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5月
災難は続くよ、どこまでも。
しおりを挟むちょっと顔落ち着いてから帰りなねー、という克さんに「顔が落ち着くとはどういうことですか?」と聞くことは叶わなかった。
(なんていうか、笑顔に圧を感じたんだよね……)
こんな途中で帰れと言われるということは、きっと裏で何をしていたのか克さんには分かっていたということなんだよな。多少大きな反応をしてしまった時もあったが、店内にはBGMも流れているし声が聞こえていたということは無いと思う。
「そんな分かりやすい顔、してたかな……?」
確かめるようにショーウィンドウに映る自分の顔を覗いて見る。こうして見る限りは、いつもと変わらない乙成くんの綺麗な顔だなぁとしか思えないんだけどな。
(うーーーーん?)
「かーのじょ! そんなに自分の顔見ちゃってどうしたのー?」
角度を変えたり、頬を摘んでみたりしながらその場で検証をしていると、ふいに知らない男から声を掛けられた。
は?誰こいつ。しかも彼女ってなんだよ。
いきなりの馴れ馴れしさと言われた内容にかなりの嫌悪感を抱く。そんな俺の気持ちに一切気付かないその男は、いきなり俺の肩に腕を置いてきた。
「ッちょっと……!」
「お姉さん、めっちゃ色っぽいね? 暇ならこれから一緒にお茶でもどう?」
ぐいぐいとまるで抱きしめるように肩に置かれた手に力を入れられて、少しでも距離を取ろうと腕を突っ張るが気持ち悪さに鳥肌が立つ。
(う~、離れてよ……ッ)
発言もバカっぽければ、顔すらアホっぽいというのに、力だけは強いそいつは一切離れてくれない。このままでは埒が明かないと、いっそ金的でも食らわせてやろうかと身構えた瞬間。
「ごめん、待った?」
「え?」
「ん~~?」
更に知らない男が登場した。
(次から次に、なんなの一体……厄日?)
新しく現れた男に、バカ男一号が気を取られて力が抜けた瞬間を見計らって、腕の中から抜け出す。すると、そんな俺を背中に庇う様に立った新しい男はバカ男一号に向き合い応対する。
「僕の彼女になんか用かな? 乱暴しないで欲しいんだけど」
(彼女!?)
声を大にして否定したいが、どうやらこの男はバカ男一号を追い払おうとしてくれているようなので、のどまで出掛かった言葉をぐっと飲み込む。
「な、なんだよ、男連れか。それならそんな誘うような顔して立ってんじゃねーよ!」
「な……ッ」
凄まじい捨て台詞を吐き捨てて走り去るバカ男一号。
言うに事欠いて「誘うような顔」だと~~~!?
そんな顔してねぇし!
してたとしてもお前なんか絶対に誘わねぇし!!!
怒りに震わせていると、新しい男が気まずげな表情で俺を振り返った。
「え、えーと。困ってるのかと思ったんだけど、余計なお世話だった?」
「…………」
この人はきっと良い人なのだろう。見ず知らずの俺が困っていると思って助けに入ってくれたんだから。
しかしバカ男一号のおかげで心が荒んでしまった俺は一度感謝の意味を込めた会釈だけをして、他にたいしたお礼もしないままにその場を後にするのだった。
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