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5月
追い出されてしまいました…
しおりを挟むビクリと反応した黒瀬はわずかに身体を離して、俺の顔を見下ろしてくる。
(な、なんて声を出してしまったんだ……!)
しかしこれは不可抗力なのだ。
黒瀬の拘束から抜け出そうと身じろぐうちに、無防備に曝け出された俺の乳首が押し付けられた黒瀬のシャツのボタンに擦れてしまったんです。まさかの場所からの、まさかの快感に、準備の出来ていなかった俺は思わず声を出してしまい、それが思った以上に響いてしまった。
まぁ、事実そうだとして、恥ずかしさに口をあわあわさせるしかない俺に、黒瀬は今までに無いくらい真剣な顔をして懇願する。
「なぁ、もう一回だけキス……」
「もうっおしまい!」
これ以上やったら絶対イケナイ扉を開いてしまう。それだけは何とか阻止しないとダメだ、と勢いに任せて黒瀬の身体を強く押すと、思った以上に簡単に離れていった。
そこから一切黒瀬の方を見ることなく、黙々と着替えを進めていく間中、黒瀬も特段声を出すことも無く、俺の動きをただ見守っていた。指先が震えていつもの倍以上着替えに時間がかかったのは仕方が無いと思う。
「戻りましたっ」
「お~、おかえり~」
休憩室の扉を勢いよく開き、肩を怒らせながら店内に戻ると、そんな俺の姿を見て克さんの表情と動きが固まった。
「あー乙成クン。うちの湊がすまんな」
「えッ な、なんでですか?!」
確かにお宅の湊さんには色んなことをされてしまいましたが、何故分かった!?
思わず振り返り、後ろに付き従うように立っていた黒瀬を見やる。
「いや~ね、おいちゃんとしては可愛い甥っ子が人並みの感情を持っていたことが分かって嬉しいんだけどねぇ」
そう言いながら大げさなまでに大きなため息をつきながら、客席の方に出ようとしていた俺の身体を半回転させ、出てきた休憩室の方へと押し戻すように歩く。
「うちの子がこんな節操なしだったとは……」
「ちゃんと途中で止めたぞ」
克さんと黒瀬に挟まれるようにして立つ。
な、なんだこれは……どういう状況なんだ……
二人ともデカイから、圧迫感が半端ないんですけど!
「仕事中に手ぇ出す時は後のこと考えろってハナシ」
「牽制だ」
「これじゃあ余計に変なの寄ってきちゃうでしょうよ」
「………」
先ほどの小競り合いの続きなのだろうか。
声を低くして言い合うが、最終的に言葉が詰まったのは黒瀬の方だった。もしかしなくても、これって俺のことを話しているんだよな?
「ということで、乙成クン。今日はもう帰っていいよ~客足も落ち着いてきたし、残りの時給は湊の給料から引いておくから」
「ええっ?!」
押し黙った黒瀬に勝利を確信したのか、フンッと鼻を鳴らした克さんは俺に向かって笑顔でそう言った。突然の帰宅命令に驚きが隠せないが、克さんは撤回する気はないらしい。
「髪もまだ湿ってるし、風邪引いたら大変だからさ。また明日頼むね?」
「わかりました……?」
有無を言わせぬ笑顔で休憩室まで押し戻された俺は、ただ承諾するしか道が無く、漸くの思いで着替えた制服をすごすごと脱ぐ羽目になるのだった。
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