56 / 162
5月
イケボで囁くのはやめてくれ! ※黒瀬
しおりを挟む次々へと襲いくる快楽の波に、もう限界だとばかりに震える足の力が抜けていく。へたり込みそうになる前に黒瀬のがっしりとした腕が俺の腰にまわる。
「……ふ、ぁ……」
ようやく唇が離れ、たっぷりと息を吸うことができた。
「立ってられない?」
「ぅぅ……」
囁くように耳元で確認をされる。恥ずかしい。けどそれは事実で……。こくり、と小さく頷くと黒瀬が吐息で混じりに笑った。
(耳、やめてくれ……っ)
居た堪れなくて顔が赤くなる。身体の震えも止まらないのはきっと寒さのせいだけじゃないと、さすがの俺も気付いている。
「お前に触りたい」
じっと目と目と合わせて告げられた、黒瀬の突然のお願いにぎょっとする。今までキスは数え切れないほどしてきたが、身体に触れたいと言われたのは、以前の帰り道に触られ謝罪を受けてからは初めてのことだった。
黒瀬とのキスは気持ちがいいのは確かだし、正直流されまくっているのか自覚していた。それでもそのまま受け入れ続けて来てたのは、黒瀬が必ず確認を取ってからしか動かないということが分かっていたからだった。
しかし、こうして初めて面と向かってキス以上のことを求められると、一体どうしたらいいのかが分からなくなってしまう。このまま進んでしまって戻れなくなったりしないだろうか?
こんな状況に陥っても尚、俺は女の子が大好きで、女の子との初体験を心から夢見ているのだ。
きっと黒瀬に触られるのは気持ちがいい。
きっと、キスよりも。
それが理解できている分、俺の心は大いに揺れて、最終的に出した結論は、とても曖昧で、断らないといけないと分かっているのに「もっと気持ちがいいこともされたい」という願望が透けて見えるものだった。
「ちょ、直接はダメ……ッ」
恐らく俺の言葉にある裏の気持ちまでを正確に理解した黒瀬は、うっそりと嬉しそうに笑って動き出す。
「じゃあタオル越しに、な」
「ぅあッ……ん」
動き出した手は一枚のタオルを挟んで背骨をなぞるように降りていき、そのまま腰から臀部近くをすりすりと広範囲に撫ぜられる。
少しずつ、少しずつ、俺の身体を確かめるように這わされる、タオル越しでも熱い大きな手の動きが与えてくる感覚を、俺は息を止めながら意識を集中して追いかけた。
肩から掛かっていたはずのタオルはいつの間にか黒瀬の手を覆うためだけの物になっていた。
「ひぅ……!」
優しく撫でまわるだけだった感覚に徐々に慣らされ、ただただ与えられる気持ちよさにぞくぞくとしていたら、突如グリリッと尾てい骨の下を押される。
初めて与えられた力強い感覚から、背筋にゾクリと今までに無い快感が駆け上がり、押し込まれた指のすぐ下にある尻の穴がキュッと締まった。
「な んで、そんな所押さないでっ!」
「どうして?」
「どッ……どうしてって……それは……」
「気持ち良くなったか?」
「ッ なってないっ!」
そんなところで気持ちよくなるだなんて、なんだか変態だと告白しているような気がして、思い切り否定してしまう。
(これは気持ちよかったんじゃなくて、びっくりしただけ……!)
涙目で震えながら否という俺を哀れに思ったのだろうか。黒瀬はそれ以上追及してこなかった。
「今日は、これ以上はやめとくか」
その一言に、なんだかホッとしたような、残念なような、もやもやした気持ちが胸に広がった。
うん。とも、いや。とも答えられず、口を結んで目の前にいる黒瀬を見つめる。目が合って、ぐっ、と息を詰まらせた黒瀬はそのまま俺の手を引き寄せ、がばりと身体を抱き込んできた。
「ぁーー、……まだ我慢……」
「ぅぶッ! 苦しいよぉ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、胸筋に顔が押し付けられる。隠れ筋肉だるまの黒瀬に力任せに抱かれたら苦しくなるのは必至だ。あまりの息苦しさに、身じろいで少しでも酸素を得ようともがく。
命の危機に瀕している俺に気付いていないのか、より一層強く抱きしめてくる黒瀬と、逃げ出そうとする俺の攻防は静かに続き、そして突然に終わりを告げる。
「……っぁん!」
今までに無いくらい、甘く、高い声が俺の口をついて出た。
2
お気に入りに追加
1,347
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる