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5月
秘密の撮影会!かんせい
しおりを挟む「ほらほらっ、これからお化粧するんだから泣かないの! こっち座ってこのエプロン付けてね~」
意気消沈とした俺を、ずらりと化粧品が並んだ鏡の前に座らせると、ヘアメイクのお姉さんはささっと俺の顔を触って状態を確認していく。
「肌もすっごい綺麗だし、ファンデーションなしでお粉だけにしよっか。はぁ~~、どんなお手入れしてたらこんな綺麗になるの?」
「と、特に凄いことはしてないと、思うんですが……」
「くぅ~~憎たらしいねぇ~~! 若さなの? それとも素材のせい? とにかく、元の雰囲気大事にして、フェミニンな感じに仕上げますか」
「……お任せします……」
任せてー♡ と元気に返事をしてくれたお姉さんは、カラフルな化粧品を手にとっては、目を瞑って~開いて~上向いて~笑って~などと、たくさん指示を入れながら手を動かしていく。
最後に唇へ、スッと筆を滑らせると、にっこりと微笑んで鏡の中の俺を見つめた。
「うん! 我ながら完璧♡ 髪はそのままでも可愛いけど、今日はこのウィッグをつけてもらうね」
そう言って被せられたのは地毛に近い色をした、ロングヘアのウィッグだった。
「これでおっけー! じゃあ、壱成くん呼んでくるからちょっと待っててね」
(わぁ……僕、本当に女の子みたいだ……)
全ての準備を終え、改めて鏡に映る自分を眺めてみると、そこに居るのはただの美少女だった。普段の乙成くんも充分美少女じみているのだが、こうしてプロの手によって磨き上げられた姿を見るとやっぱり違うな、と思わず惚れ惚れしてしまう。
ぼうっとしながら鏡を見つめていると、スタジオの方に行っていたお姉さんが帰ってきたが、浅黄は一緒ではないようだ。あれ? と思い首を傾げるとにこりと微笑んだお姉さんが手招きをした。
「壱成くんと華恋ちゃん、先に撮影入っちゃってるみたいだから、スタジオ行こうか。案内するね~」
「は、はい……! よろしくお願いします」
足にまとわりつくスカートの感覚に慣れず、変な歩き方になってはいないだろうか。有難いことに靴はヒールではなかったため、転ばずに歩くことができそうだ。
(女の子って、大変だなぁ)
人の手を借りて準備をするのにも、こんなにたくさんの時間がかかったのだ。何もしていないのに疲れたような気すらする俺は、街中で歩いている女の子たちが、あんなに可愛く装うためにはどれだけの苦労と努力があったのだろうかと想像してしまう。この経験を糧に、彼女が出来たら絶対に優しくしてあげるんだ。
そんなことを考えていると、いつの間にかフラッシュ音が鳴り響くスタジオへと着いていた。
―――カシャッカシャッ
―――カシャシャッ
「今回の撮影はアクセサリーメインだから、華恋ちゃんの衣装もシンプルな感じだね。壱成くんなんて着てないし」
そこにいたのは、白いふわふわの衣装を身に纏った天使のような華恋ちゃんと、上半身裸でその彼女を膝に乗せて抱きしめている浅黄だった。
浅黄の耳にはいつも付けている物とは異なって、男性向けのアクセサリーにしては少し繊細な雰囲気のダイアが垂れさがったピアスが付いている。
「なんだか、可愛らしいピアスですね」
思ったままの感想をそのまま呟いてしまった。
「あれ? 聞いてないかな。今日はね、女性物のアクセサリーを男性モデルである壱成くんが付けて撮影するんだよ」
「へぇ、そうだったんですか……」
美しくしなやかな筋肉に覆われた肢体を惜しげもなく晒して撮影をする浅黄。その男らしい身体に身に付けているのが女性のアクセサリーとは、不思議なようだが、なんというかセクシーで、変な気分にもなってくる。
普段あまり見ることのない、浅黄の真剣な表情に思わず見惚れてしまった。
(やっぱり、格好いいよね……)
熱い視線を向けていると、ふと、浅黄がこっちを向いた。俺と目が合うと、今まで張り詰めたように集中していた空気をがらりと変え、いつもの浅黄に戻ってしまう。それどころか撮影中だというのに、華恋ちゃんやカメラマンさんをほっぽり出して、俺の方へと駆け寄ってくるではないか。
「優ちゃん……!」
「あ、浅黄くん。撮影大丈夫なの?」
「撮影なんてしてられないし……やばい……可愛すぎて死んじゃいそう」
浅黄は俺の目の前に立つと、まじまじと全身を眺めた後、がしりと抱き締めてきた。
「わぁっ」
「優ちゃん、ロングヘアも似合うね? すっごい可愛い」
「ほ、褒めすぎだよ……」
でれでれと蕩けた顔を隠そうともせず、全力で褒め称えてくる浅黄に照れてしまう。ほらっ、周りのスタッフさんも生温かい目をしている気がするし、むしろ笑われてないか?! 恥ずかしいから離してくれ~~!
浅黄の胸に手を置いて、少し距離をとるように試みる。そのまま顔を上げると、まるでキスでもするかのような距離に浅黄の顔があって驚いた。
(ち、近い……!)
「優ちゃん……――」
小さく囁かれた名前にびくりと肩を揺らし、目を離すことができないまま固まってしまう。あと少しで唇がかさなる……そう思った時に聞こえたのは、可愛らしい女の子の声だった。
「はいはぁーい! そこのカップルはイチャイチャしてないで、お仕事してよねっ」
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