乙ゲーヒロインの隣人って、普通はお助けキャラなんじゃないの?

つむぎみか

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5月

イケメンはいつだって自信たっぷり

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 そうして今。俺の部屋には母さんの準備した客用布団が敷かれており、それを見ながらパジャマを着た俺は途方に暮れていた。

(これって、もしかしなくても相当なピンチだよね?!)

 恐らく黒瀬は俺に性欲込みの好意を持っているはずで。そんな男と、他に誰もいない家で二人きりなのだ。何も起こらないなんて、到底あり得ないだろう。

(キスされると訳分からなくなっちゃうし……も、もしかして今日そのまま……!)

 自分で想像した未来への恐怖で震えていると、風呂から上がった黒瀬が戻ってきた。

「風呂、ありがとな」
「う、うん……! ゆっくり出来た?」
「ああ。あと、寝間着も。サイズちょうどだ」
「そっか! お父さんのだったんだけど、それならよかったよ」

「…………」
「…………」

 それ以上言葉が出てこずに、微妙な空気が流れる空間にあわあわとしてしまう。

 ……ふっ

 一人で慌てふためく俺に、黒瀬が吐息で笑った。

「な、なに?」
「いや、意識してくれてるんだなって思ったら、嬉しくなった」
「ッ……」

 そう言って微笑んだ黒瀬の顔は、本当に嬉しそうで柔らかな表情をしていた。

(またこの顔。黒瀬くんの笑顔、弱いんだよなぁ)

 この笑顔を見ると、何でもいいような、黒瀬の思う通りにしてあげたくなるような、抗えない何かが湧き起こるのだ。これもイケメンのなせる技なのだろうか。


 ベッドに腰掛ける俺の前に黒瀬が膝をつく。それが例え父さんのパジャマを着た姿だったとしても、まるでドラマに出てくるワンシーンように様になっていた。

「今までお前がよく分かっていないのを良い事に、身体から籠絡しようと思ってたのは事実なんだ」

(籠絡されようとしてたのか……)

「だけど、いや、だからちゃんと言う」

 黒瀬の真剣な瞳が俺だけを見詰める。

「お前のことが好きだ」
「………ッ」

「好きだから触りたい。俺の手で気持ち良くなっているお前が可愛くて仕方ない」

 膝の上に置いていた俺の手を、黒瀬が優しく握ってくる。

「もっと、ちゃんと繋がりたいんだ、だめか?」

 男と繋がるなんてごめんだ。
 俺は女が好きなんだ。

 そう言って断ることは簡単なはずなのに。

 それが本心のはずなのに、掌から伝わる熱を感じ、その瞳を見てしまうと、喉から何も言葉が出てこなかった。

「少しでも俺のことを想ってくれているなら、チャンスが欲しい。……例え身体からでも、心も手に入れる自信はあるしな」

 イケメンの自信すごい……。
 しかも冗談だろ~? って笑い飛ばせないのが、恐ろしいよな……。

 この言葉を聞いて、俺は一体どうしたいんだろう?
 俺は何も言葉を返すことが出来なかった。

「ずるいって分かっているが、俺はこのチャンスを逃したく無いんだ。乙成、俺のことは嫌いか?」

 それは嫌いではない。正直に緩く首を横に振る。

「俺との行為は嫌いか?」

 これもまた、横に振り答える。

「この間のキスは、触られるのは嫌だったか? もっと気持ちいいこと、したくないか?」
「……黒瀬くんってば、質問ばっかり」

 自信満々に話していた男とは思えないくらい、必死に誘導尋問のような手を使って俺から言葉を引き出そうとする。その姿に、思わず気が抜けて笑ってしまう。

(イケメンの手練手管を学ぶのもありか……?)

 今までこんなにも誰かに求められたことのなかった俺は、遂にはそんな思考にまで至っていたが、それも既にこの場の雰囲気に呑まれてしまっているからだということに全く気付いていなかった。

「き、気持ちいいのは、嫌じゃないよ……」
「今はそれだけで良いんだ」

 許可は得たとばかりに、黒瀬は立ち上がり少しずつ俺の身体をベッドへと押し倒す。

「任せとけ。絶対、またしたいって思わせる」

 にやりと不敵な笑みを浮かべる黒瀬に、そんなことないって言ってやりたいけど、もしかしたらそんな事もあるのかも……って心配している時点で既に俺は落ちかけているのか。男なんて絶対に無理と思っていた俺はどこへ行ってしまったんだろうか。
 それもこれも、きっと全てはミユたち腐女子神のせいだと言い訳をしながら、黒瀬の唇がもたらす、甘い快楽に身を委ねていくのだった。




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