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5月
どうしてそうなった?!
しおりを挟む「先輩。準備、できましたっ」
「うっ、うん! そ……そしたら、こっちにきて……?」
どうしてこんな事になってしまったのか。
俺は今、後輩の赤塚と一緒に、何故かビジネスホテルの一室に来ています……―――
***
怒涛のGWが過ぎてから、以前迷子だったところを助けたお礼にと、赤塚が奢ってくれると約束していたのを実行に移すべく、俺たちは放課後に学校近くのファミレスへ来ていた。
いくら断っても、律儀にも約束を果たそうとしてくる上、会う度に「いつ行きましょうか?!」と輝いた目をして駆け寄って来るもんだから、一回くらい付き合うか、と同伴することにしたんだ。
「本当にファミレスなんかで良かったんですか? もっと高いところでも大丈夫なのに……」
不貞腐れたように言う赤塚が面白くて、思わず笑ってしまう。
「気持ちだけで充分だし、僕ファミレス好きなんだ。好きなものが食べられるから」
「先輩が良いなら良いんですけど……」
それにしても後輩と放課後にファミレスに来るなんて、初めての経験だ。
そもそも放課後を誰かと過ごすこと自体、乙成くんになってからしか経験した事はないのだが、今まで同学年はおろか、歳の離れた友人がいたためしが無かった。正直どうしてここまで慕われているのか、理由は分からなかったが、こんなに無条件に好かれて、嫌な気がする人はあまりいないだろう。
「赤塚くんは、どうしてこんなに僕に良くしてくれるの? 迷子だったのを助けはしたけど、それだけでここまでして貰うのも……なんか気が引けちゃうな」
嫌な気はしないが、気になるものは気になるので。思い切って本人にぶつけてみる事にした。俺のストレートな質問に少し目を丸くした赤塚は、その後気まずそうに目を逸らした。
「実は……先輩に相談に乗って欲しいことがあって……」
次は俺が目を丸くする番だった。
なんと、この俺に相談だって?!
並の並という称号を欲しいままにして、オタクゲーマーの道をただひたすらに突き進んでいたこの俺に、こんな可愛いと格好いいを兼ね備えた忠犬系イケメンが、相談……?!
乙成くんだって見た目は極上だけど、そんな頼り甲斐があるタイプには見えない筈なんだけどな。そんな不安がそのまま口をついて出た。
「えと、でも、僕でお役に立てるかな……?」
「先輩じゃないと駄目なんです。他の人じゃ……先輩にしか相談出来なくて」
「わ、わかった! それなら僕に聞かせて」
垂れた尻尾が見えるように落ち込んだ赤塚の姿に胸がギュウッと引き絞られる心地がした。
初めて出来た後輩が、ここまで自分を頼ってくれているというのに、これで断ったら漢が廃るぜ! 可愛い後輩の頼みだ、なんでも聞いてやろうじゃないかと、強い気持ちが湧き起こってそのままの勢いで赤塚に告げる。
「僕に出来ることなら、何でもするよ!」
「……本当ですか?」
「うんっ、任せて!」
「実は俺」
重々しい雰囲気に、ゴクリと唾を飲み込んで乾きそうな喉を潤すために、アイスコーヒーを口に含んだ。
尋常じゃない様子になんだか緊張するぜ……
「俺、EDかもしれないんです……」
―――ごっ、くん……っ
げほっ ゴホゴホッ………!
「ごほっ……ぃ、いーでぃー……」
飲み込む直前だったコーヒーを思わず変な風に吸い込んでしまった。
咽せる俺を無視して、赤塚は話を続ける。
「恋人は欲しいって思ってるんですけど、少し女の人が、怖くて……。いざそういう関係になるって時に、勃たないんです」
「そ、そっか……」
「童貞のままで一生過ごす事になるのかなって思ったら……辛くて」
(こんなイケメンが、童貞……)
正直、つい最近まで中学生だったんだから、童貞だっておかしくないだろうと思ってしまうのだが、今時の中学生は進んでいるからな。赤塚も「そういう関係」になる機会があったってことは、お誘いなんかがあったはずなのに、致せなかったってことか。そもそも縁が無かった俺とは違って、ヤれるのに出来なかったというのは屈辱なのかもしれないな。
「赤塚くん、そんなに思い詰めなくても……」
「だから、先輩で練習させてくれませんか?!」
ど、どうしてそうなった!
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