛らしいピアスですね」

 思ったままの感想をそのまま呟いてしまった。

「あれ? 聞いてないかな。今日はね、女性物のアクセサリーを男性モデルである壱成くんが付けて撮影するんだよ」
「へぇ、そうだったんですか……」

 美しくしなやかな筋肉に覆われた肢体を惜しげもなく晒して撮影をする浅黄。その男らしい身体に身に付けているのが女性のアクセサリーとは、不思議なようだが、なんというかセクシーで、変な気分にもなってくる。

 普段あまり見ることのない、浅黄の真剣な表情に思わず見惚れてしまった。

(やっぱり、格好いいよね……)

 熱い視線を向けていると、ふと、浅黄がこっちを向いた。俺と目が合うと、今まで張り詰めたように集中していた空気をがらりと変え、いつもの浅黄に戻ってしまう。それどころか撮影中だというのに、華恋ちゃんやカメラマンさんをほっぽり出して、俺の方へと駆け寄ってくるではないか。

「優ちゃん……!」
「あ、浅黄くん。撮影大丈夫なの?」
「撮影なんてしてられないし……やばい……可愛すぎて死んじゃいそう」

 浅黄は俺の目の前に立つと、まじまじと全身を眺めた後、がしりと抱き締めてきた。

「わぁっ」
「優ちゃん、ロングヘアも似合うね? すっごい可愛い」
「ほ、褒めすぎだよ……」

 でれでれと蕩けた顔を隠そうともせず、全力で褒め称えてくる浅黄に照れてしまう。ほらっ、周りのスタッフさんも生温かい目をしている気がするし、むしろ笑われてないか?! 恥ずかしいから離してくれ~~!
 浅黄の胸に手を置いて、少し距離をとるように試みる。そのまま顔を上げると、まるでキスでもするかのような距離に浅黄の顔があって驚いた。

(ち、近い……!)

「優ちゃん……――」

 小さく囁かれた名前にびくりと肩を揺らし、目を離すことができないまま固まってしまう。あと少しで唇がかさなる……そう思った時に聞こえたのは、可愛らしい女の子の声だった。

「はいはぁーい! そこのカップルはイチャイチャしてないで、お仕事してよねっ」



しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

弟の可愛さに気づくまで

Sara
BL
弟に夜這いされて戸惑いながらも何だかんだ受け入れていくお兄ちゃん❤︎が描きたくて…

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

お兄ちゃん大好きな弟の日常

ミクリ21
BL
僕の朝は早い。 お兄ちゃんを愛するために、早起きは絶対だ。 睡眠時間?ナニソレ美味しいの?

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

処理中です...